31 欲望の発露
「な、何を、突然」
フユの言葉に、ファランヴェールはたじろぎを隠せなかった。しかしそれが図星ゆえなのか、それとも思いもしなかった言葉を聞いたからなのか、その違いをファランヴェールの表情から読み取ることはできない。
「ずっと、不思議に思っていたことがあるんだ。シティの地下で爆破に巻き込まれたときのこと。あのバイオロイドはなぜ、僕がシティの地下にいることを知っていたんだろうって。あの日、学校には帰宅届けしか出してない。シティに寄ったのも、カルディナと一緒にお姉さんの店に行ったのも、予定外のことだったのに」
フユが探るように、ファランヴェールの瞳をのぞき込む。
視線は外せない。ファランヴェールはそう思った。しかしフユの目を見続けていると、吸い込まれそうになる自分が怖くなり、視線を外したくなる。
その葛藤が、ファランヴェールを蝕んでいく。
「それは、フユを狙ったものではなかったからでは」
声が震えている。フユはそれを見逃してはくれない。
「僕も、だからそう思ってた。でも今日、カーミットさんが言ってたよ。僕が、テロのターゲットになってるって。そして、管理局と解放戦線が、裏でつながってるって」
フユの手がゆっくりとファランヴェールの肩をつかむ。
「それを、彼を、フユは信じるのか」
怯え。それが手からフユへと伝わっているだろう。
ファランヴェールの白く長い髪が、次第にソファへと広がっていく。フユの手にはそれほど力は込められていないのに、ファランヴェールは抗えない圧を感じ、後ろへと倒れていく。
「彼を信じるわけじゃない。でももしそれが正しいなら、殆どの疑問が解けるというだけだよ。ファル、貴方はあの日、僕を尾行してたんだよね。でなければ、あんなにすぐに、僕を助けには来れない」
身体能力だけで言えば、フユはファランヴェールの足元にも及ばない。ファランヴェールがフユをはねのけようと思えば雑作もなくできるはずであった。
しかしファランヴェールはそれができない。いや、したくない。この期に及んでも、ファランヴェールはフユが自分に触れていることに喜びを感じているのだ。
――欲しい、欲しい……
体の奥底、あるかどうかもわからない『魂』から生まれ出ずる欲望でファランヴェールの体が満たされていく。
そのままファランヴェールは、ソファに仰向けに倒れた。腕置きからファランヴェールの髪が零れ落ちる。
「この学校はPI研究をしている。それについて、ファルがバイオロイド管理局に報告している。その情報が解放戦線に流れている。ファルはそれを知らなかったの? それとも知っていて」
ふとフユが寂しげな表情を見せた。体を起こし、ファランヴェールの肩から手を放す。
――いやだ、いやだ、離さないで……
それは突然のことだった。ファランヴェールがその身を起こし、フユに抱き着いた。そのまま二人、もつれたまま床に倒れ込む。
「ファル、何を」
驚き、起き上がろうとするフユを、ファランヴェールが上に乗り、床に押さえつけた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます