第五話 ギルド
そうして小一時間ティナさんと荷馬車にやられた僕は、待ちに待ったエルナトへと着いた。
「お、大きいですね......」
「だろー?ここら辺じゃ一番大きい街なんだからこんくらいしっかりとしててもらわなくちゃね!」
「ティナさんはエルナトに着いたらどうするんですか?」
「私はこの荷物をいつも買ってくれてる鍛冶屋と青果屋に卸して、その後はまたここから一日くらいで行けるところで仕入れて、そしたらまたここまで売りに来るの繰り返しさ」
「大変ですね......」
「そーでもないさ!私も楽しくやってるんだからね」
そうティナさんは太陽な笑顔を向けながら言った。
「ロイドはこれからギルドに行くんだろ?ギルドはこの道をまっすぐ行ったらすぐ着くよ。一際賑やかなところだから、すぐにわかるさ」
「本当にありがとうございました......」
「おいおいそんな泣きそうな顔するなよ、今生の別れってわけでもないんだからさ!」
ティナさんに言われて、初めて自分が泣きそうな顔をしていることに気付いた。多分、物心ついてからずっとスラムで孤独に育った僕にはティナさんの優しさが温かすぎたんだと思う。その温かさがまた離れてしまうことを心の中のどこかで嫌がっていたんだ。でも、ティナさんの言う通り今生の別れじゃない。きっといつかまたどこかで会えるはず。
「はい!短い間でしたがお世話になりました。またどこかで必ず会いましょう!お元気で!」
「はいよ!ロイドも元気でな!応援してるぞー!」
そう言葉を交わして、ティナさんの後ろ姿が見えなくなるまで僕は見送った。
「さて、僕もギルドに向かおう」
自分は大丈夫だと言い聞かせるように呟いて教えてもらったギルドの場所を目指して歩く。
エルナトは隣町とは比べ物にならないくらいの大きさだった。ここら辺で一番大きい街ということもあり、鍛冶屋から食事処、雑貨屋に詰所、青果屋に武器屋になんだってあるように感じた。出店の数は隣町の方が多かったがここも十二分に賑わっていた。
歩き出して数分、前方の広場のような円になって開けている場所が一際賑やかな雰囲気を醸し出してる。木のテーブルが至るところにあり、使い古した防具を着て武器を傍に置いたり腰にかけたりしている人達がそこでエールを飲んでいた。
「あ、あそこがギルドみたいだな......。なんか思ってたよりちょっと怖いぞ......。でもあそこに行かなきゃ何も始まらないんだ」
そう自分を叱咤し、人混みをかき分けギルドの押し扉を開く。
「おい、この依頼は俺らのだろ!!」
「先に取ったのは俺らなんだから、俺らのだろ!」
「おーい、素材の買取してくれー!!」
「この依頼の達成報酬もっと増やせよ!」
「エール四つ持ってきてくれー!」
「あたいもエール追加だよー!!」
外の賑わいとは比にならないくらいの騒がしさで、まるで怒号が飛び交っているかのようだった。その迫力のあまり立ち尽くしてしまっていると
「おい坊主何突っ立ってるんだ?用があるなら早く中に入れ」
そう声をかけられ後ろを振り向くと、右目に傷がある強面の男が後ろに立っていた。
「ん?真紅の瞳に黒い髪、ここらじゃ見ない顔だな」
「え、あ、えっと」
「まぁ用があるなら入れよ。ここにいられると邪魔だぞ」
「はい......」
そう言われ、恐る恐るギルドに足を踏みいれる。
「戻ったぞー!!」
いきなり雷が落ちたような声で叫ぶ男にまたも僕はびっくりして立ち尽くしてしまう。
「おかえりー!」
「おかえりなさいー」
「遅かったですねー!」
ギルド内にいた人がみんな男の帰りに迎えの言葉を投げた。その姿にこの男は何者だと疑問が浮かぶ。
「おう!誰かこの坊主にギルドの使い方でも教えてやれ!見ない顔だし初めてのようだからな!」
「はい、ギルマス!」
そう答えてカウンターのあっち側から優しい金色のツインテールが特徴的な若い女の人が僕の方に寄ってきた。
「こんにちは!ようこそエルナトのギルドへ!とりあえず、こっちにきてもらえるかな?」
「は、はい」
そう答え、されるがまま流されるままにギルドの奥の方へ連れてかれた。
席につき、水を飲ませてもらうと女の人が話しだす。
「改めてこんにちは、私はここでギルド職員をやってるニーナです。いきなり大柄で強面の男の人が怒鳴り出したからびっくりしたでしょ?ごめんなさいね、あの人いつもあんな感じなんだけど一応ここのギルドマスターなんだ」
なんとなくそんな気がしていたが、やっぱりあの人がギルドマスターだったんだ。怖い感じという印象が先行してしまったけど、今では優しそうな人だと感じてる。
「それで、君もハンターになりにきたのかな?」
「はい!自分の手でお金を稼いで、スピカでスキルを授かりたいんです。なので、僕にでもできるような依頼があればここのギルドで稼ぎたいと思って......」
「そうなんだ!えらいんだねまだこんなに若いのに!じゃあ早速ハンター登録しようか!私たちは君のことを歓迎するよ!」
あまりにスムーズにハンター登録ができそうなので、少し肩透かしを食らった気分だ。
「じゃあ、このカードに名前を変えてくれる?スキルを手に入れた後にまた色々登録するからね!」
「分かりました」
「じゃあ書きながらでいいけど、簡単な説明をするね?ハンター契約は、ギルドにある依頼をこなすことにより、それに見合った対価!報酬を与えます。しかし、依頼中に起こった事故や怪我は全て自己責任であり、ギルドは一切の責任を負いません。他にも細かいことはあるけど、基本はこの規定だけだよ!大丈夫?」
「大丈夫です!」
「よし、じゃあこれでハンター登録は完了だよ!今日新たにこのギルドにハンターロイドが仲間に加わった!!!みんな仲良く助け合ってねー!!!!」
びくっ!
いきなりニーナさんが大声を出し、ギルド全体に聞こえるように僕が新しくハンターになったことを告げた。
「おぉおぉぉー!!!!」
「よろしくな坊主!」
「わからないことはなんでも聞けよ!」
「頑張って稼げよ!」
一瞬の沈黙の後、みんなが僕に向かって色々な言葉を投げかけてくれた。
「ごめんね、びっくりさせちゃったね。これは新しく仲間が増えたときに、みんなで祝うっていう儀式?みたいなもんなんだ!改めてこれからよろしくねロイド君!」
そう悪戯気に笑いながらニーナさんが説明してくれた。
「はい!よろしくお願いします!」
こうして僕のハンターとしての人生が今日ここから始まった。
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