第10話 新入生歓迎ハイク1

 オリエンテーション合宿も終わり、GWがやってきた。

 GW最初のイベントは、武ちゃんに入らされたサークルの新入生歓迎ハイクだ。一応まだ仮入部の状態で、このハイクが終わったら新入生歓迎コンパでOBの先輩方に御披露目になって、やっと本入部になるらしい。

 サークルと銘打っているけど、W大生しか受け入れていないのと、なんか縦の繋がりが云々って……武ちゃんは自慢げに言ってたけどよくわからなかった。


 サークル活動としては月一の飲み会と、夏と冬に二泊三日くらいの合宿(何をするかは不明)、新入生歓迎会ハイク、新入生歓迎コンパ、納会などの大きな飲み会があるだけらしい。

 高校の部活みたいに、毎週集まって活動するみたいなことはないらしい。WSSとかいう名称らしいけれど、W大学学生の為の……サークルとか、なんか長ったらしい名前だった。

 入部になんか制約があるらしくて、本来は入試で何番以内とか色々……、私は武ちゃんの親戚枠プラス両親共にW大ってことで入れたらしい。別に無理に入りたくもなかったんだけど。

 吾妻君も佳苗ちゃんも、この制約はなんなくクリア。二人共、凄く賢いらしい。さすがだね。


 という訳で、私達はWSSの新歓ハイクの為にどこぞの川原にきている。今年のハイクはBBQらしく、とりあえず私と佳苗ちゃん、他五人の一年女子が食材の準備中だ。吾妻君は、一年男子らと向こうで会場設置中。

 手早くテントとか組み立てしててカッコいいな。他の男子がやり易いように、然り気無く手を貸してあげたりしてるのに、凄く怖がられてるみたい。

 あ、ほら、吾妻君が取ってあげたのに、そそくさと逃げちゃったよ。ありがとうくらい言えっての!


「莉奈、手止まってるよ」


 佳苗ちゃんが、私の方を見てクスクス笑う。私が吾妻君の方を見て百面相をしているのが面白いらしい。


「だって佳苗ちゃん、吾妻君がせっかく手を貸してあげてるのに、皆お礼も言わないんだよ」

「あー、またビビられてるね」


 また……なんだね。幼馴染みの佳苗ちゃんがまたって言うくらい、見慣れた光景なんだ。そう思うとつい眉が下がって情けない顔になってしまう。


「伊藤さん達って、あの吾妻って人と知り合いなの? 」


 他学部の女の子が話かけてきた。


「うん、私は腐れ縁。小学校から一緒なの。莉奈は大学から友達になったんだよね」


 友達なんて烏滸がましいけど、そう言って貰えたら嬉しいな。そんな気持ちでコクリと頷く。


「あの人って、なんか凄く怖いって噂なんだけど……」

「怖くないよ! 凄く優しいよ!」

「優しいかどうかはまぁわからないけど、手さえ出さなきゃ無害だよ。あいつ、見た目があんなだから、昔からちょくちょくヤンチャな人達に絡まれてさ。対処してたら時の人になっちゃったみたい。あいつの友達が最低な奴で、そっちと噂がこんがらがった部分もあるかな」


 友達が最低? 吾妻君の友達なのに?


「ほら、女関係の噂はそっちだから。まぁ、レイプとかはしてないみたいだけど、一時期来る者拒まずみたいな荒れてた時期があって、それが修斗のことみたいに噂されたみたいね」


 百人斬りはそちらの人だったのか。何気に佳苗ちゃんに怒りのオーラが漂っているみたいなのは何でだろう?


「そう……なんだ。私も都内の高校だったんだけど、吾妻って人の噂話は聞いてたから。あの人がいるんならサークル入るの考えてたんだけど……。大丈夫かな? 」

「大丈夫だよ! ね、佳苗ちゃん」

「大丈夫、大丈夫。莉奈、あっちの男子ズにお茶持って行ってあげなよ」


 佳苗ちゃんはお気軽に答え、烏龍茶のペットボトルと紙コップの乗ったお盆を私に渡してきた。


「うん、行ってくる」


 お茶を持って男子達に近付くと、真っ先に吾妻君が気が付いてくれて、私の所に来てお盆を持ってくれた。


「お茶ですよー。少し休憩どうぞ」


 私は吾妻君を引き連れる形で、男子達の所を回りお茶を配った。皆がビックリしたように私達を見る。吾妻君を見て私を見るから、頭が凄く上下して何かおかしい。


 身長差何センチかな? 私が145だから、吾妻君は180……190あるのかな?


