第十九話 教皇の力
辺りは人で溢れてきた。それもそのはず、人間の男と魔族の男が言い争いから喧嘩に発展しているのだから。
「おいおめぇ、今ならまだ謝れば許してやるぞ」
「そっちこそ謝るなら今のうちだぞ」
空気がピリピリしているのが肌で感じる。ーーー否、実際にピリついている。
「俺のスキルの電撃使えばお前なんか一瞬だぞ?あ?」
「そんなクソスキルが効くわけねーだろ。ドラグニュート舐めんな」
さっきまで止めに入っていた、たくさんの野次馬たちが一斉に動きを見せた。
「逃げろお前ら!!!」
「ここにいると教皇様の裁きに巻き込まれるわ!!!」
それを見てクラリスが楽しそうにしている。
「ほれほれロイド、面白いものが始まるぞ?」
「そんなこと言っている場合?!みんな逃げ出してるよ!僕たちも逃げよう!裁き?ってのに巻き込まれちゃう!!」
「大丈夫じゃよ。わし強いから」
「そーゆー問題じゃないでしょ!あーもう、僕は逃げるよ!」
そう言い、先ほど会ったばかりだが何故か打ち解け始めているクラリスを置いて逃げようとする。
「あれ!足が動かない!逃げないといけないのにどうしたんだよ!!!」
「わしが魔法を使ったんじゃ。お主の影を地面に縫い付ける魔法をな」
「なんだそれ?!そんなスキル聞いたことないよ!!」
聞いたことのないスキルで不幸にも僕は身動きが取れなくなってしまった。
「何を言っておるのか?スキルではなく魔法だと言っとるじゃろ」
「魔法とスキルって違うの?!ていうか今はそれどころじゃ」
そうこうしているうちに、トカゲのような尻尾の魔族が目に見えるほどの何かを腕に纏わせ人間に殴りかかる。
「喰らえ低俗ハンター!!!」
人間の男も剣のような形に凝縮された稲妻を魔族に振りかかる。
「死ねやクソトカゲ!!!」
その二人が激突する瞬間。
「来るぞロイド」
クラリスがニヤッと笑い囁いた瞬間この世から全ての音が消えた。否、そう錯覚するくらいの何かが轟音とともに目の前に天から降り注ぎ、その光に僕は目を閉じざるを得なかった。その直後、周りからは悲鳴がこれでもかというほどに上がっていた。辺り一面を何かが焦げるような嫌な匂いが覆う。
「おぉ!久しぶりに見たが綺麗じゃの〜!」
「そんなこと言ってる場合?!てか何これ!周りが吹き飛んでるのになんで僕らの周りは何も起こらないの?!」
「それはわしが対聖スキルの結界を張ってるからじゃ」
「結界?!対聖魔法?!意味がわからないよ!」
「それよりほら、見てみろ」
クラリスに言われ顔を上げてみると、そこには辛うじて息はあるが黒焦げになっている人影が二つあった。
「え?あれってまさか」
「そのまさかじゃ。あそこにおる二人はさっき喧嘩しようとしてた人間と魔族じゃぞ」
「そんな......。なんであんな黒焦げに」
「教皇のスキル裁きじゃ」
逃げていた人たちがまた二人の周りに集まってくる。
「おい誰かポーション持ってないか?!こいつらほっとくと死んじまうぞ!」
「私初級ポーションだったら持ってるわ!あとでたっぷりお金はもらうわよ!」
黒焦げの二人を治療している周りの人を見ながら、僕はクラリスに聞く。
「裁きってこんなすごいスキルなんだ」
「当たり前じゃろ。☆5スキルの中でも特にやばいスキルじゃ。どういう仕組みかはよく分からんのじゃが、まぁ狙った場所に聖属性の高出力のレーザーが標的を瀕死にするまで出続ける感じじゃ」
「何そのむちゃくちゃなスキル......。これが☆5の力なんだ」
「な?面白いものを見れると言ったじゃろ?」
「面白いっていうか、凄まじいものを見た気分。それよりあの人たち大丈夫?」
人だかりの中心に横たえられてる二人を指さす僕。
「初級ポーションじゃ助からないじゃろうなぁ」
「そんな!クラリスじゃ助けられないの?!」
「もちろん助けられるぞ」
「やっぱりクラリスでも......ん?助けられるの?!」
「もちろんじゃ。わしを誰じゃと思っとる。まお」
「なら早く助けて!お願い!」
小さいクラリスに目線を合わせるように膝立ちになり、その小さい手を両手で包み願う。
