第八話 初めての依頼
朝目覚めたら隣にはニーナさんの姿はなかった。その代わりに置き手紙があり、そこにはこう書いてあった。
「ロイドさんへ。昨日はお恥ずかしい姿を見せてしまいましてすみませんでした。私は先にギルドに行くので、ロイドさんも是非支度などが済みましたら来てくださいね。ニーナ」
別に恥ずかしい事なんて何もなかったのにな。むしろ僕はいつも元気で優しい印象のニーナさんにまた別の素顔を見れて嬉しかったけど。懐からおじいさんにナイフの一緒にもらった肌身離さず持ち歩いている懐中時計を取り出し時間を確認する。時刻はすでに正午をすぎており、いかに自分が昨日疲れていたかがよく分かった。
「んん〜、まだ疲れは残ってるけど下で朝ご飯でも食べてギルドに行こうかな。ニーナさんに改めてお礼も言いたいし」
そうと決めたら行動、服を着替えて軽く寝癖を整え下に降りていく。
「おはよう〜ロイドちゃん!ニーナちゃんならもうギルドに行ったわよ〜」
「おはようございます!置き手紙があってそう書いてありました!」
「あら〜、生真面目な子ねほんと。じゃあロイドちゃんもご飯食べて早く行きなさい」
「はい!いただきます」
少し硬めのだけど、味がしっかりしている麦のパンと肉の切れ端が入っている野菜のスープを飲みさっそく向かおうとする。
「朝からこんな美味しい料理ありがとうございます!」
「いーのよ〜、昨日の夜の料理の具材の残り物とかなのよ〜」
「え、それなのにこんな美味しいんですか?」
「私こう見えても、スキルは料理人なの♡レア度は☆2なんだけどね」
なるほど、と納得がいった。料理人というスキルもあるのか。それならこんなに料理が美味しいのも分かる。もしや、僕が知らなかっただけで食事処はみんなスキルが料理人の人がやってるのかな。そんなことを考えながらもパクパクとスプーンが進んでいく。
「ごちそうさまでした!じゃあ行ってきます!」
「気をつけて行ってくるのよ〜」
「はい!」
しっかりとヘレンさんに挨拶をし、ギルドに向かって歩き始める。
ギルドへの道は昨日は夜で暗かったのもあり、全く違うものになっていた。
様々な人が行き交う街で、アクセサリーなどの小物を売っている店もあれば、防具屋や武器屋など色々なお店がありさすがこの辺で唯一ギルドのある大きい街だと感心した。
そして昨日ぶりにギルドの前に着く。昨日に比べたら少しではあるが緊張で心臓がバクバクしてる。
すーーーはーーー
深呼吸をして扉を開き中に入る。ギルドは昨日と同じようにたくさんの人で賑わっていた。とりあえず、ニーナさんを探して昨日のお礼を言わないと。
「おはようございます!ロイドさん!」
そう思っていると、ニーナさんの方から元気に声をかけてきた。
「おはようございます、昨日はありがとうございました」
「いえいえ、こちらこそごめんね部屋まで泊めてもらっちゃったあげく爆睡しちゃってて」
「「「ニーナちゃんがお泊まり?!?!」」」
周りのハンターたちが一斉にこっちを向いた後、聞き耳を立ててる気がするが気にしないでおこう。
「いえいえ、大丈夫ですよ」
「それなら良かったです。早速依頼に行くんですか?」
「はい!そう思ってるんですけど、何かオススメはありますか?」
「そうですね、ロイドさんはまだFクラスなのでこの薬草集めなんてどうでしょうか?群生地は歩いて三十分くらいのところですし、このヒーラル草は十本で銅貨ゴルフ枚なので、そこまで悪くない依頼だと思いますよ!」
そう言いながら、ニーナさんが一枚の依頼を見せてくれた。せっかくだし、この依頼を受けてみようと思う。
「それじゃあ、この依頼でお願いします!」
「了解です!今手続きしちゃいますねー!」
そう言ってすぐに手続きに取り掛かるニーナさんを見て、ふと思ったことを聞いてみる。
「そういえばニーナさん、ニーナさんのスキルはなんなんですか?」
「え、私のスキルですか?」
「はい、ヘレンさんが料理人ってのを朝聞いて、ニーナさんはどういうスキルなのか気になりまして」
「あ、そうだったんですね!私のスキルは☆3のヒールですよ」
ヒールか、ギルドで働くにはとてもいいスキルだと思った。でもニーナさんにヒールはすごくしっくりくるな。
「いいスキルですね!」
「そんなことないですよ〜、でもギルドで働いていると怪我する方も多いのでそんな方の傷を治してあげるくらいですよ」
「立派なスキルだと思います」
「ありがとうございます!ささ、手続きも済みましたので気をつけて行ってきてくださいね!」
「分かりました!ありがとうございます、行ってきます!」
