第17話 色々なお買い物

「あっ……ラインきた」


 私はラインの通知音を聞いて、鞄からスマホを取り出した。


 今日は佳苗ちゃんと大学帰りにお買い物に来ており、目当ての買い物が終わったから喫茶店で休んでいた。吾妻君が一緒にいないのは、吾妻君が入りにくいお店に買い物に来たかったからで、ついでに私も男の子を伴って買い物に来たい場所じゃなかったから、大学でバイバイしたのだ。


「ごめんね、ちょっと見るね」


 見ると、吾妻君からのライン。私はすぐに返信する。何回かやり取りをし、何を買ったのか聞かれ、洋服とか色々とうった。

 嘘はついていない。

 色々の方が目的で来たんだけど、洋服もワンピースを一着買ったんだから。


「見たい?! 」

「どうしたん? 」


 吾妻君からきたラインを見ていた私が思わず叫び、佳苗ちゃんが何何? て覗き込んできた。


「おっ! 修斗にしては頑張ってラインしてんじゃん」

「大変、佳苗ちゃん! 吾妻君が今日買ったの見たいって! 」

「見せてあげればいいじゃーん。その為に買ったんでしょ」

「万が一……だよ」


 色々買った物……それはいわゆるランジェリーって総称される物で、今まで私が着ていた物はただの下着だ。大学生になって綿パンなんて有り得ない! と、佳苗ちゃんに連れられてきたランジェリーショップは、私の下着の概念を大きくかえた。

 スポーツブラに苺の綿パンツなんて組み合わせもザラだった私は、色々小さすぎて(泣)、私サイズの素敵な大人下着(ランジェリー)なんて存在しないって思ってた。それが、私のサイズでもあるんだと知った衝撃! 寄せて上げるような贅肉がない私は、残念ながら谷間はできなかったけど、それでも見せても恥ずかしくない素敵なランジェリーを買うことができた。

 一つは佳苗ちゃんとお揃いのちょっとエッチなやつ。いや、佳苗ちゃんがつければかなりセクシーでも、私だと可愛らしいでとどまるのは何故だろう? サイズの違いだけじゃない気がする。


「返事しないの? 」

「あ、そうか! 」


 頑張ってみる! と返信すると、佳苗ちゃんが私の腕をグリグリしてきた。


「頑張っちゃうんだー。やらしいー」

「いや、そういうことじゃなくて! もう、やだァッ」


 スマホを片手に悶絶してると、佳苗ちゃんがスマホ画面を見て、ニマニマ笑いを大きくする。そして、私の手からスマホをスルリととると、何やら打ち込んでいる。


「頑張ってだってさ。だから、頑張るぞ! のスタンプ送っといた」


 可愛い熊ちゃんが、頑張るぞと片手を振り上げてピョンピョン跳んでいた。


「さてと、帰りますか。ね、ちょっと遥んちに寄ってかない? 修斗もいるみたいだし、駅まではちゃんと修斗に送らせるし。こっからだと、駅に戻るのと、修斗の家に行くのと、同じくらいの距離だからさ」


 私達は、大学の最寄り駅の隣の駅に買い物に来ていた。駅ビルで少し洋服を見て、佳苗ちゃんおすすめのコスメを試し付けし、ランジェリーショップまで少し歩き、今はその隣の喫茶店にいる訳で、確かに少し戻る感じで歩いているなとは思っていた。

 私も大学最寄り駅まで戻った方が定期が使えるから良いのだけれど、知らない人のおうちにいきなり突撃して良いものか悩んでしまう。


「迷惑じゃない? 」

「全然! 遥も莉奈に会ってみたいって言ってたし。修斗の彼女なんて激レアだから、別れる前に会いたいなんてほざいてたよ」

「別れないもん! 」


 私は絶対吾妻君の彼女の座を死守するつもりだけど、吾妻君にこんなガキとは付き合ってられないってフラれる可能性はあるかも!

 佳苗ちゃんレベルは難しいかもだけど、十分の一くらいの色気を身に付けねば!!


「ま、莉奈が愛想尽かさない限り大丈夫だと私は思ってるよ」

「なら一生大丈夫! 」


 一生?!

 ヤダッ! 一生とか、もしずっと一緒にいられたら、いつかは吾妻莉奈になったりできる?! 吾妻君のタキシード姿!! 想像するだけでカッコ良くて鼻血出そう。


 一人でキャーキャー悶えていると、佳苗ちゃんが伝票を手に取って立ち上がった。


「なんか、私も莉奈とは一生付き合う気がしてきた。家族ぐるみの付き合いってやつ」

「うわーッ、いいね。それって理想! 」


 佳苗ちゃんも遥君と将来を考えてるってことかな? とか言っちゃった。

 佳苗ちゃんとこは付き合って二年って言ってたけど、中学からの知り合いらしいし、お互いによくわかり合えてるんだろうな。

 私も早く吾妻君ともっと仲良くなりたいな。


 ★★★


“ピンポーン、ピンポン、ピンポン、ピンポン……”


「佳苗ちゃん、鳴らしすぎじゃ……」

「大丈夫、大丈夫。いるの遥と修斗だけだから。おじさんもおばさんもいつも仕事遅いんだ」


 佳苗ちゃんがインターフォンを連打しているのは、住宅街の一軒家。周りと比べると、それなりに大きなおうちに見えた。

 吾妻君の悪友みたいな言い方してたけど、実はお坊っちゃまみたいな?


