第十一話 レイラ
「おいニーナ!ロイドが向かったのはここの洞窟で間違いないか?」
「はい、確かにここを紹介しました。どうしよう、私のせいでロイドさんが......」
「馬鹿なこと言うな、まだゴブリンに遭遇してないかもしれない。とりあえずみんな手分けして探せ!!」
「「「了解!!!」」」
ロイドさん......どうか無事でいて......
「これ見てくれ!」
「これは......血?」
「もしかして!ロイドさん!!!」
「ニーナ待て!まだゴブリンがいるかもしれない!!」
「そんなこと言ってる場合じゃありません、今この瞬間もロイドさんが戦っているかもしれない!」
私がいつも通りヒーラル草の依頼を紹介していれば......。リーザル草なんて教えなければこんな事にはならなかったのに。いや、でも後悔していても仕方ない、一刻も早くロイドさんを見つけなきゃ。
探しはじめて数分、ほんの些細だが違和感があった。なぜかこっちの道の方が獣のような匂いがするような気がする。
「みなさん、こっちの方を探してください!!」
もしかしてゴブリンの群れがいるのかもしれないと思い、近くにいたハンター達を集めその匂いを辿っていく。そしてその先で私はその光景を目にした。
「ロイドさん!!!!!」
ロイドさんを見つけた瞬間私は走り出した。もう二度とあんな悲しい思いはしたくなかった。どうか無事でいてと願いながら走る。
「ロイドさん、大丈夫ですか!!......息はある、気を失ってるだけね。でもこんなに傷だらけになって。ヒール!ヒール!ヒール!」
気を失っているだけで本当によかった。でもこの傷は何、もしかしてゴブリンと戦ったの...?
「この祈りは大地の恵みを受け、我が道を阻むものをその風にて弾け飛ばさん......ウィンドボム!!!」
「きゃあ!!」
一瞬だった。気付いたら私に風の塊が直撃していて、数メートル後ろまで飛ばされた。飛び掛けた意識を何とか保ちながら自分にヒールをかける。
「ニーナ!」
「大丈夫かニーナ!」
「いきなり何があった!」
ギルドの面々は今しがた風の塊が飛んできた方向を見る。そこには、ロイドの傍でロイドを守るように立つフードを被った少女がいる。
「今のウインドボムはあの子が使ったのか?」
「そんな馬鹿な、あんな少女がこんな威力のスキルを!それに詠唱していたようにも」
一同が混乱する最中、少女は言い放った。
「私達に近づかないで!彼は今私をゴブリンの群れから助けるのに力を使い果たして倒れているの。目的がゴブリンなら彼がもう全て倒したわ!だからこっちには近づかないで。嘘だと思うならこの奥を見てきて、沢山のゴブリンの死体があるよ」
ここでさらに一同は混乱する。ロイドがゴブリンを倒した?それも一人で何体もいる群れを相手に......?スキルをまだ獲得してないロイドが?
