第十七話 運命のスキル
未だに胸のドキドキが止まらないが、とりあえず教会に入り、スキル取得の手続きをしないと。
教会の前まで来ると、警備兵に要件を聞いてきた。
「今日は教会までどんな御用で?」
「今日は十五歳になったので、スキルを神様から頂きにきました」
「よし。一応危険なものがないか確認するぞ」
事前に取り上げられるかもしれないナイフなどはマジックバックに入れておいたから、今身につけているものでは特にないはず。
「よし、何もないな。じゃあ良いスキルがもらえるように祈ってるぞ」
教会の中に一歩足を踏み入れると、そこはまるで別の世界のようだった。
「うわぁ......」
あたり一面は綺麗な色の付いたガラスが嵌め込まれており、音は無く、外の感想が嘘のように静かな空間だった。
「スキルを授かりに来た方ですか?」
眼鏡をかけた落ち着いた雰囲気の修道女のような女性が声をかけてきた。
「はい!」
「ではこちらへ」
教会の隅にあるテーブルと椅子が並んでいるスペースへ案内される。
「ではここに名前を書いて、納めるお金をお願いします」
渡された紙にロイド・ステンノと書き込み納めるお金、金貨十枚を渡す。
「はい、確かに。ではこちらはお願いします」
案内されて教会の奥に進んでいくと、まばらではあるが何人かの僕と同じくらいの年齢の子供たちがいる。
「今ロイド様の他に三組スキルをいただく儀式をされる方がいらっしゃるので、少々お待ちください」
ただ待っているのも暇なので、他の人がスキルを頂く儀式の様子を見てみる。
「まま、すごい緊張する」
「大丈夫よ。きっとカリーナならいいスキルをもらえるわよ」
「うん!私もママみたいな触ったものを暖めるスキルが欲しい!」
「ふふっ、きっともっと良いのが貰えるわよ」
そんな会話の途中で修道女に呼ばれる。
「カリーナさん、こちらはどうぞ」
呼ばれたカリーナは中心にある階段を登り、透明な石板の前に立つ。
「ではここでこの石板に手を乗せ、今から言う言葉を唱えてください。そして最後に、メラシアと神に祈ってください」
「はい!」
修道女が神に捧げる言葉をカリーナに教え、それを真剣にカリーナが聞く。
「メラシア!!!」
カリーナが最後の祈りの言葉を唱えると、手をつけていた石板が一瞬強い光を放ちその光を収めた。
「お疲れ様でした。石板を見てみてください」
「はい!わぁ!やった!」
「おめでとうございます。カリーナさんのスキルは☆3の温度変化です」
ぱちぱちと当たりにいた人が手を叩き祝福する。僕も合わせて手を叩く。
「やったママ!ママと一緒で温められるスキル!」
「違うわよ。ママのは☆2の温度上昇だから、カリーナのは暖めるだけじゃなくて冷やすこともできるのよ」
「そーなの?!わーい!これでママと一緒にお料理屋さん手伝う!」
「ありがとう、カリーナ」
「うん!早くパパにも教えに行こう!」
「はいはい」
嬉しそうな表情でお母さんの手を引きカリーナが教会から出て行く。
その後二組ほどスキルを授かって、とうとう僕の番になる。今日はいつもより人が多いみたいで、僕の後ろにも四組既に待っている。
「ではロイドさん、こちらへ」
修道女に連れられ階段を登る。
「神から与えられるスキルは基本的に☆1〜☆5まであります。代表的なものだと、☆1は指先から火が出せるでしたり、体の一部の筋力をある程度強くできたりとそこまで強力ではないにしろ、使い方次第で日常生活に利をもたらすものです。☆2は物を暖めることが出来たり、聴力が向上したり、木を自分の想像したものに変形させたりなどがあり、ギルドでハンターとしても努力次第では食べていけるものが多いです」
いつも全員にしている説明を僕にもしてくれる。
「それ以外でも、☆1スキルで触ったものの一定範囲の色を変えるものや、☆2スキルでどんな適当に作っても美味しいものができる物など、全く戦闘には関係ないものもあります」
「(なるほど。☆1だと普通の仕事につくしかないのか。でも☆2くらいだとなんとかってハンターって感じかな。でもヘレンさんみたいに☆2だけど戦闘向きじゃないものもあるってことか)」
「☆3になると、体の傷を癒すことができたり火や水、風などを操ることができたりと一気にスキルとしての価値が上がります。☆4ですと、微精霊を操るスキルだったりビーストテイマーなど、生物を使役することができる他、影を使ったスキルなどもあります。最後に☆5ですが、瞬間移動を使えたり触れたものの時を戻す、進ませるなど、人間とは思いない力が☆5に当たります。騎士団所属騎士にも数人いる聖壁なども☆5です」