「カナ、うるせーから! 」


 男の子が一人出てきた。

 吾妻君よりは小さいだろうけど、それでも180センチくらいありそうな細マッチョな体型、顔立ちはタレ目が優しそうな雰囲気を醸し出している。ただ、金髪。パッ金。キレイなんだけど、凄く似合っているけど……なんか少しチャラっぽく見えて、一人だったら絶対に近寄らないタイプだ。

 吾妻君の悪友プラス佳苗ちゃんの彼氏なのに、失礼な感想ごめんなさい!


「あれ? この娘もしかして……。修斗の? 」

「当たりー! 」

「伊藤莉奈です。突然お邪魔してごめんなさい」


 私が佳苗ちゃんの後ろでお辞儀をすると、入って入ってと、玄関を大きく開けてくれた。佳苗ちゃんに腕を引かれて、遥君のおうちにお邪魔する。玄関で靴を脱ぎ、扉を開けるとすぐに広いリビングになっていた。リビングの先に扉があり、そこを開けると階段で、二階に遥君の部屋があり、吾妻君は遥君の部屋にいるらしい。


「私、お茶持ってくから、先に上行ってて」


 佳苗ちゃんはリビングの奥の違う扉を開けて中に入ってしまった。お茶を持って行くと言うのだから、あっちにキッチンがあるのだろう。


「莉奈ちゃん、こっちこっち」


 気安い遥君は、私の腕を引っ張って階段を上がり、一番手前の部屋のドアを開ける。自分の部屋だから当たり前なんだろうけどノックはしない。

 部屋の中では、吾妻君が遥君のベッドで横になって何やら雑誌を読んでいた。


「修斗、お客さん」

「ヘッ? ウワッ! 伊藤!! 」


 吾妻君はノンアクションで手も使わず起き上がると、ベッドに散乱してた雑誌を一纏めに枕の下に突っ込んだ。


 あの慌てよう……吾妻君も男の子ですからね。多分、そういう雑誌なんだろう。従兄弟の武ちゃんの部屋も、エッチな雑誌や漫画が山積みになっていた。武ちゃんちに行ったのは中学の時だから、今もそうかは知らないけど。


 でも、少し複雑。

 他の女の子のエッチな写真なんか見ないで欲しいのと、逆にどんな娘が吾妻君のタイプなのか見てみたい気もする。


 なんとなく気まずい雰囲気が吾妻君と私の間に流れるも、部屋の主である遥君は気にせず私をローテーブルの前に連れてくる。


「悪いな、クッションとかないから。あ、ベッドに座る? 」

「大丈夫です、床で」


 まさか、初めて会った男の子のベッドになんか座れない。私はフローリングに直に座ると、ポテチをすすめられた。安定のノリ塩味。美味しいです。


「ね、莉奈ちゃんはこいつのどこが良かったの? 」


 遥君は私の隣であぐらをかき、いきなり直球な質問をしてくる。


「エッ? 全部? 」

「全部?? 見た目とか怖くないの? 」

「怖くないですよ? そりゃ背が大きいから威圧感があるのかもですけど」

「顔は? 厳ついよね」

「男らしくてカッコいいと思います。目とかキリッとしてて、一見きつそうなのに、たまにフワッて弛むんです。そういうの凄くドキドキします。見た目もですけど、中身も凄く優しいですよね。目に見える優しさもですけど、さりげないとこも優しいです。私のペースで歩いてくれたり、ドアを開けて待ってくれたり、私が届かないとことか、何も言わないのに取ってくれたり。ほんと、何気ない動作が優しいんですよ」


 吾妻君がどんなに素敵かを思わず力説してしまう。

 だって、本当に吾妻君のことが大好きだから。


「修斗、良かったね。ベタ誉めじゃん」

「凄い、莉奈ちゃん。直球なんだね」


 佳苗ちゃんがコーラとグラスを持ってきて、ローテーブルの上に置いた。


 そうだ、吾妻君の素敵なところを伝えなきゃって力説してたら、本人の存在を忘れてた。ベッドの上の吾妻君は、大きな右手で顔を覆っていた。


「とにかく莉奈ちゃんが修斗のことが好きだってのは伝わった。で、修斗は莉奈ちゃんのどんなとこが気に入ったの? 彼女がこんだけ言ってくれたんだから、おまえもちゃんと言えよ」


 えっ? それは是非聞きたい!

 聞きたいです!!




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