6 エアポーターの中で

 エアポーターは、現場に着けばそのまま情報処理と指揮を行う中枢になる。マイクロバスほどの大きさの機体は、前部の操縦席以外はその大半を搭乗員用のスペースと様々な情報処理機器で占められていた。


 本来は一個小隊――コンダクター二人とエイダー六体を運ぶものだが、今はそのスペースに、フユたち三人のコンダクター候補生とパートナーである一体ずつのバイオロイド、そしてファランヴェールと教官のエタンダールが乗り込んでいる。


 内部の右壁に沿ってカルディナとクールーンとフユ、左壁にはコフィンとエンゲージ、そしてヘイゼルが、互いのパートナーと向かい合わせに座っている。他の二人はコンダクター用の席に座っていた。


 ヒューンという軽い音がしばらくした後、軽い浮遊感とゆっくりとした振れがフユを襲う。機体が安定するまで、エアポーターの中は機械音のみが支配する場となった。


 三体のバイオロイドたちは皆、学校指定のスクールウェアに身を包んでいる。ただヘイゼルは乱れたままの服装を直そうともせずにふてくされていた。


 しかしそれは、エタンダールとのやり取りが原因ではなさそうだ。ファランヴェールがヘイゼルに視線を送るたびに、殺気に満ちた目をファランヴェールに向けている。ヘイゼルにとっては、ファランヴェールがフユと同じ空間にいること自体が我慢できないことなのだろう。


 その様子に、フユはふっとため息をついた。いっそのこと、ラウレとファランヴェールの担当を交代した方がいいのではと思うのだが、その考えをすぐに自分で否定する。

 そうなればそうなったで、ヘイゼルはその敵意をラウレに向けるだろう。


 つと、カルディナを横目で見てみる。しおらしい様子で座っているクールーンの向こう側、カルディナは腕を組み、何かを考えるように床を見つめていた。


 ラウレもレイリスも、この出動には参加していない。初めてということもあり、正式なパートナーではないものはお留守番にされたようだ。


 カルディナは理事長と話ができたのだろうか。それらしきことは、フユのもとには伝わっては来ていない。


 カルディナが考えているのはラウレのことか、それとも……


 結局、平手を食らわせた後、メッセンジャーですらカルディナとは話ができていない。後ろめたい気持ちも、申し訳ないという気持ちもフユにはなかったが――そうされるに値することをカルディナは言ったのだ――このままというのもさすがに気まずく感じる。


「聞いてもらおうか。これから向かうのは火災現場だ」


 エタンダールが突然、話を始めた。簡単なブリーフィングを行うようだ。出動はするが現場には入らず、その付近から情報処理のみを行う。救助活動の邪魔をしないようにということらしい。


「お前らが入っても、足手まといになるだけだからな。まずは現場での手順の確認。しばらくはそれが続くだろう。それが各自一人でできるようになった段階で、次に進むことになる」


 エタンダールの言葉に、他の者たちは「コピー」と返事をしたが、ヘイゼルだけがプイと横を向いた。


「ヘイゼル、聞こえたのか」


 エタンダールの声に、ヘイゼルは横を向いたまま「コピー」とつぶやく。


 このところ、ヘイゼルは素直に訓練をこなしていた。しかしそれはフユが命令するからであり、教官やファランヴェールの言うことは、ぎりぎりまで無視をするのは相変わらずである。


 フユがまたふっとため息をつく。隣で体を小さくし、自信無げな様子で座っていたクールーンの鼻から、ふっという軽い音が聞こえた。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る