第十八話 不思議な出会い

 教会を出てもその足取りは気持ちに比例するように重い。


「(とりあえず今日の宿でも探さないと)」


 スピカの街は夕焼けに染まって来ており、ちらほらと灯りをつけ始める店も出て来ている。幸いお金はあるからある程度の宿には泊まれるだろう。


「(でもその前に何か食べよう。別にお腹が空いているわけでもないけど、何かしらは食べなきゃだもんな)」


 そう思いあてもなく歩いていると、一軒の店の前で足を止める。そこでは給仕の女の人が呼び込みをかけていた。


「いかがですかー?美味しいですよー!冷たいリカンジュースもリカン酒もありますよー!!」


 ふと頭の中にたった数時間前の記憶が蘇る。


「ーー料理美味しいね!お肉もサラダもジュースも全部美味しい!」


 レイラが楽しそうに笑いながら食べていた姿が頭をよぎる。


「レイラ......僕だめだったよ......あんなにレイラは僕のこと気にかけてくれてたのに」


 一人泣きそうになるのをグッと堪えながら店に入る。


「いらっしゃいませー!おひとり様ですかー??」

「はい」

「ではご案内します!こちらはどうぞ〜!」


 案内された席は偶然にも昼に食事した席と同じ席だった。


「ご注文がお決まりの頃にお伺いしますね〜!」


 メニューを見てみると昼に来た時とは違い、どちらかと言うと夜のお酒メインでつまみ多めのようなメニューになっている。


「(リンカ酒飲もうかな......今夜はやけ酒だ!)」

「すみません!注文お願いします」


 注文を取りに来た給仕を見て少し驚く。


「ご注文どうぞ!ってあれ?」

「どうも」

「お兄さんお昼も来てくれましたよね!一緒だった可愛い子はどうしたんですか?」


 見た目からでも分かるその明るく無邪気な性格からか、今一番ナイーブなところをスッパリと聞いてくるのはお昼に給仕してくれた女性だった。


「あ、あの子とはさっき別れまして」

「え!恋人だったんですね!それはすみません......」

「あ!いえいえ、スピカまでの旅を一緒にしてただけなんです」

「そういうことですね!でもお二人すごくお似合いだったので」


 すごく楽しそうに話すお姉さんに少し申し訳ないとは思いながらも注文をする。


「リンカ酒とこのお酒に合うお任せ肉セットを一つください」

「はい!他にご注文ありますか?」


 大丈夫です。そう答えようと思って口を開いた時


「わしも全く同じのを一つじゃ。あ、やっぱりお任せセットは二つ」


 聞き慣れない声、それも可愛らしい高めの声なのに何故かじじくさい口調が目の前から聞こえた。そんな知り合いなど僕にはいるはずもなく、声の方向に顔を向ける。


「え?あの......どちら様?」


 顔を上げるとピンク色の毛先があちこちに遊んでいるがものすごく整った人形みたいに可愛い顔をした推定十歳くらいの女の子が向かいの椅子に座っていた。


「そんなことはどうでも良いじゃろ。それよりわしも一緒にお主と飲んでも良いじゃろ?」


 なんで全く面識も無いような女の子、いや女児と一緒にご飯を食べなくちゃいけないんだ。でもこうなったらやけくそだ!


