第十四話 最後の夜 前編
スピカに向かい初めて今日で十三日目。もうスピカへの旅も終わりは近づいている。
「ロイド、大分マナの保有量が増えてきたんじゃない?教会や大きいギルドに行けば自分がどれくらいマナがあるから測れる装置もあるはずだから、それで測ってみるといいよ。普通の人は二百くらいか平均だったはずだよ」
「お、おかげさまで......」
僕はもう何回もこの度で気を失っている。二十回目くらいからもう数えるのをやめたよ。でも僕が気を失う度にマナサプライで強制的に叩き起こされてまたマナが枯れるまで使わされる。本当に地獄の方が優しいんじゃないかって位の鬼教官ぶりだった。
「そういえば、レイラはよくマナ欠乏症にならないね」
「私は魔族だから、人間より元々マナの量が多いの。まぁそれでも限りはあるから、使いすぎると私も倒れちゃうけどこの位なら全然。それに、私は魔族だから違う秘密もあるの」
言われてみれば確かに、出会った時も様々な魔法を連発してたけど大丈夫そうだったな。
「秘密?まぁ今度でいいかそれは。それにしても、なんかあと少しでスピカってなると寂しい気もするね」
「どうして?スピカに着くんだし、スキルも貰えるんだから楽しみなんじゃないの?」
「いやそれ自体は楽しみなんだけど、レイラとここまで旅してきてそれももうすぐ終わりなんだなって」
「......それって私を口説いてる?」
「え?!いやいやいやそんなんじゃないよ!本当に、純粋に寂しいなって」
「ふふ、分かってるよ。なんかあっという間だったね」
本当に振り返ればあっという間だった気がする。スライムと戦って気を失って、あの大木切ってみてとか無茶振りをされて、気を失って......
うん、やっぱり気を失ってばっかりだったな。
「今日はそろそろ寝床の準備する?」
「そうね、だんだん暗くなってきたもんね。私はそこら辺で枯れ枝を集めてくるからロイドは寝る用の藁を敷いたりしといて」
「了解」
森に入っていくレイラを見送った後、僕は寝床の用意を始める。まず、いくら藁とはいえ下に石があったら寝にくいし痛いので大きめな石は全て取り除く。あらかた地面が整ったら、ニーナさんにもらったマジックバックから藁を取り出し、薄いところが出来ないように綺麗に二人分並べる。
いつも藁を並べる時は二人が寝れる分の広さに敷いている。正直僕には女の子と一緒になるのは心臓に悪いのだが、話して別々に藁を敷くのも大変だし前に一度「それ意味ある?」ってレイラに言われてからはこうしている。
「レイラ遅いな......」
大体いつも敷き終わるくらいのタイミングでレイラが戻ってくるのだが、今日はいつもより遅い気がする。
「ウォォォオォォォン!!!」
耳をつんざくような背筋がビリビリと震えるけたたましい声が響いた。
「なんの声だ?今のはまさか、ウルフ系の魔物か?!そんな、ここら辺には居ないはずじゃ」
謎の遠吠えが一帯にこだました直後、声が聞こえた方から爆発音が聞こえた。
「もしかしてレイラが戦っている?!助けに行かないと!」
僕は一心不乱に駆け出した。森の中は道も舗装されていないし、そこら辺から木の枝が突き出ていて暗闇なので体の至る所に擦り傷を作るが構っている暇はない。
「(レイラ、どうか無事でいてくれ......)」
「ガァァァァアァ!!」
「ウォン!!!ウォン!!」
「(かなり魔物たちの鳴き声が近づいてきた。どこだ、レイラ......!)」
「この祈りは根源の焔の恵みを受け、その敵の全てを燃やし欠けらも残さず爆ぜん......ファイアーボム!!!」
「いた!レイラ!助けに来たよ!」
レイラがこちらを勢いよく振り向く。そして、レイラがこちらを振り向くと同時に、声の主であったベアウルフ達も一斉に僕という標的を捉えた。
「なんで来たのロイド!私達じゃこいつには勝てない!逃げて!」
「そんな!!レイラを置いて逃げるなんて僕には出来ない!うぉあぁぁぁ!!!!!」
僕は即座にマナを全力でナイフに込めて頭身を伸ばし、ベアウルフの群れに向かって横薙ぎに振る。
「ガァァァァッ?!!」
いきなり想定していない距離からの斬撃を食らったベアウルフ達の何体かが首を飛ばす。
今僕の視界に収まっているのは全部で七体。その内三体を今完全に倒し、内二体に浅くはない傷をつけれた。
「ロイド気をつけて!あの真ん中の赤いツノがあるやつ、あいつきっと変異種だよ!!」
「!変異種だって?!そんな、変異種は確か他の個体の統率も取ることができて、比べ物にならないくらい強いんだよね......」
「そう、だからまずその他から倒すよ!!」
「了解!」
そしてまた再び激しい交戦が始まる。
「「「ガルルルゥゥァ!!」」」
変異種以外の三体が左右正面から飛びかかってくる。
「この祈りは美しき氷の加護を受け、我が身を襲う悪意からこの身を守らん......アイスウォール!」
すかさずレイラが氷の防壁を張ってベアウルフの突進を阻む。ベアウルフはその名の通り狼のような姿をしていてその俊敏性が一番の武器だが、その手はまるで大熊のように大きく鋭い。
「今よロイド!私の壁ごと切り裂いて!」
「いっけーーー!!!」
ベアウルフが壁にぶつかった瞬間に合わせて、刀身を長く、鋭くしたナイフでベアウルフを横一直線に切り裂く。
「や、やったぞ」
「良くやったわロイド!」
なんとか敵のうち六体は倒すことができた。しかし、連発してマナを大量に使ったせいかかなり息が上がってしまってる。
「はぁ、はぁ、レイラ僕マナが結構限界かもしれない。ナイフにマナを通すのは出来て後一回ぐらいかも」
「よくやってるわロイド。私はまだもう少しだけ余裕があるわ。でもそれもいつまで持つか......。ここであの変異種がすんなり引いてくれればいいんだけど」
「グルルルルルルルルル」
「すんなり引いてくれそうにないわね。」
こちらを突き刺すように睨んでいるベアウルフが一声あげる。
「ガオォゥゥォォゥヴンンンン!!!」
その瞬間一瞬変異種の姿が消える。
「?!ベアウルフはどこへ?!!」
ブルっ
首筋に悪寒が走った。
「アイスウォーール!!!」
直後にレイラの魔法が僕達をくるりと囲う様に出現した。
「ガウっ!!!!!」
僕の右後ろで氷の壁に変異種の牙が刺さる。もしレイラの咄嗟の魔法が無ければ死んでいたかもしれない。
「あ、ありがとうレイラ!!」
「なんてことないわ!でも厄介ね、時間制限があるみたいだけど消えられるのかしら」
「グルルルルルルルルル」
こちらを睨み続けたまま変異種が少し後ろに下がっていく。それに合わせて一度アイスウォールを解除する。
「レイラ、僕に考えがあるんだけど......」
「教えて」
「(ゴニョゴニョゴニョ)」
「え!そんな作戦本気なの?!」
「本気だよ。少し危険だけど、やってみる価値はあると思う」
「分かったわ。チャンスはきっと一回しかないからね」
そうして再度僕らとベアウルフ変異種の視線が交差する。
「行くよ!!!」
「ガオォゥゥォォゥヴンンンン!!!!!
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