12 面白くない状況で
※
完全に鎮火した後でも、クエンレンの対テロ災害専科生たちは、現場から少し離れた場所に着陸していたエアポーターの中で待たされることになった。
そしてそれは、火災現場から少し離れた場所で待機していたバイオロイドたちも同様だった。
ヘイゼル達は、被害者がいなければすぐにでも現場に入り、その様子を見る予定になっていたのだが――いや、『被害者』はゼロだった。ただし人間は、であるが。
『まだ、待たされるの?』
フユのインカムに、ヘイゼルが圧縮暗号を送る。
『周辺の確認を続けて』
低周波帯でやり取りされる圧縮暗号に、感情といった細やかな情報は含まれていない。いや、そもそも、知らないものが聴けば、ただのノイズにしか聞こえないだろう。
ヘイゼルにもそれは分かっていたのだが、フユの言葉が随分とそっけないもののように感じ、面白くなかった。
『もう何も無いよ。戻っていい?』
周辺に、何かしら異変と呼べるようなものはない。
燃えていた教会は、郊外に散在する住宅からも離れた場所に立っていて、教会の周囲は開けた場所になっていたが、その外側、ヘイゼル達がいる場所の周辺には延焼を免れた林があるだけだ。
とっくの昔に打ち捨てられ、もう誰も使っていなかったはずの建物。しかし今、その建物から、『かつてバイオロイドだった物』が救助隊の手によって運び出されている。
『遺体の搬出が終わったら、中に入るから、待って』
フユの言葉に、ヘイゼルは『コピー』と返した。
エンゲージは三体のバイオロイドがいると言っていたが、実際はそれどころではなかった。建物の外へと次々に運び出される『袋』の数は、とっくに一〇を越えている。
余りにも異様な事態にファランヴェールも困惑気味のようで、先ほどからずっと考え事をしているような素振りを見せていた。
きっと、フユと交信しているのだ。フユの素っ気なさはそのせいに違いない。
『ボクたちも、今から入って手伝った方がいいんじゃない?』
それくらいの訓練は受けている。人間にしてもバイオロイドにしても、その死体を見て驚くような繊細さは、ヘイゼルとは無縁だった。
『周辺の状況確認』
フユからの返事はその一言である。ヘイゼルはちらとファランヴェールに目をやったが、どうもまだ交信中のようだ。
――そんなに複雑な交信が必要ならポーターに戻ればいいのに。
拙い圧縮暗号での交信では時間がかかるのだろう。
そこに少しの優越感を感じるのだが、フユとの時間をファランヴェールに奪われていることには、我慢ならなかった。
エンゲージとコフィンは傍にはいない。林の中を巡回中のようだ。
『コピー』
フユに何かしらの危険が及ぶことはなさそうだった。そのような気配は聞こえない。
――周辺、ね。
建物の中で一体何があったのか、ヘイゼルは少し興味を覚えていた。しかしそれは好奇心によるものでもなければ、義憤のようなものでもない。
ヘイゼルが、周辺の捜索へ行く素振りをしながらファランヴェールから離れる。
ただ、ファランヴェールやエタンダールの『失態』のネタを探すためだけに、ヘイゼルは気づかれないように、建物へと向かった。
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