第二十一話 荷物持ち

「ふぅ。良い宿じゃの」


 幸運にも宿にありつけた僕たちはすでに寛ぎ始めている。


「それでさっきの話の続きをしても良いか?」

「さっきの続き?」

「そうじゃ。お主のスキルの話じゃ」


 クラリスはさっき僕のスキルがいいスキルだという話の続きをしたがる。


「いいよその話はもう。それより勇者一行の話が聞きたいな。僕ずっとその話が好きで、いつか僕も勇者みたいになって活躍しようと思ってたんだよ。今目の前に魔王様がいるけど」


 そう、当時の勇者達の目標が魔王を倒すことなのに僕は今その魔王本人と一緒にいる。改めてなんという状況だ。


「じゃあお望み通り勇者一行の話をしよう」


 そう前置きを置いてクラリスは話し始めた。






 勇者一行は勇者と賢者、教皇と荷物持ちの四人のパーティーだった。勇者のスキル聖剣はその全ての悪を払い通った道には光が差すと言われている伝説のスキル。賢者も全知全能というスキルを持ち、あらゆる魔法を使いこなし魔族のような戦い方をしていたと言われている。教皇は裁きというこれまた強大なスキルで聖属性のレーザー砲を撃てるため魔族や魔物特化として勇者パーティーに加わっていた。


 そしてこの勇者パーティーの最後の一人、荷物持ちのロベルト。勇者パーティーが魔王と幾度も壮絶な戦いを繰り広げ、その末に平和協定が結ばれ今のこの平和な世界が作られたのはありとあらゆる文献に記載されているが、そのどれもが荷物持ち以外の話しかなくロベルトについて書かれているものはない。






「ロイドよ。そんな勇者パーティーで一番強かったのは誰だと思うかの?」

「え?そんなの勇者様でしょ?いや、でも教皇様のスキルも目の前で見たけどあんなとんでもないの食らったら......。いや、でも話しを聞く限り賢者様のスキルも相当な気がする。えー、誰だろう。みんな同じくらいとか?」


 みんながみんな強すぎるスキルが故に誰が一番かは全く想像できない。


「みんなというのはロベルト以外の三人か?」

「そりゃそうでしょ。この三人より強かったらどうなっちゃうの」

「なるほどなるほど。正解は......」






 ロベルトは小さな村のさらにその外れ、周りに家はなく自分の家族だけが暮らしている様な辺鄙なところで生まれ育っていた。毎日の食糧を得るために森の中を駆け回り、獣を狩ったり魚を釣ったりする毎日。当然のように過ごしていたそんな生活も実際には周りからすると全く普通の生活ではなかった。


 なぜなら、毎日狩っていた獣達は魔獣そのもので、そのあたり一帯に誰も住み着かなかったのはロベルトの家が当時戦争していた魔族の国との境にあり、魔物も数え切れないくらいその周辺に生息していたからだ。


 そんなロベルトに人生の転機が訪れたのはスキルを授かった時だった。ロベルトはこれからも家族と暮らすために、狩りによく使えそうなスキルを望んでいた。そんなロベルトが授けられたスキルは......






「ごくっ。ロベルトのスキルは......?」

「眠いからこの辺で今日は寝ようかのぉ」

「そんな!ここまで聞いてそんなのってないよ!」


 僕はその意地悪さに思わず勢いよく席を立つ。


「まぁまぁそんな興奮するんじゃない。そうじゃの、頭を撫でてくれたら続きを話そう。気になるんじゃろ?」

「はぁ。いいけどさ」


 クラリスがベッドから僕の方に小走りに走り寄ってきて、ちょこんと膝の上に座る。


「......これは?」

「この方がロイドも撫でやすいかと思ってな」

「全く、本当に魔王様がこんなのなんて思ってなかったよ」


 そう文句は垂れつつも頭を撫でてやるとクラリスは嬉しそうな顔をしながらその続きを話した。






 ロベルトが授けられたスキルは状態異常という世にも珍しいスキルだった。当時そんなスキルを持っている人はこの世に誰もいなく、スキルのレア度すら表示されなかったらしい。そんなスキルにロベルトも最初はガッカリしたが、そのスキルの正しい使い方や本当の強さに気付いてからのロベルトの強さは凄まじいものであり、その噂を耳にした国王が直々に勇者パーティーに誘った。