「おいお嬢ちゃん、それは本当かい?」
「本当よ、私に嘘つく必要がないもの」
「おい、ちょっと確認してこい」
とりあえず、にわかには信じがたい話だがギルマスが念のため確認に行かせる。
「お嬢ちゃん、よく聞いてくれ。俺らはそのロイドの加入しているギルドの仲間だ。決して敵なんかじゃない。むしろここには、ゴブリンの群れがいると聞いてロイドをみんなで助けに来たんだ」
「え......?そうなの?」
「あぁ、本当だ。ほら、証拠にこれを見せよう。おい、お前らも」
そう言って、そこにいた面々は皆ランクが入っているハンタープレートを取り出し、少女に見せる。
「ロイドの首からも同じものがぶら下がっているはずだぞ。確認してみな」
「本当だ。じゃああなた達は本当に助けに来てくれたの?」
「あぁ、そうだ。もう近寄っても攻撃しないか?」
「......しない」
「ありがとう。おいお前ら!ロイドの様子を確認して、外に連れ出すぞ!ついでにそのお嬢ちゃんも連れて行ってやれ!」
ゴブリンを確認に行った面子以外がみんな外に出てくる。
「ロイドさん!本当によかった!でもなんで目を覚まさないの?私のヒールじゃ足りないの......ヒール!」
「お姉さん、ヒールをかけても無駄だよ。こいつは今肉体的疲労や怪我じゃなくて、マナ欠乏症で倒れてる」
「え?マナ欠乏症?そんなわけないわ、ロイドさんはスキルをまだ授かってないのよ?マナ欠乏症はスキルを使う際に、自分の今のマナ許容量を超えるとマナが足りなくなって倒れてしまう症状のことよ?」
マナは違うスキルによって消費量も違うし、人によっても持っているマナの量、そしてそのマナの回復速度も違う。しかし、スキルがまだないロイドさんは無くなる訳がない。
「だからそうだって言ってるでしょ。分からないなら他の人に聞いてみれば?後、さっきは話を聞かないでいきなり攻撃してごめんなさい」
「いいわ、攻撃してきたことは許します。だって、あなたはロイドさんのことを私たちが来るまでずっと守ってくれてたんだもんね。こちらこそごめんね、それとありがとう。ギルマス!来てください!」
近くで周囲を警戒しつつ、残りのパーティーの帰りを待つギルマスを呼ぶ。
「おう、どうした?」
「この子がロイドさんはマナ欠乏症で倒れてるって言うんですけど、まだスキルがないロイドさんがマナ欠乏症になることなんてあるんですか?」
「ん?本当か嬢ちゃん。どれ......本当だ、体の中を流れているマナの量が普通よりかなり少ない。普通スキルを使う際に体から外に出るマナだが、ロイドはスキルがないのにどうしてマナが外へ出ているんだ......」
ギルマスがマナの量を測定する腕輪をロイドさんに近づけながら話す。ギルマスと二人でマナ欠乏症の理由を考えていた時、少女からそれがさも当たり前のように答えを投げつけられた。
「ロイドの使っているナイフよ。後おじさん、私は嬢ちゃんじゃなくてレイラ」
「おう、悪かったなレイラの嬢ちゃん。それでナイフだって?」
「ええ、ロイドが使っている透き通るナイフは、使っている者のマナを吸収して、切れ味が良くなったり刀身が伸びたりするわ。実際に私がこの目で見た」
「......本当か?もしそれが本当だったとしたら偉いことだぞ。そんなの見たことも聞いたこともない」
「嘘つく意味があるかしら?目が覚めたら実際に見せて貰えばいいじゃない」
「それもそうだな。とりあえず、ロイドはこのまま宿まで連れ帰って、安静にして寝かせてあげよう。ニーナ!ロイドのことずっと膝枕してなくていいから、レイラの嬢ちゃんも怪我してるみたいだからヒールかけてやれ!」
ニーナがロイドから離れて立ち上がり、レイラにヒールをかけようとする。
「私はいらない。このくらいの怪我どうってことはないの、大丈夫だから」
「そんなことないでしょ、そんな傷だらけになって。血だって出てるじゃない!大人の言うことは聞きなさい」
「いらないって言ってるでしょ!」
「いいから、ヒール!」
ニーナがレイラにヒールをかけた時、そこにいたギルマスとニーナを含む十人のハンターは信じがたい光景を目の当たりにする。
「うわぁああぁぁぁあぁぁぁぁあぁぁぁあ!!!!!!」
ヒールを掛けられたレイラが叫びをあげ、激痛に身を震わせていた。
「え?」
「おい、ニーナが今かけたのはヒールだよな」
「あぁ」
「ヒールを掛けたのに痛がって叫びをあげていたのか......?」
「まさかヒールを掛けられてダメージを受けるのなんて......」
痛みに倒れ地面に伏したレイラの頭からフードが剥がれる。そのフードの下からは渦を巻く角が現れた。
「......魔族だと?」
その場にいたハンター達は全員が驚きのあまり言葉を失くした。
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