「ね、吾妻君って何センチ? 」

「189……190になったかな。この間の身体検査で190って言われた。高校の時は189だったのに」

「ウッソ?! まだ伸びてるの?羨ましい! 」

「伊藤、小こいもんな」


 私と吾妻君の会話を聞いていた同じ学部の男子が会話に混じってくる。


 私と普通に会話している吾妻君に、親近感を感じてくれたのかな? 吾妻君は怖くないんだよということを知らしめたくて、私は手を精一杯延ばして吾妻君の顔に触れる。本当は頭を触ろうとしたんだけど届かなかった。


「小こい言うな。私だって頑張れば吾妻君の頭に……触れなかった」


 吾妻君は目元を少し弛める(吾妻君最大の微笑みって知ってるんだから)と、膝を屈めて私の方へ頭を差し出してくれた。


「ほら、これなら届くだろ」


 優しい!

 なんか癒される!

 こんなに大きくて男らしいのに、可愛いって反則だから。


 私は思わず吾妻君の頭をワシャワシャと撫でてしまう。髪の毛はワックスとかで立ててるのかと思っていたけど、サラッとした手触りで硬めだった。ツンツンした手触りが面白くて、つい堪能してしまう。


「吾妻って、噂と違うのな」

「本当、思ってたのと違う」


 回りの男子達が近寄ってきて、吾妻君に話しかける。


「噂は噂でしかないんだよ。都市伝説に真実はごく僅かしかないでしょ。あれ、真実は皆無かな? とにかく、吾妻君はいい人なんだから」

「伊藤、男にいい人は誉め言葉じゃないぞ」


 私が胸を張って言うと、男子の一人がからかうように言ってきた。


「嘘、誉め言葉だよ。吾妻君は逞しくて男らしくて、そんでもって凄く優しいんだから! 」


 私が言い切ると、吾妻君はいつもの強面のまま何故か横を向いて口を押さえてしまた。


 あれ? 当たり前のことを力説した私って痛い子?


「まあ、なんだな。伊藤が吾妻にベタ惚れなんはわかった」


 生温い視線を向けられ、私の顔はボッと赤くなる。多分全身真っ赤かも。


「そ……そんな私なんかが烏滸がましい! 吾妻君には可愛い彼女がいるんだから」

「いや、いないし?! ってか、誰それ? 」


 吾妻君が最速で返事をする。


 エッ? いないの?


「佳苗……ちゃんは?」

「佳苗? あいつは遥の彼女だし」


 遥……前に一度聞いた名前かも。女の子だと思っていたけど、男の人の名前だったんだ。しかも、佳苗ちゃんの彼氏とか。


「遥……君? 」

「えっと、中学からの知り合いで……、あいつのせいでかなり勘違いされて、ないことないこと言われたり、喧嘩ふっかけられたり……。悪友? みたいな」


 もしかして……百人斬りの人?

 その人が佳苗ちゃんの彼氏?


「じゃあ吾妻君に彼女は……? 」

「いない! いたことない! 」

「本当?! 良かった! 」


 思わず心の声が駄々漏れてしまい、さらに私の顔が熱くなる。


「あー……、ここは若い二人でって感じか? 俺らはあっちで食材運びしてくる。おまえらはここの後片付けよろしく」


 男子達は、吾妻君の背中や肩を叩いて、吾妻君からお盆を受け取り行ってしまった。


「あの、えっと……」


 二人で取り残され、私はどうしたら良いかわからずモジモジしていると、吾妻君が私の腕を引いてテント前に置いてある折り畳みの椅子に座らせてくれた。吾妻君も他の椅子を引き寄せ、私の目の前に座った。

 座ると、あんなにあった身長差がかなり緩和される。


 吾妻君、足長いもんね。スタイル良くてカッコいい……。


 何事も、吾妻君=カッコいいに結びついてしまう。吾妻君に彼女がいないってわかったら、もうその思考が加速して、大好きとしか思えなくなる。


 アーッ、吾妻君の彼女にしてくれないかな?

 こんなチンチクリンだけど、頑張って吾妻君の歩幅に合わせて歩くようにするし、20センチヒールだって履いちゃうよ。それでも25センチも差があるけど。ヒールで競歩か……、練習あるのみだな。


 私の頭の中は、ヒールを何処で買うか、練習の為にはストップウォッチとか必要かな……など、何故かヒールで競歩のイメトレでいっぱいになってしまった。




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