 ギルドなどにも所属していなかったロベルトが勇者パーティーに入ったとあっては他のものは何も面白くない。そう言った理由も含め、王勅命の荷物持ちとして勇者パーティーに所属することになった。






「えー?!?!ロベルトのスキルが状態異常?!僕のスキルと同じ......」

「そうじゃ。ロベルトが状態異常のスキルで戦うのは実際にわしが経験しているから間違いないぞ。しかも、状態異常はわしの記憶が正しければロイドがこの世で二人目じゃ」


 その衝撃の事実に口をあんぐりと開けてしまう。


「それでの、さっきの答えじゃが」

「さっきの答え?」

「勇者パーティーで一番強かったのは誰かというものじゃ」

「あ、そうだった。それで誰なの?」


 クラリスがこちらを振り返ってニヤリと笑う。


「勇者パーティーで一番強かったのは......ロベルトじゃ」

「......え?」

「勇者パーティーで一番強かったのは......ロベルトじゃ」

「全く同じ言い方しないでよ!え、でも本当にロベルトなの?」


 やれやれと言った感じで、少しイラッとくる仕草でクラリスが答える。


「何度もそう言っておろう。あやつにはわしも苦戦させられたよ」

「でもなんでそんな強いならロベルトに関することはほとんど知られてないの?」


 この話を聞いた後なら誰もが思うであろう疑問をぶつける。


「それはロベルトがそれを望まなかったからじゃ。あやつは目立つのも嫌いであれば金にも名誉にも興味がなかった。それで自分の手柄は全て他の者に譲り、自分の力やスキルさえも王を含め関係者全員に口止めをしたのじゃ」

「そんな経緯があったのか。そりゃ全然ロベルトの事なんて知らないわけだ」

「それにロベルトはこの戦争にて戦死したことになっていたからな」

「そう言えばそうだ。ロベルトを除いた三人が平和協定を魔王と結び、帰還したって読んだ本にも書いてあったよ」


 確かにその逸話は有名で、いろいろな国に三人の英雄としてロベルト以外の三人の像が建っている。


「あれも嘘じゃ」


 あっけらかんとした物言いでクラリスが暴露する。


「ロベルトは人間にはもう飽き飽きだと言って、そのまま魔国で寿命の尽きる直前まで過ごしておったぞ」

「なんだって?!?!」


 ありとあらゆるものが隠蔽というか、作り替えられているなんて。


「ふっふっふ。すごいじゃろ?わし、すごいじゃろ?」


 これでもかと言うほどにふんぞり返りながら笑っている幼女に一番聞きたかったことを質問する。


「それでロベルトは状態異常なんかでどうやって戦ったの?」

「それは敵を状態異常にしてじゃろ。ロイドも少しは自分で考えて強くなるんじゃな。大丈夫、わしはお前が死ぬまでの百年くらい一緒にいてやるからの」


 思いの外厳しかったのと、しれっと死ぬまで一緒というカミングアウトに何とも言えない顔をしてしまう。


「これから少しずつロベルトみたいに強くなろうの。いや、ロイドはロベルトより強くなれるぞ」

「え?どういうこと?」

「まぁまぁ、それは今はいいのだ。それより明日はどうするのか?」

「とりあえず。ここに来るまでで倒した魔物の核とかを中央ギルドに売りに行った後、またみんなが待っているギルドに戻ろうかと思う」

「いいの!旅は楽しいからな!そうと決まれば早よ寝るぞ!」


 そういうや否やベッドに飛び込み、一瞬で寝息を立て始める。


「(何なんだ全く......。騒がしいし変なやつだけど現魔王で僕のこと気に入って死ぬまでそばにいるなんて。色々意味がわからないけどとりあえず僕も寝るか)」


 僕もいそいそとベッドに潜ると、疲れていたのか夢への迎えはすぐにきたのだった。

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