いつもの仕事なので何も感じずにこの修道女は言っているのだろうが、僕は驚きのあまり口を開けてしまいそうになった。
「瞬間移動ですか...?」
「はい。しかし、その強力さの他に希少性ゆえの☆5です。このスキルのレア度毎の分布は、☆1が50%、☆2が25%、☆3が18%、☆4が5%、☆5が1%程度となっています」
「ほとんどの人が☆1なんですね」
今まで何気に通っていたハンターギルドの人たちが、皆選ばれた人たちというのを実感した。
「はい。なので、もし☆1スキルでも落ち込むことはありませんよ」
「分かりました」
説明を一通り受け、とうとう儀式に入る。
「ではロイドさん、こちらの石板に手を置いて今から私が言う言葉を唱えてください」
「分かりました」
「神に捧げる言葉はこうです。我が身、我が心は神と共にあり。我は神よりスキルを賜り、この命尽きるまでその力を使いより良い世界へと導いていきます。我の全ては神と共にあり。そして、最後にメラシアと祈ってください」
「は、はい」
緊張が最高潮になる。僕は今から待ちに待った、渇望したいたスキルを授かる。
「我が身、我が心は神と共にあり」
今までの人生、物心ついた時にはスラムにいて親や兄妹は誰もいなかった。
「我は神よりスキルを賜り」
唯一親身になってくれたおじいさんも、いつの間にか姿を消してしまった。
「この命尽きるまでその力を使い」
いつもいつも僕のことを虐めていた村のいじめっ子達。
「より良い世界へと導いて行きます」
ギルドで良くしてくれた皆、ヘレンさんにニーナさん。
「我の全ては神と共にあり」
また会う約束をして、僕にたくさんのことを教えてくれた初めての友達のレイラ。
僕を見下し馬鹿にして来た奴らを見返す為にも、良くしてくれた人にもっと報いるためにも、役に立つすごいスキルを僕にください。
「メラシア!!!」
唱えた途端、他の人とは違い光はあたりを覆い隠すことはなく小さく光っただけだった。
「あら?」
修道女が小さく首を傾げながら近づいてくる。
「お疲れ様でした。石板をご覧ください」
「はい!」
今日この日に僕は生まれ変わるんだ!
しかし、僕は石板に刻まれた文字を見て絶望を感じた。
「ふっ、ふふっ、ロイドさんのスキルは...」
ずっと機械的に淡々と仕事をこなしていた修道女が抑えきれないといった感じに笑った。
「ロイドさんのスキルは☆0の状態異常です」
「......え?」
言われた言葉の意味を理解できずに思考が固まる。
「ははっ、お母さんあの人☆0だって!」
「しっ、見ちゃだめよ」
「可哀想、☆1のスキルすら貰えないなんて」
「これからどうやって生活していくんだろうね」
「私も☆0だったらどうしよう」
「大丈夫よ、☆0なんてあなたがあり得るわけないわ」
周りにいた人達が口々に僕の悪口を言っている。なんとかかたまるくびをうごかして手を付けていた石板を見る。
「......☆0?そんな......」
確かに石板には☆0の状態以上とはっきりと刻まれている。
「す、すみません。さっきの説明には☆0なんて無かったと思うんですけど......」
「くっ、くく、すみません。まさか☆0のスキルがで、出るなんて、ははっ」
「笑わないでください!!ちゃんと説明してください!!!」
その態度に思わず口調が強くなる。
「す、すみません。先程話したのはほとんどの人が当てはまる指標です。ごく稀に、1%にも遠く満たない確率で☆0のスキルが授けられる人がいます。☆0とは☆5のスキルよりもさらに希少なスキルの場合が多いのですが、そのほとんどが対して強い力ではなく、日常生活には使いにくいけれどハンターとして生活するにも使いにくいというスキルのパターンが多いです。なので、そんなスキルは☆0とされています」
僕は何を期待していたんだ。ここにきてスキルをもらったら人生が変わるはずだったのに。どうしてこんな。
「私も実際に☆0のスキルを見るのは初めてです。むっ、むしろ貴重な経験をありがとうございました。ふふっ」
こんな事になるなんて、僕はみんなに顔向けできない。レイラ......あんなに背中を押して応援してくれたのに......。
「以上で終わりなので、帰っていいですよ」
「......はい」
僕は全てがどうでも良くなるような気持ちを抱えたまま教会を後にした。
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