第十五話 最後の夜 後編

「行くよ!!!」

「まかせて!!」

「ガオォゥゥォォゥヴンンンン!!!!!


 僕はベアウルフに向けて駆け出す。ベアウルフの叫び声が耳をつんざき、肌をヒリヒリと威圧してくる。でも怯えていては僕もレイラもここでこのベアウルフの餌になってしまう。それだけは絶対に避けなくちゃいけない。


「うぉーーー!!!!」


 ナイフにありったけのマナを通し、ベアウルフの首磨けて突き刺す。その瞬間にベアウルフの姿がまた消える。


「フラッシュ!!!」


 レイラの魔法で数瞬ではあるが、小さな太陽のような光が頭上に瞬きあたり一面を照らす。


「グルゥアァゥア?!」


 姿が見えなくなっていたベアウルフがその光によって姿を現した。しかしその位置は僕から見て視覚の位置で、更に噛み付く直前。一瞬怯みはしたものの、そのままの勢いでベアウルフが僕の首に喰らいつく。


「ガルァゥゥゥァァァァアアァァァ!!!」


 ベアウルフが僕の首に食らいつき、勝利を確信してレイラにも襲い掛かろうとした時ベアウルフは異変に気づいた。


「ガウ?」


 僕の喰い千切られたはずの下半身が消えたことに。


「くらぇええぇぇぇ!!!」


 困惑しているベアウルフの頭上からナイフを逆手に持ち全身全霊の力を込めてその首にナイフを突き立てる。


「ガァギャァァアァァァ!!!!」


 ベアウルフの断末魔があたりに木霊する。


「や、やったのか......?」


 ピクリとも動かなくなったベアウルフから突き刺したナイフを引き抜き、そのままの勢いで尻餅をついてしまう。


「ロイド!!!すごい!!!」

「うわぁっ」


 後ろからレイラが走ってきてそのまま抱きつく。


「良かった......ほんとにもうダメだと思った」


 いつもはあまり感情を表に出さなくて、表情もそこまで多くは変えないレイラなだけに、半泣きで抱きついてくる姿に一周回って安堵した気分になる。


「レイラのおかげだよ」

「そんなことない!ロイドが強くなってくれたからだよ!よかった......」


 しばらく泣き続け、ある程度落ち着いたレイラが問いかける。




「それにしてもよくあんな作戦思いついたね」

「ほんとにたまたまだよ。ベアウルフは夜目は効くけど鼻はそこまで良くないことを思い出して、それならインビシブルをレイラに使ってもらって僕の偽物を作れば真っ直ぐ飛んでくると思ったんだ。正真正銘の一か八かの賭けだったけどね」

「ううん、思いつくだけでもすごいよ。私全然そんなの思いつかなかったもん」

「ありがと。でもそれも全部レイラの魔法があってくれたからだよ」

「そんなに言われると少し照れるな」

「ふふっ、レイラが照れるなんて珍しいね」


 二人で毛布にくるまりながら空を眺める。まるで最後の夜を少しでも良いものにするようにと星がいつもに増して光り輝いているような気もする。


「今日で最後だね、この度も」

「そうだね。長かったようであっという間だったよ。レイラの鬼教官ぶりも今となってはレイラなりの思いやりがあったこと分かるよ」

「だろ。私なりの優しさは色々なところにあったよ」


 焚き火に薪をくべる。ぱちぱちとした音があたりに響く。


「もうすぐ寝ようか?」

「......まだ寝たくないな。寝たらもうロイドとはお別れになるから」

「何しおらしいこと言ってるんだよ。レイラそんな感じだったか?」

「う、うるさい。やっぱりもう寝よ」

「わかったよ。じゃあ僕は集めてた藁取ってくるから、火消しといて」

「りょーかい」


 重たい腰をあげ、近くに集めた藁を取りに行く。




「(どうしてあんなこと言っちゃったんだろ。疲れたのかな私も)」

「おーい、こんくらいで良いかー?」

「い、いーぞ!」

「ん?どうした?」

「なんでもない」

「そっか。じゃあ寝ようか」

「うん」

「おやすみ、レイラ」

「おやすみ、ロイド」


 そうして優しい夜に包まれながら僕たちは眠りについた。


 次の日、朝僕が目覚めるとレイラがいない。昨日のこともあり心臓がうるさい。飛び起きすぐに辺りを探し回る。


「レイラ!どこだー?!」

「(藁はまだ暖かいからそこまで遠くに行ってないはず。まさか昨日のベアウルフの残党に襲われて?!)」

「レイラー!」


 森の方に入っていき、とりあえず手当たり次第近くを走り回る。


「レイラー!居たら返事してくれ!!」

「目の前が少し開けている。戦っている気配はないけどもしかして......)」


「うっ」


 眩しさに目を眩ませたが、すぐにあたりを見渡す。


「ん?これは池?」


 ザブンっ!!!


 一際大きい音が聞こえてそっちに目を向ける。


「レ、レイラ?」

「......なんでこんなとこにいるの?」

「起きたらレイラがいなくて、もしかしてまたベアウルフに襲われてたらとか思ったら」

「うるさい!!!早くあっちいけ!!!」

「うわ、なんだよ!昨日までは普通に僕の目の前で着替えてたらしたじゃないか!今更水浴び見ちゃったくらいで」

「うるさい!!!!!早くどっか行けって!!!!!」

「いーだろ別に、ついでに僕も一緒に浴びちゃって良いか?」

「............こ、」

「こ......?」

「この祈りは根源の焔の恵みを受け、その敵の全てを燃やし尽くす......ファ、ファイヤーボール!!!!!!!」


 気付けば僕の目の前に大きい岩程の火の玉が飛んできていた。


「うわあぁぁぁぁあぁぁぁ!!!!」




 僕はチリチリに焦げてしまった前髪を手で伸ばしながらレイラに話しかける。


「レイラごめん、今まで僕が無神経だったよ」

「ふんっ、私だってこれでも乙女なんだから」

「だからごめんって」

「......スピカで何か買ってくれたら許す」

「分かった、何でも買うよ。幸いお金はたくさんあるしね」

「あとスピカまではどれくらい?」

「このペースでいけば後一時間くらいかな」

「そっか。昨日のベアウルフの核とか、変異種の角はちゃんと持ってる?」

「うん。ニーナさんにもらったマジックバックにしっかりと入ってるよ」

「いくらになるか楽しみね」


 そのまま二人で色々な話をしながら残りの旅路を惜しむように歩き続けた。

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