「......全くしょうがないのぉ。お主らどくのじゃ。わしが通るぞ」
「なんだこの子ども!今おじさん達忙しいからちょっとあっち行っててくれるか?!」
「わしが治すと言っとるのじゃ。とりあえず離れろ、そして見とれ。それ、リザレクション」
そうクラリスが小さく唱えた瞬間に黒焦げになっていた二人の姿が黄色と水色の光に包まれていく。その光が二人を完全に覆い、パッとまるで目眩しの世に弾けた次の瞬間だった。
「あれ、俺は何をして。確かこのトカゲ野郎をぶっ飛ばそうと」
「俺もこのクソ生意気な人間に分からせてやろうとして次の瞬間......」
二人とも意識を取り戻したと同時に激しく身震いをした。
「な、なぁトカゲ......これからは仲良くしような?」
「そ、そうだな。喧嘩なんか良くないよな」
青い顔をしながら握手をして仲直りしていた。
「すげぇぞこの子ども!!!黒焦げだった奴らが一瞬でピンピンに治りやがった!!!」
「すごいねお嬢ちゃん!ありがとうね!」
周りの人が口々にの立役者であるクラリスを褒める。
「おいお前ら、だからこの国で争いはダメって言っただろ!今回はたまたま助かったからよかったものの、お前ら死にかけたんだからな!」
最初に止めに入っていたヒゲのおじさんが二人をきつく怒鳴り二人は下を向く事しかできない。
「「すみませんでした」」
周りの好意からの忠告をちゃんと受けず、教皇の事を完全に舐め切っていた二人とも首をうなだれながら反省したように謝っている。
「クラリスすごいね!二人とも一瞬で治っちゃった!」
「言ったじゃろ。わしにかかればこの程度ちょちょいのちょいじゃ。それでロイドよ、ご褒美はまだか?」
「え?ご褒美?」
「当たり前じゃろ!お主の願いを叶えてやったんだから、それ相応の褒美がなければ釣り合わないではないか!」
こいつ何を言っているのだと本心から思っていそうな表情でこっちを見つめてくるが、あいにく僕は何かをしてあげたらその対価を相手に求めるなどしたことは無かったから求められるものに見当がつかない。
「ほ、褒美ってお金とか......?それともお酒?」
「頭を撫でるのじゃ」
「え?」
「だーかーら!頭を撫でるのじゃ!」
「そんなのでいいの?」
「そんなのってなんじゃ!はよしないか!」
ものすごい剣幕に少したじろぎながらも、クラリスの頭を髪を梳くように優しく撫でてあげるとまるで蕩けたような笑顔を見せるクラリス。
「いいのぉ〜。ロイドは撫でるのが上手じゃ」
「そ、そうかな?」
「そうじゃ。これからもたくさん撫でてもらうからの。それはそうと、大分みんな落ち着いてきたようじゃし食べに戻るとしようかの」
すごく長いような気がしたけどあっという間だった騒動も収拾がついてきたから、僕たちもご飯を食べに戻ってきた。
「お帰りなさい!巻き込まれませんでした?大丈夫でした?」
うさぎの耳が生えてる給仕のお姉さんが心配そうに声をかけてくる。
「びっくりしましたけど、この子のおかげでなんとか助かりました」
「この子とはなんじゃ。わしは魔王じゃぞ」
「え?またまた、クラリス何を言ってるの?お姉さんもびっくりしちゃってるでしょ。とりあえずリンカ酒でももらおう」
「いや、だからわしは魔王じゃって」
「はいはい。すみません、リンカ酒を二つお願いします」
「かしこまりました!」
少しおろおろしながら戸惑っていたが、元気に返事してお姉さんがキッチンへ戻って行く。
「それで、なんでクラリスはあんな魔法が使えるの?」
ずっと気になっていた。クラリスはこんな小さな子供のような見た目をしているのに、何故こんなにも魔法が使えて知識の豊富さも窺えるのか。さらには、なぜ魔法という存在そのものに詳しいのか。
「何度も言っておろう。わしは現魔王じゃ」
「......え?それ本当に言ってるの?」
「はぁ......。だからそうじゃと言っているだろう」
僕は今、生まれてから一番間抜け面をしているだろう。
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