第十六話 スピカと別れ

「あ、あれ見てよレイラ」


 レイラが何かと視線を上にあげる。


「あそこがスピカじゃない?すごい大きな教会があるよ」

「ほんとだ。きっとあそこでスキルをもらうのね」

「きっとそうだね!旅に出て二週間、長かったようで早かったね」


 そのまま歩いていくと検問をしている兵士に一人ずつ止められ検査されている。


「はい次」

「行くよ、レイラ」

「うん」


 兵士の呼ばれて二人で歩いていく。


「君たち身分証はある?」

「はい、それなら」


 僕とレイラはギルドカードを兵士に見せる。


「おっ、二人はハンターなのか!しかもEクラス?!」

「はい!」

「すごいな......二人ともこんなに若いのに」

「いえいえ、全然です。それで中には入っても大丈夫ですか?」

「ん?あぁ、入ってよし!」

「ありがとうございます!ほら、レイラも」

「ありがとう」


 何事もなくすんなりとスピカに入ることができた。入って僕とレイラはその光景に目を見開き、口を開けてしまった。そこには人間と魔族が数多行き交っていた。


「そこの可愛いお耳のお姉さん!少し食べて行かないか!!!」


 いきなり近くの人間のおじさんに話しかけられる。


「あ、い、今は大丈夫です!」

「そっか、兄ちゃんもいらないか?」

「僕も大丈夫です!また後で来ますね!」


 お店の人も人間、魔族関係なく平等に接している。人間と魔族で手を繋いでいる恋人風の人もいる。


「本当に人間と魔族が共存している国なんだね......すごい国だ」

「私も実際見てみるまで半信半疑だった。人間と魔族で争っていることなんてまるで嘘みたいね」


 僕が今まで過ごしてきた世界ではあり得ない光景を目の当たりにしながらもとりあえずレイラに提案する。


「じゃあレイラ、とりあえず何か食べよっか。僕もうお腹ぺこぺこだよ。久しぶりに暖かい良い料理が食べたい」

「いいね、行こう」


 近くにあったご飯屋さんに入ってみる。


「いらっしゃーーーい!!!お客様何名様ですか?」


 猫の耳を生やした女の人が出迎えにくる。


「二人です」

「はーい!ご案内します!」


 先に案内され、キョロキョロと周りを見渡す。やはりお店でも人間と魔族が入り混じっており、楽しそうに食事をしている。


「ご注文お決まりですか?」


 少しするとさっきとは別の人間の女性が注文を取りに来る。


「えーと、この本日のおすすめランチを二つとリンカのジュースを二つ。あ、後季節のケーキを一つお願いします」

「はい、かしこまりました!」


 注文してからものの数分で頼んだものが届く。


「お待たせしましたー!おすすめランチとリンカジュース、季節のケーキでーす!」

「はいありがとうございます。じゃあ食べよっか、レイラ」

「うん」

「「いただきます」」


 僕は鉄板で焼かれている大きいステーキに噛み付いてみる。


「おーいしいー!!!」


 かじった瞬間、凝縮されていた肉汁がたっぷりと溢れ出してくる。


「ロイド、このサラダも美味しいよ!」


 サラダもすごく瑞々しい新鮮なものがふんだんに使われていて美味しい。


「美味しいなほんと!リンカジュースはどうだろう」


 グラスいっぱいに入っている黄色とオレンジの中間のような色のジュースを喉で音を立てて飲んでみる。リンカシュースも搾りたてが使われているようで、甘酸っぱい刺激が舌と喉をほどよく刺激する。


