第7話 オリエンテーション合宿3
オリエンテーション合宿初日は、五・六人のグループにわかれて、先生やホストの先輩方を交えてのディスカッションをするらしい。
勉強やこれからの進路などに対する堅苦しい話から、サークル活動や大学周辺の穴場飯処の話まで。武ちゃんは後者担当でオリエンテーションに参加したみたい。
「やっぱさ、サークルはうちの大学主催のがベストじゃん。他大学のとかはさ、正直ヤりサーみたいなんもあるし。男子はいいよ。でも女子はね。ほら、サークルで彼氏とか作るにしても、彼氏のレベル落としたくないっしょ? うちのサークルなら他大学不可にしてっから、同じレベルの相手が見つかるって訳」
従兄弟がクズだ……。
何故に私の座るテーブルに武ちゃんがやってくるんだろう?
話す内容が最低過ぎて、血の繋がりを猛烈に否定したい。
「ま、こいつみたいに超マグレで合格した奴もいるかもしれないけどな」
私を指差すのは止めて下さい。
「莉奈はサークルどうする? 一緒のに入ろうよ」
佳苗ちゃんは武ちゃんをガン無視して、私に話かけてくる。身体の向きからして、真向かいの武ちゃんではなく私の方を向いている。私の隣の吾妻君を見ているのかもしれないけど。
「莉奈はうちのサークルに入部決定。もう入部届け書いて出しといたし」
「え、やだ! 」
「おまえみたいにドンクサイの、ヤりサーにひっかかるのが落ちだ。うちなら俺の目があるしな。まさか俺の面子潰さねぇよな?!」
「……わかったよ」
凄く嫌だけど、武ちゃんは三年。四年はほとんどサークル活動せず、現役OB扱いらしいから、武ちゃんがサークルで大きな顔をするのもあと一年。一年我慢すれば、武ちゃんいなくなるし、サークルというのは入ってはみたかったから。できればもっと熟考したかったけど。
「じゃあ私も入る」
「俺も」
間髪いれずに佳苗ちゃんと吾妻君が言う。
佳苗ちゃんはともかく、吾妻君は何で?
一緒のサークルとか嬉し過ぎるけど……、いや、佳苗ちゃんと一緒にいたいからだよね。喜んだら駄目だ!
武ちゃんは、吾妻君から入部届けを受け取って顔がひくついている。何でかわからないけど、吾妻君のこと苦手みたいだ。吾妻君もさっきの最低発言を聞いたからか、武ちゃんに向ける表情が三割増し怖いし。
なんか、両脇に佳苗ちゃんと吾妻君がいると凄く安心感がある。本当は私が真ん中とか駄目なんだろうけど。
それからホスト交代で、一日目のオリエンテーションは終わり、親睦会という名前の宴会(未成年はジュースで乾杯)にが始まった。
女子は親睦会前に入浴し、みなラフな普段着で再度食堂に集まった。さっきはテーブルを八人がけでグループ分けされていたが、今は宴会するからか縦に三列に長く並べられていた。
椅子は先生方の席だけで、学生は立食になるらしい。座りたかったら、自分で椅子を持って来いスタイルだ。
さっきのオリエンテーションから、定番の佳苗ちゃんと吾妻君に挟まれての立ち位置。吾妻君は強面の大和男子みたいな顔して、実は気遣いの人で、届かないとこの料理を取り分けてくれたり、ジュースがなくなったらついでくれたりしていた。
佳苗ちゃんが向かい側の女子と話だし、なんとなく吾妻君と会話する流れになる。
お礼……言いたいんだけど、私のこと覚えてないよね?
でも言いたい!
「あの! 」
「ん? 」
身長差がありまくりだから、私は目一杯上を向き、吾妻君はさりげなく中腰になってくれる。
「私、吾妻君と会うの大学が初めてじゃないの」
勢いで言ってみた。私だってわからなくても、転んだ女子を助けたって記憶はあるだろうから。
「……足と手、治った? 」
「覚えててくれたの?! 本当は、大学で見かけてすぐにお礼言いたかったの。でも、声かけにくくて」
「ああ、俺、見た目厳ついからな」
私は慌てて首を横に振る。
「そういうんじゃないの。私が……その、男の子が少し苦手で。ほら、背がね、小さいから、からかわれることが多くて」
中学くらいまでは、同級生の男の子によく「チビッ子」とか「発育不全」「幼児体型」とか言われて、頭を強く押さえつけられたりしてた。「胸無さすぎじゃね」とか言われて、身体を触られそうになったこともあった。身長のことは勿論、年頃の女子としては胸の大きさは重要事項で、最大の悩みだったから、気軽にからかってくる男子が凄く嫌いだった。
高校になると、そこまで大っぴらにからかってくる男子はいなかったけど、「ちっちゃくて可愛い」は私には誉め言葉でもなんでもなくて、そう言われる度に「ちっちゃいは余計です! 」と言い返していた。
「そっか、じゃあ俺もあんま近寄らない方がいいか? 」
「吾妻君は大丈夫! ほら、佳苗ちゃんの……あれ(恋人)だし、吾妻君は私のことからかってくる男子とは全然違うもの! 凄く優しい人だって知ってる! ……から」
言っていて恥ずかしくなってきた。顔が真っ赤になってる気がする。
「大丈夫なら……良かった」
「うん。……なんか熱いね。人がいっぱいいるからかな? 」
佳苗ちゃんの方を向いて軽く顔を扇いでいると、いきなり後ろから腕を引っ張られた。
「莉奈、ちょっと」
振り返らなくてもわかる。この無駄に大きな声は武ちゃんだ。
「何? 」
武ちゃんと親睦ははかりたくありません。
「いいからちょっと! 」
グイグイ引っ張られて、無理やりミーティングルームから連れ出されてしまった。
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