第18話 私のどこが好き?
結局、吾妻君が私のどこが好きかは聞けなかった。
付き合って欲しいって言った時に、吾妻君も私に一目惚れしてくれてたとは聞いたけど、いったいどこに? って思わなくもない訳で。もしそれが聞けたら、少しは吾妻君の彼女ですって自信もてるかもしれないし。
だから、是非とも聞いて見たかったんだけど、二人(佳苗ちゃんと遥君ね)の前では絶対に言わないって、吾妻君は頑として喋らなかった。まさかだけど、私の好きなところがない……から言えなかったってことじゃないよね?
結局、全く口を割らない吾妻君を放置し、遥君は私にアルバムを見せてくれた。中学校と高校の卒業アルバム。中学生の頃から吾妻君は大きくて、でも顔つきは今より大分幼くて……、もうキュン死にしそうなくらい萌えた。あんまりに私が可愛い可愛い連呼したせいか、途中から吾妻君が能面のような無表情になっていたのは、呆れられてしまったのかな? 遥君なんかは、私がアルバムを写メとってたらゲラゲラ大笑いしてたし、佳苗ちゃんは少し呆れながらも、家にある吾妻君の写真(小学生の時からの! )をくれるって約束してくれた。
「じゃあ、修斗、ちゃんと莉奈のこと駅まで送ってよ。莉奈、また来週ね」
「うん、佳苗ちゃんまたね」
佳苗ちゃんと遥君が玄関までお見送りに来てくれて、私は「お邪魔しました」とペコリと頭を下げた。
「莉奈ちゃん、また来てね」
「はい、是非」
「修斗はもうこっちに戻ってくんなよ」
「へぇへぇ。じゃあな」
「おう」
吾妻君がスニーカーを履き終わると、玄関の扉を開けて私を先に出してくれる。振り返って手を振ると、佳苗ちゃんの腰に手を回した遥君が手を振ってくれ、佳苗ちゃんもそんな遥君の手の甲をつねりながらも、私に手を振ってくれた。
遥君の家を出て、二人でゆっくりと駅に向かう。拳一つ分くらい離れた距離が少し寂しい。
手……繋いだらダメかな?
こんなにガッツリ二人っきりなのは、初めて会った入試の日と、お付き合いしましょうとなった新歓ハイクの時以来。しかも今は名実共にカップルなんだし……。
私は吾妻君の袖を引いた。
「どうした? 」
吾妻君は私の買い物した荷物を持ってくれている。
「あのね……」
気がついてくれないかな? そんな思いを込めて見上げるけど、吾妻君は立ち止まって少し屈んでくれるだけで、私の手を握ってはくれない。
「遥君、面白い人だね」
「ああ、ちょっと傍迷惑なとこはあるけどな」
「ね、少し。ほんの少しでいいから二人で話したいな」
ちょうど目の前にいい感じの公園があり、ちょいちょいと袖を引くと、吾妻君も頷いてくれる。
「ね、この公園とかも三人で遊びに来たりしたの? 」
「いや、佳苗とは小学校から一緒だけど、一緒に遊んだりしたことはなかったな。遥は中学からだから、公園で遊んだりはなかったよ」
「そっかぁ」
二人で並んで公園のベンチに座ったけど、何でだろう? 私の荷物を真ん中に置いたのは。まさか、避けられてる?!
寒い季節なら、色々理由をつけてくっつけるかもしれないけど、今は暑くもないけど寒くもない中途半端な季節。いつもなら気持ちよくて好きな季節だけど、吾妻君にくっつきたい私としては、何かくっつける理由を探したい!
とりあえず、邪魔な荷物は横に移動させてみた。
膝を向けるようにして吾妻君の方を向くと、吾妻君がほんのわずか横にずれる。私と逆の方向にだ!
なんかショックで泣きそう……。
「吾妻君、もしかして私に言われたから無理して付き合ってくれちゃったのかな? 」
吾妻君なら優しいから、私に恥をかかさないようにお付き合いにOKをくれた可能性もあるよね。もしくは、私の勢いに押されてとか。
「え? 何言ってるの? そんな訳ないじゃん」
「だって、今避けたもん」
「避けてなんか……」
「嘘。じゃあもしかして私臭い?! だから離れたの? 」
「そんな訳ないだろ」
私が吾妻君に詰め寄ると、吾妻君はのけぞり過ぎてベンチから落ちそうになる。
「ほら! やっぱり避けてる」
「違う! これはそうじゃなくて」
「じゃあ、私のどこが好きか言って。無理して付き合ってないなら言えるよね? 」
スッゴク面倒くさい女だって思われるよね? 嫌われちゃうかな? フラれちゃったらどうしよう?!
吾妻君を見上げて、零れそうになる涙を寸でで止める。身長差がいっぱいあって良かった。あと一度下を向いたら、絶対に涙出ちゃってたもん。
「笑顔……笑顔が好きだ」
答えてくれた!!
しかも笑顔とか、泣いてる場合じゃないじゃん。
「あとは、あとは? 」
「人の意見に左右されないとことか、裏表ないとこ。猪突猛進みたいなとこも元気がいいよね。見た目も凄く可愛いと思う」
人の意見に左右されないって、頑固ってことだよね?
裏表がないのは、単純ってこと?
猪突猛進って、誉め言葉だっけ?
でも、そんなことより可愛いって言ってくれた!!
「吾妻君大好き! 」
抱きつきたいのを我慢して、吾妻君のTシャツをギュッと握ってしまう。
吾妻君の目が左右に揺れ、それから真っ正面から見下ろされる。その目力は半端なくて、震えちゃうくらいカッコよくて、私は耐えられずに目を閉じた。
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