「行ってらっしゃい!」
ニーナさんに挨拶をし、初めての依頼に向かう。薬草集めだから何も緊張することはないのだが、何故か胸の高鳴りは治らない。
教えてもらった通りに道を進んでいき、ヒーラル草の群生地についた。
そこは様々な花が咲き乱れている様な野っ原みたいな場所だった。
「さて、早速ヒーラル草を集めよう」
ヒーラル草の特徴は、黄色い花びらにピンクの種が付いている膝くらいまでの高さだ。
探し始めて二時間くらいが経った頃
「うーん、なかなか見つからないな......」
僕の二時間での収穫は二十三本。一時間あたり十本くらいのペースだが、たった銅貨十枚の報酬しか得られない。おそらく、僕がまだまだ未熟でコツを掴めていないのが大きな原因だ。そんな時
「おーいお兄ちゃん、君ももしかしてヒーラル草を探しているのかい?」
突然三十歳過ぎくらいの女性が話しかけてきた。
「はい!そうです!」
「そうかそうか。私も今ヒーラル草を探しているんだけど、あまり足が良くなくてね。採れた分を分けてあげるから、探すのを手伝ってくれないかい?」
僕は少しだけ悩んだが、手伝うことにした。なぜかこの女性の優しい雰囲気が手伝う気持ちにさせた。
「いいですよ!どうすればいいですか?」
「助かるよ。私が方向を指示するから、そっちの方に向かってみてくれないかい?」
「え?それだけでいいんですか?」
「大丈夫よ。とりあえずやってみましょう」
そう言われて、大丈夫かなと思いつつ彼女の指示通り動いてみると
「すごいですよ!もう五十本も採れましたよ!」
「あらあら、言ったでしょう」
僕が二時間で二十本くらいしか採れなかったのを、彼女の指示に従っただけで一時間で五十本も取ることができた。
「なんで分かるんですか?」
「ふふ、私のスキルは周辺探知なの。半径五十メートルくらいの範囲しか届かないから、☆2なんだけどね。でも便利よ、範囲内にあるものは念じるとどこら辺にあるかがなんとなく、大体の方向が分かるの」
「それはとっても便利ですね!」
その後もう一時間くらい探索を進めた頃。
「ふふ、ありがとう。じゃあそろそろ帰ろうかしら」
「もういいんですか?」
「ええ、必要な分だけあればいいから。でも君が一生懸命頑張ってたから手伝ってあげたくなっちゃって」
そう言いつつ、背負っていた籠から三十本くらいのヒーラル草を取り出す。
「私はこれくらいで十分だから、後はあなたにあげる」
「え、こんなに?!」
「ふふ、受け取って頂戴。私一人だったらこれくらいの量すら採れなかったんだから」
「じゃ、じゃあお言葉に甘えまして」
僕はありがたく沢山のヒーラル草を受け取る。
「今日は本当にありがとう、助かったわ」
「こちらこそありがとうございました!」
軽い挨拶を交わし、僕もギルドへと戻る。いつのまにかすっかり暗くなってきており、少し早歩きで帰る。
「おかえりなさいロイドさん!遅かったんで心配しちゃいましたよ!」
「すみません、でもたくさん採れましたよ!」
「ほんとですか!二十本くらいは採れましたか?」
持って行った籠の中を見せながら、少しだけ自慢気に中を見せる。
「実はこんなにたくさん採れました!」
「あー!!すごいです!!見つかりにくいヒーラル草がこんなに!どうやって見つけたんですか?!」
「実は......」
正直に手伝ってもらってその取り分をもらったことも話す。
「そうだったんですね!でもそれはロイドさんが一生懸命頑張ってたからですよ!」
「そうですかね、ありがとうございます」
「では早速ですが、ヒーラル草あずかりますよ!」
「はいお願いします!」
「では今報酬の方ご用意しますので、少々お待ち下さいね」
五分くらいテーブルに腰をかけていたら皮袋を持ってニーナさんがやってきた。
「お待たせしました!こちらが今日の報酬の銅貨二十七枚です!銀貨二枚と銅貨七枚でお支払いでいいですか?」
「あ、ありがとうございます!これが初報酬、少し物寂しい量ですけど嬉しいですね」
「全然少ないことないですよ!初依頼で失敗する方もいるんですから十分ですよ!」
「そうなんですね、そう言ってもらえると嬉しいです」
「ふふっ、私もロイドさんが頑張ってて嬉しいです」
「じゃあまた明日来ますね!」
「はい、お待ちしてます!」
報酬を受け取り気分るんるんのまま僕はヘレンさんの待つ宿へと帰る。
こうして長い様で短かった初めての依頼が無事終わった。
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