第3話 オリエンテーション合宿 1
二泊三日のオリエンテーション合宿は、千葉の大学保有の施設で学部ごとに行われる。大学集合、バスで一斉に移動ということで、朝七時に集合させられた。
理学部総勢二百十四人。うち、オリエンテーション合宿に参加するのは百三十人らしい。
私も佳苗ちゃんっていう友達が出来なかったら参加してないかもだったから、この参加人数が多いのか少ないのかはわからない。
オリエンテーション合宿の目的は生徒同士の親睦、プラス先生達への顔繋ぎということで、先生達の参加も多い。少人数でグループを作り先生達とディスカッションすることで、将来進みたい分野やそれを研究しているゼミを知るらしい。また、先輩達もホスト役として参加し、色々手助けしてくれるらしい。
社会が苦手、どちらかというと数学の方がまし……という理由だけで理学部にきてしまった私からしたら、大学で何をすればいいのかもよくわからない。わからないから、聞いてみようと思った訳だけど、全く話についていけなかったらどうしようと、若干の不安はある。何せ、奇跡の合格であり、本来はうちの大学合格率三割の女ですから、みなさんと頭のデキがちょっとかなり残念なのでは……と思わなくもない。
「ね、うちの学部って当たりだと思わない? 」
「ま、男子多いしね」
「オタクっぽいの多いかと思ってたけど、イケメン多くない?! 」
「多い、多い! 有栖川君とか超良くない? 松井君も」
「斎藤君や金子君も。長野君なんかもアリかな」
「私、絶対坂本君!! 坂本君一本で! 」
「一本でって、あんた彼氏いるとか言ってたじゃん」
「それはそれ、これはこれ」
頭のデキは違くても、会話は普通の女子と変わらないみたい。
男女別に分かれたつもりはなかったのだが、行きのバスはほぼ女子のみになってしまった。そのせいか、ノリが女子校というか、かなりかしましい。理学部は女子が少ないし、つい少ない女子で固まってしまいがちになるが、全員と仲良しということもなく、なんとなく友達という感じだろうか。
「カナちゃんは誰がいい? 」
前の席に座っていた渡辺さんが振り返って佳苗ちゃんに聞いた。
吾妻君……って答えるのかな?
「あいつってこんなんだったんだよ」って話はちょこちょこ聞いていたし、逆に佳苗ちゃんから吾妻君以外の男子の話を聞いたことがなかったから、佳苗ちゃんは吾妻君のことが好きなのだと思っていた。
本当は、吾妻君の存在を知った時点で、きちんとお礼を言いたかったし、できれば色んなことをお話してみたかった。少し顔は怖いけど、大きくって包容力があって、とっても優しい吾妻君のこと、少し……かなり、良いなって思ってしまったから。
でも、教室では近寄りがたいオーラ(私が緊張しすぎてそう感じるだけだけど)出してるし、何より友達の好きな人かもしれない訳で、だから、今まで声かけられなかった。
第一、吾妻君だって私の顔なんか覚えてないだろうし。
「強いて言えば……有栖川君かな。まぁ、眺める専用だけど」
「あれは別枠だよね。同じ人間って思えない。実用的には誰よ? 」
「アハハ、一応彼氏いるし」
彼氏?!
やっぱり吾妻君?
「彼氏いるんだ?! ウワーッ、そのおっぱい独り占めしてる奴がいるなんて、羨ましいですな。どのくらい付き合ってるの? 」
「二年……かな? 幼馴染みなんよ」
やっぱり吾妻君……だよね。
ズーンっとショックを受けつつ、作り笑いをなんとか貼り付け、二人の会話に相槌をうつ。
「リナリナは? 」
「私は彼氏なんかいないよ」
「気になる人いないの? 」
吾妻君。
真っ先に浮かんだ名前を打ち消す。
「まだ良くわからないよ。男の子達と喋ったことないし、どんな人かもわからないんだもん」
「リナリナは中身重視な訳だ」
「じゃあ、修斗なんかどう? 」
佳苗ちゃんがぶっこんできた意味がわかりません。何で吾妻君? 他の人に薦めたら駄目なんじゃないの?
自分の彼氏は中身も良いよってことかな?
「修斗って誰? 」
「吾妻修斗。ほら、ガタイが良くて顔がこっわい奴。髪の毛ツンツンの。いつも窓際の真ん中くらいに座ってるかな」
「ああ、わかった! でもあの人ってヤバイ系って聞いたよ? 高校の時は喧嘩三昧で無敵だったって」
「都市伝説ね。そこまで酷くないよ。見た目怖いから敬遠されがちだけどね」
「カナちゃん、吾妻君と同じ高校だったの? 」
「家近所でさ、小学校から一緒。悪い奴じゃないよ」
知ってる。
吾妻君、凄く優しい人だから。見た目だって、少し強面だけど、パーツは整ってるよ。目付きが怖いだけ。
「私は無理だな。夜中に目が覚めてあの顔が目の前にあったら叫んじゃいそう」
渡辺さん! 彼女の前でその発言はアウトだと思うから。
私だったらご褒美です! 言えないけど。
でも、もし吾妻君が目の前で寝てたら、ドキドキし過ぎて絶対寝れないと思う。言えないけど。
吾妻君ネタは終了し、うちの学部イケメン選手権が開催された。バスに乗っていた女子、かなり仲良くなったんじゃないかな。オリエンテーション効果だ。
私は吾妻君に百票くらいいれたけどね。言えないけど。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます