7 現場へ

 学校から現場まで、空中を移動するエアポーターでなら10分と掛からない。エタンダールの手短なブリーフィングが終わった後は、機内に設置されているいくつかのスクリーンに映し出されている映像を見ながら、現場に到着するのを待つ形となった。


 電磁波の影響を最小限に抑えるため、エアポーターはあまり高くはない高度で飛んでいる。

 時折、吹き付ける風せいなのか機体がゆるりと揺れたが、シートベルトで座席に固定されているため、体が投げ出されることはない。


 フユたちは、学校にあるシミュレータで出動の訓練を受けていた。もちろん、このような移動時の揺れなども再現されている。しかし、やはり実機でのものとなると、わずかばかりの緊張がフユを襲ってくる。


――あまり気持ちのいいものじゃないな。


 向かいに座るヘイゼルと目が合う。その心配そうな表情に、フユは笑顔を返して見せた。


 機体には窓がない。代わりに、スクリーンには外の景色が映し出されている。その一つには、夜空を彩るオーロラと、その下に煌々と光を放つこの地方で一番の大都市ガランダ・シティが少し小さく見えていた。


 現場はシティの中心部とはかなり離れた、郊外のようだ。エタンダールの話だと、フユたちよりも先行したクエンレン救助隊のほかに、シティから消火隊が現場に入っているらしい。


 どれかのスクリーンには、現場方向の映像が映し出されているはずなのだが、オレンジ色の光は見えない。


 もうすでに消火活動が終わったのか、それとも、さほど規模の大きい火災ではなかったのか……


 同じことをファランヴェールも思ったのだろう。


「サーモにしましょう」


 そう言って、パネルを操作する。スクリーンの一つが、実際の映像からサーモグラフィーの映像へと切り替わった。


 点在する住居らしい幾つかの建物が、周りの大気よりも熱を持っているのだろう、四角い薄い黄緑色の部分を作っている。しかしそれ以外は、青から紺色にかけてのグラデーションでスクリーンが染められている。


 と、その中で、周囲の地面が不自然にオレンジ色をした箇所が現れた。


「地下、ですね」


 ファランヴェールがつぶやくように声を出した。


 ネオアースの建物は、大きなものであれ小さなものであれ、地上部分より地下の部分が充実している。それはロスから降り注ぐ電磁波の影響を可能な限り受けないようにするためのものなのだが、地下部分での火災は消火システムが作動しない場合、救助の困難さが増してしまう。


「まずは状況把握が優先だ。情報を受け取りつつ、現場に入っている他の隊の邪魔にならないよう行動する。いいな」


 エタンダールからフユたちに向けて、再度の確認が行われた。コピー、という声が機内に響く。しかしヘイゼルだけは、返事もせずにまたエタンダールから顔を背けてしまった。


「ヘイゼル」


 さすがにまずい。そう思い、フユが声をかける。その時、ファランヴェールが「あっ」という小さな声が漏らした。


 ファランヴェールが、スクリーンの方に目を向けている。フユがその方へ目をやると……視線の先では、さっきまで地面だけをオレンジ色に染めていた建物が、極度の高温を示す白色に包まれていた。

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