ブルーハーツはどこへ

たろう

Prologue

歓声と拍手が鳴り響く。

目に映るのは会場を埋め尽くすほどの観客、あの日俺は絶望した。

絶望の末にあったのは紛れもない死だったのだ。

だが今俺は何の奇跡かこの足で大地を踏みしめている、立ってその身で歌いギターをかき鳴らして聴衆からの歓声を受けているのだ。


だから今こそ、あの時俺たちの夢を嗤った奴等に言ってやろう。

「ざまあみろ。俺はここで幸せになってやる。」と・・・

そして無念にも死んでいった友に向けて、歌ってやる。



--2年前--


バンド“Cloverクローバー”。そのメンバーである俺、棚部雪人たなべゆきひとはリードギターを担当している。特徴が茶髪ってところしかないどこにでもいるモブ顔だ。

「おーい!新しい曲書いてきたぜー!」

「どんな曲なんだ?ヒロ。」

曲を書いてきてくれるのは今来た本田康広ほんだやすひろ。俺たちはヒロって呼んでる。高校の時転校してきて仲良くなった。黒髪黒目だが全体的にパーツが整っている王子様的なイケメンだ。ギター・ボーカルをやっている。

「この前鬼みたいなベースの譜面持ってこられたときは泣くかと思ったけどなあ」

「おまえ半泣きでベース弾いてたな」

ベースの佐藤丈さとうたけしとドラムの相沢裕児あいざわゆうじは俺の幼稚園からの幼なじみで一番長い付き合いだ。ひょろっとしているが顔は整っているし、裕児は筋肉質でいかにも漢という感じのやつだ。


あれ、イマイチパッとしないの俺だけ??


「今回はバラードを作ってきたんだ。」

珍しいと思った。ヒロは昔からブルーハーツやブルーススプリングスティーンが好きでよく聴いていると言っていたし、その影響か彼の作る音楽はかなりアップテンポな曲が多かった。


「珍しいな。お前がバラードを作ってくるなんて。」

裕児も同じことを思ったのか口に出した。

「まあ、今回はそういう気分だったんだ。」

ヒロは何かごまかすように苦笑しながらそう言った。


俺たちはヒロの録ってきたデモを聴くためにスタジオに入る。

ヒロの書いてきた曲は売れないバンドマンである俺たちにとっては眩しすぎるんじゃないかと思うくらいの人生賛歌だった。

改めてヒロはすごいやつだと思った。すぐにレコーディングを始めて自分たちが納得するまで撮り続けた。

今までで最高の曲が出来上がったと思った。気がついたら空が白み始めていた。


たくさん夢を嗤われてきた。無理だと言われた。

俺たちの歴史はまだ始まったばかり、そうだとばかり思っていた。



レコーディングの翌日の朝7時、携帯にヒロの電話番号から着信があった。

出るとヒロの母親の嗚咽交じりの声が聞こえた。

そして絞り出すように

“ヒロが首を吊って死んだ”

そう言い放った。


何を言っているのか分からなかった。

腰から下が無くなって、宙に浮いているような気分になった。

何故、どうしてその言葉だけが頭の中を支配した。


その日の内に通夜が執り行われ、翌日葬儀が行われた。


残った3人で集まって話し合うことにした。

しかし散々だった。

それもそうだ、誰もが憔悴しきり意見がぶつかり合ったままバンドは解散することになった。

あの日4人で誓い合った大舞台への夢はヒロの死をきっかけに閉ざされてしまったのだ。俺はその日の内に東京を出て、バンドを結成した地であり地元の愛知へと帰ることにした。


帰りの新幹線の中でもヒロの死の原因と今後のことを考えていた。

その最中であった。電車が大きく揺れたと思った瞬間に電車の上下が90度変わった。

これでヒロと同じところに行けるかもしれないと思ったと同時に、ヒロの残したあの人生賛歌の歌詞が頭の中を回る。


『何にせよ 人生は美しい』


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死んだと思っていた。

だが今俺の目の前には森が広がっていて、隣にはアコースティックギターが寝そべっている。







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ブルーハーツはどこへ たろう @yury8

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