「いいですよ。注文は他にありますか?」

「ないのじゃ」

「ではお姉さん、それでお願いします」


 お姉さんは少し困り気味な表情で告げる。


「お客様、まだ小さいお子様にお酒はちょっと......」

「誰がお子様じゃ!!!わしは!正真正銘の!レディじゃ!!!!」


 言われてみればもっともな問いかけに激怒する女児。なんだこの状況。


「でも......」

「いいから持ってくるのじゃ!」


 二人が二人とも助けを求めるような視線をこちらに投げかけてくる。


「はぁ......。注文の品をお願いします......」

「分かりました、知りませんからね」


 お姉さんも半ば投げやりになりながらも注文を受け付けてくれた。


「いいのいいの、分かっとるの〜。これも何かの縁じゃ、仲良くしようじゃないか」

「そうだね。僕はロイド、君は?」

「わしはクラリスじゃ」


 お互い名前だけ名乗ったところで先に酒が運ばれてくる。


「それじゃ、乾杯と行きますかの」

「うん」

「「かんぱい!」」

「くぅ〜、この酒は美味いの!!」

「美味しい!リンカジュースがそのままお酒になった感じ」


 実際その表現が一番あっており、昼に飲んだリンカジュースの爽やかな甘酸っぱさに喉越しを加えたような感じだろうか。


「お主雰囲気が暗いのう。何か嫌なことでもあったのか?わしが話を聞くぞ!なんてったってわしは大人のレディだからな!」


 もう酔いが回ってきたのか、無い胸を全力で張りながらこちらに笑いながら話を促してくる。


「でも別に初めて会った女の子に言うことでも」

「なんだ女々しいのう。良いからわしに相談するがいいぞ」

「(誰かに話したい気分でもあったし、ここは話すだけ話しちゃうか......。話したところで何にもならないと思うけど)」


 なんの面識もない女児にスキルの話、それも☆0の話なんてと少しの逡巡があったが、結局話し始める。


「実はさっき、スキルをもらいに行ったんだ」

「ほう!良いでは無いか!それで忌々しい神から何のスキルを貰ったんじゃ?」

「え?忌々しい......?」

「何でも無いぞ。それより続きを話すのじゃ」


 何か神に対する冒涜があった気がするけど、僕も酔ってしまっているのか?


「それで、貰ったスキルが状態異常というもので」

「なんじゃと!!!それはすごいついてるな!!」


 テーブルに手を付き身を乗り出してクラリスが凄い勢いで目を輝かせてる。


「え......?状態異常は☆0だよ?」

「そうなのか?まぁでもわしは凄い良いスキルだと思うぞ」

「慰めてくれてるんだね。ありがとう」


 少し身を乗り出し、小さい頭をなでなでする。


「っっっ!そんなんじゃないのじゃ!本当にいいスキルだと言っとるのじゃ!後頭なでなでするのは......」


 そこまで言いかけて、少し俯くクラリス。


「なでなでするのは......?」

「続けるのじゃ」


 ずっこけそうになる。なでなでされるのが好きなのか。やっぱり子どもじゃないか。


「やっぱりまだ子どもなんだね」

「違うのじゃ!わしは今まで誰かに頭を撫でられるなど無かったからの」


 こんな小さいのに頭を撫でられたこともないのか。自分と少し重なり、撫でる手が優しくなる。


「それはそうとお主が嫌じゃなければ、これからお主に付いていってもいいか?」

「え?僕についてくるの?」

「そうじゃ!わしはお主のことをすごく気に入ったのじゃ!だからついて行こうと......お?面白そうなことが起こるぞ」


 クラリスがそう言った十秒後くらいに店の中が騒がしくなる。


「おいてめぇ、今ぶつかっただろ?!何の挨拶もねーのかよあ?!」

「何言ってるんだよ。お前の方がぶつかってきたんだろ?!」


 騒がしくなってきた方を見ると、ハンター風の男と爬虫類のような尻尾が生えている魔族が言い争いをしてる。


「なんだとごら!!やんのかトカゲ野郎」

「なんだよそっちこそやるのか?低俗ハンターが」


 どちらも酔っているのかややふらつきながらも頭を突き合わせる。


「おいやめろって、この国で争い事はやばいって!」

「そうだよ、謝れば済むんだから謝っちゃいなよ!」


 周りの客が慌て始める。僕も以前聞いたことあるけど、この国で争い事をすると......。


「うるせぇ!!そんなのただの噂だろ!そんな都合のいいスキル持ってるやつがいるわけねーだろ!教皇だか何だか知らねぇけどそんな奴いるならこの世に争いなんかねーよ!!おらてめぇ外来いや!」

「やってやるよ!!!人間に物わからせてやるよ」


 そう言い合いながら、周りの話も聞かずに二人は外に出て行った。

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