第十二話 旅立ち前夜

「まさかレイラの嬢ちゃんが魔族なんて......」

「ギルマスー!!洞窟の奥にゴブリンの死体がゴロゴロとありますよ!!!しかも不思議なことに火、風、水とか様々な魔法でやられてます!

「......おいお前ら、レイラの嬢ちゃんが魔族だってことは絶対に誰にも口にするな。絶対にだ」

「......!了解」

「分かりました」


 こちらに小走りになりながら若いギルドの男が話す。


「おかしいっすよねー、ロイドはまだスキルも持ってないはずなのに誰かが助けてくれたんすかね」

「とりあえずロイドが無事だった、それだけで十分じゃないか。みんな集まったらギルドに戻るぞ!!」

「「「おう!!!」」」




「ん......」


 目を開けるとそこには見知らぬ天井が広がっていた。何とか体を起こし辺りを見渡すと僕の膝に頭を乗せ寝ている少女がいた。起こさないようにそっとベッドから出て、近くにあった水に手を伸ばす。まだ少しフラフラするが、傷などはほとんど痛くない。


「あれ、ロイド起きたの?」


 さっきまで膝で寝ていたレイラが声をかけてくる。


「うん、おはようレイラ」

「おはよう」

「ちなみに僕はどれくらい寝ちゃってたの?あとここはどこ?」

「んー、私も寝ちゃってたから分からないけど、私が起きてから丸二日くらいかな。ちなみにここはギルドの二階だよ」

「え!そんなに寝てたのか......。別に傷とかは深くなかったはずなんだけど」

「あぁ、ロイドがずっと寝ちゃってたのはマナ欠乏症だよ」

「マナ欠乏症?」

「そう。あのナイフを使った時急に切れ味が良くなったり伸びたりしたでしょ?あの時にマナを使いすぎたんだよ」

「そうだったのか。そもそもあのナイフにマナを込められることすら今の今まで知らなかったよ」

「知らないで使ってたことに私は驚きだよ。それはそうと下に顔を出しに行く?みんな心配してたよ。私はここで待ってるから」

「それもそうだね、行ってくるよ」


 レイラの首肯が見えたので僕はゆっくり下に降りる。


「......!ロイドさん!!!」


 僕が降りてくるのに真っ先に気付いたニーナさんが凄い勢いで走り寄ってくる。


「ロイドさん大丈夫ですか?痛いところとかはありませんか?もう体調は大丈夫なんですか?」 

「ニ、ニーナさん痛いですっ。大丈夫ですよ」

「ごめんなさい、病み上がりなのに。私本当に心配したんですよ。もしロイドさんに何かあったらどうしようって、私がリーザル草のクエストなんて勧めたせいでって......!」

「でもなんとも無かったですよ!それに、レイラのことも助けられましたし」

「......そうね。それでレイラちゃんの事なんだけど」

「おうロイド!!ようやく目を覚したのか。早速で悪いんだがちょっとギルマス室に来てくれるか?」

「......?分かりました」


 何故か名残惜しそうなニーナさんから離れ、ギルマスに呼ばれてギルマス室に向かう。きっとこないだのゴブリンの事だろうとは分かっているが、少し緊張する。


「とりあえずそこら辺座っていいぞ。汚くて悪いな」

「はい!」

「早速なんだが......」


 ギルマスが少し言葉を詰まらせる。


「今回は本当に申し訳ないことをした!!!」


 勢いよく机に頭がつくぐらいにギルマスが頭を下げる。


「いやいや、そんな、頭をあげてください!」

「いーや、これはギルドの責任だ。ゴブリンが群れになっていることに気づかなかった事も、そこに新人であるお前を向かわせた事も全てだ。なんて詫びたらいいのか正直分からない」

「全然大丈夫ですって、誰も怪我しなくてよかったです」

「とりあえずこれは気持ちだ、受け取ってくれ」


 ギルマスが何がでパンパンの皮袋をずしんとテーブルの置く。


「こ、これは?」

「金額五十枚だ。金でどうこうなる事ではないのは分かっているが、他に何かしてやれる事もないからな」

「ご、五十枚?!そんな多すぎます!」

「いいんだ、受け取ってくれ。それと話はもう一つあるんだ」

「もう一つですか?」

「あぁ、レイラの嬢ちゃんの事だ」


 レイラの事?確かにレイラは身元不詳の魔族だけども何か不都合があったのだろうか。


「知っているとは思うが、この世界で人間や亜人、魔族が不可侵条約を結んでいるのは自由都市国家スピカだけだ。レイラが魔族だということは知っているな?」

「はい」

「やはりここら辺でも、魔族に対し良くない印象を持っている人は多くいる」

「つまりレイラをここから追い出して欲しいって事ですか?」

「そうとは言ってない。だが、元々レイラの嬢ちゃんの目的地はスピカみたいだし、ロイドもスピカに向かうなら一緒に行ってはどうかと思ったんだ」


 なるほど。それなら確かに一緒にスピカに向かった方が良さそうだ。レイラは魔法も使えて強いし、何より目的地が一緒なら別々にいく必要もないしな。


「そういう事ですね。てっきり僕はレイラが魔族だから厄介払いをしたいのかと思っちゃいました」

「俺的には二人してこのギルドでハンター活動してもらいたいんだがな。まぁでもロイドはどっち道スキルを授かりにスピカに行くし、それなら一緒に行動したらと考えたわけだ」