「これも美味しいよ!飲んで見なよ」

「ほんとだ!すごいね自由都市国家スピカ。こんな美味しい料理初めて食べたよ」

「ほんとだね。ヘレンさんの料理も美味しいけど、どちらかというと家庭的な味だもんね。比べてこっちはザ、料理屋さんって感じ」


 はちきれんばかりの腹を二人してさすりながら、また騒がしい街並みへと戻る。


「ありがとうございましたー!!またのお越しくださいませ!!」


 給仕の女性が見送ってくれる。


「良い店だったね」

「とても良かった。また来たい」

「そうだね、レイラはしばらくスピカにいるの?」

「そのつもり」

「ならまた来れるね」

「......そうね」


 一瞬ではあるけど、レイラが少し寂しげな表情をした。


「ん?そういえば、スピカで何か買う約束だったけど何にする?」

「うーん、何にしようかな」

「あそこに見える教会でスキルをもらえるみたいだからもうすぐ着いちゃうよ」

「急かさないでよ。あっ!あれが良いわ」


 レイラがアクセサリー屋を指差しながら僕の手を引く。


「へー、レイラもこういうの興味あるんだ」

「そりゃあるわよ。どれにしようかしら」

「おっ嬢ちゃん可愛いねぇ。こーゆーのはどうだい?」


 そう言いながら、店主が差し出してきたのは赤く光る石が付いている指輪だ。


「これは火のスキルや魔法の力を増す魔石がついた指輪さ。それに嬢ちゃんの綺麗な金髪ともバッチリ似合ってる」

「そういうのは良い。それよりこれは?」

「ちょっとレイラ、言い方が」

「良いのさ良いのさ。それは二枚貝のペンダントさ。それを自分の想い人にあげる事で、その二人の絆は永遠に無くならなくいつかまた会わせてくれるという願いが込められて作られているものさ」

「これにするわ」

「毎度あり!!金貨一枚だ!」

「ま、払うのはロイドなんだけどね」


 そう悪戯そうな笑みを浮かべこちらを向く。


「き、金貨一枚か。結構高いんだな......」

「なんでも買ってくれる約束よね?」

「分かってるよ......はい、おじさん」

「あいよ!確かに!また寄ってくれよな!」


 店主から二つ貝のペンダントをもらい大事そうに手に取るレイラに声をかける。


「じゃあ、教会まで歩こうか」


 空を突き抜けるような大きさの教会。今日僕はここでスキルをもらって生まれ変わって、散々僕を馬鹿にしてきた村の人やみんなをきっと見返してやる。そして強いハンターになって世界を渡り歩いて、Sクラスハンターに絶対なってやる。


「着いちゃったね」

「そうね。頑張って良いスキルをもらってくるのよ」

「頑張っても良いスキルが貰えるわけじゃないけどね」

「そういう気持ちで行けってこと」

「分かったよ」

「私がいなくてもちゃんとマナ増やす練習とかするのよ」

「もちろん。レイラに教わったこと忘れないよ」

「うん。じゃ、お別れね」

「そうだね。元気でね、レイラ」

「ロイドもね」


 こんなに寂しい気持ちになるのはいつぶりだろうか。レイラとは洞窟の中で出会ってからここまで、短かったけどとても濃密で濃厚な日々だったな。またどこかで会えると良いなと心から思った。


「ロイド、これあげるわ」

「え?!」


 レイラがさっき買ったばかりの二つ貝のペンダントの片方を僕に差し出す。


「だから、これロイドにあげるわ」

「でも、これは」

「いいの!それとも私からもらうのは嫌?」

「そんなことないよ!」

「なら受け取って」


 戸惑う僕にレイラが伏し目がちになりながらペンダントを渡す。


「大切にするよ」

「ええ、私も」


 何故か少し緊張しながら受け取ったペンダントを首から掛ける。


「じゃあ、今度こそお別れだね」

「うん、またね」


 その時だった。僕の右頬に柔らかく、暖かいものが押し当てられる。


「?!」

「今のは何回も助けてくれたお礼!それに、私たちはまた会える気がするよ。その日まで元気でね!」


 僕は柔らかく暖かいもの、レイラの唇が押し当てられた部分を触りながらその場で固まり尽くしてしまう。


「な、な、なんだったんだ......」


 僕は遠くまで小走りでさっていくレイラを嬉し寂しい気持ちで見送りながら、今の行為の意味に頭を真っ白にするのであった。

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