「分かりました、僕からレイラには言ってみます」

「おう、頼んだぞ」

「ついでに、クラスもFからEに上げておくぞ。なんたってあの量のゴブリンを倒してるんだからな。それにEクラスの方が色々融通も効くしな」

「ありがとうございます」


 んーーー、凝り固まってる背中を伸ばしながら考える。お金は今もらったので十分すぎるくらいあるし、明日にでもスピカに向かおうかな。スピカまではある程度時間もかかるし、早く出るに越したことはないだろう。そんなことを考えながら二階に戻る。


「レイラ、ちょっといい?」

「なに?ロイド」

「レイラもスピカに向かってるのか?」

「そうよ、あそこは魔族差別もないし過ごしやすいらしいから」

「そーなんだ、じゃあ明日とかに出発でいいかな?」

「いいよ」

「了解、僕は今から一回自分の宿に行くけどレイラも来る?」

「うん!いく!」

「じゃいこっか!」


 自分の宿に向かうのもすごく久しぶりな気がする。横にレイラがいることもあり、何故かいつもとは少し違う変な気分になる。鈴の付いているドアを押し開けると


「いらっしゃー、?!ロイドちゃん!!!久しぶりね!!!どこ行ってたのよ心配したわよ」

「お久しぶりです。すみません、依頼をこなしたときに色々あって、しばらくギルドの上で寝ちゃってました」

「そうなのね〜、何事もないなら良かった。あら?お隣の可愛いお嬢さんは?」

「まぁ色々あって一緒に行動するようになったレイラです。一緒の部屋でいいんで一晩泊まってってもいいですか?」

「もちろんよ。ゆっくりしていきなさい!」

「ありがとうございます!ご飯も沢山食べさせていただきます!ほら、レイラも挨拶して」

「レイラよ。よろしく」

「こちらこそよろしくね、レイラちゃん」

「じゃあ部屋に行くんで」

「分かったわ〜」

「じゃ、行くよレイラ」


 埃まみれになって出たっきりを想像していたが、部屋の中は凄い綺麗だった。きっとヘレンさんが僕がいない間の部屋も掃除をしていてくれたんだろう。ほんとに何から何まで申し訳ないな。


「レイラごめんな少し狭い部屋で。明日からは少し長い旅になるから、ベッドで寝ていいよ。僕はソファで寝るからさ」

「なんでだ?ロイドの部屋なんだからロイドがベッドで寝ればいいよ。私は床でも寝れる」

「いやいや、女の子だしベッドで寝なって」

「やだ」

「寝てよ」

「......ロイドがベッドで寝るなら一緒に寝てもいい」

「?!?!なんでそうなるの!僕も男だよ!」

「だってここはロイドの部屋だから、家主を他で寝させて私だけ悠々とベッドで寝るわけにはいかない」

「でも」

「じゃないなら床で寝る」

「......分かったよ、一緒に寝よう」

「うん、それでいい」


 いやいやいやいや、僕女の子と寝たことなんて無いけど!!だめだ、ご飯もまだなのに既にドキドキする。


「と、とりあえずご飯食べに行こっか」

「行く」


 美味しいご飯をたらふく食べた。また戻ってくるとはいえ、スピカに行って帰ってくるのは1ヶ月は先になるからヘレンさんの作る料理の味を心に刻むように味わってそれでいて満腹になるまで食べた。


「うぷ、もう食べれない」


 二人でぱんぱんの腹をさすりながら部屋へと戻る。部屋に入ってベッドが目に入ったときさっきまでは忘れていた心臓の鼓動がまた大きく聞こえる。


「(だめだ、寝れる気がしない)」

「ロイドはもうベッドに入る?」

「いや、一応明日の荷物を確認してから寝るよ」

「そう、じゃあ私は先に横になってるね」

「分かった」


 準備は怠ってはいけない。準備を怠って死んでいった人を何人も聞いたことがある。それに今回はレイラも無事にスピカまで連れていかなくちゃいけないから僕がしっかりしないと。そんなこんなで準備を終えた僕は深呼吸を2.3回する。


 目を閉じているレイラを起こさないようにゆっくりとベッドの中に入る。今までまじまじと見たことなかったが、とても整った顔だ。まだどことなく幼さは残るが凄い可愛い感じの女の子だ。


「(だめだ、考えたらまた破裂しそうなほど心臓が脈打ってる)」


 レイラに背を向けるように反転し、目を閉じる。疲れていたのか先程までとは打って変わって優しい眠気が襲ってくる。


「おやすみ、レイラ」


 そう小さく呟き舟を漕ぎ出す。


「おやすみ、ロイド。明日からもよろしくね」


 そうレイラが小さく呟いたのは僕には聞こえないのであった。

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