第四話 エルナトへの道

「それにしたって、どうしてあんなところにいたんだい?」


 本道に合流した僕はさっき声をかけてくれた女性の荷馬車に乗せてもらっていた。


「握り飯を取り出そうとしたら落としちゃって、それを拾おうとしたら......」

「はははっ、優等生みたいな顔してるのにおっちょこちょいなんだな!私の名前はティナだよ。お兄ちゃんの名前は?」

「僕はロイドです。よろしくお願いします」


 この女性、ティナさんもエルナトに向かっているみたいで、僕もエルナトに向かっていることを告げたら快く同乗させてくれた。


「すみません、僕も一緒に乗せてもらっちゃって......」

「いいっていいって!私もエルナトに向かうところだったんだし!私はこの仕入れた食材を売り捌くために行くんだけど、ロイドは何しにいくんだい?」

「僕はギルドに登録したくて」

「なんだい!まだそんな若いのにギルドに登録するんかい、なんでまた」

「スキルを欲しいんですけど、僕はスラムで育ったんでお金も身よりもなくて、ギルドに登録して自分で稼ごうと思って」


 そう言ったらティナさんが力強く抱きしめてきた。


「なんて健気な子なんだい!私がなんでも手伝ってあげるからね!」


 人に抱きしめられることに慣れてない僕は恥ずかしさで顔が熱くなってしまった。


「く、苦しいですティナさん......」

「おお、これは悪かったね」


 なんとか熱い抱擁から離れた。もっとしていたかった気もするが、今は聞かなきゃいけないこともたくさんある。


「ティナさん、この荷馬車はどれくらいでエルナトにつくんですか?」

「んー、あと一時間もしないくらいかな」

「え!一時間?!僕の歩くスピードで五時間くらいだと思ってたんで、かなり早いんですね」

「あー、実はねこの荷馬車には私がスキルを使ってるんだよ」

「え?」


 この時の僕は自分を見ることができたら笑い転げてしまうくらい間抜けな顔をしていたと思う。


「私のスキルは☆3の風操作なんだよ」

「風操作......?」

「あぁ、風操作で有名なのはウインドボールとかかな?」


 スラムでいじめっ子達にやられていた嫌な記憶が蘇る。あれも風操作だったのか。


「この風操作ってのが便利でね。私の場合はそこまで強い力があるわけではないんだけど、この荷馬車に対して追い風を送ってあげることで馬も疲れないし走る速度も速くなるってことよ」


 今までスキルと言えば、魔物を倒すことやギルドの依頼をこなす為に使うものだと思ってたから、まさかこんな風な使い方があるとは夢にも思わなかった。


「こんな風な使い方があるなんて、って顔してるね」


 そう言いながらティナさんは悪戯げに笑う。


「この世界はね、スキルが☆1や☆2だと不遇で商人や農民になる場合が多くて、☆3や☆4だとみんながみんな冒険者になって魔物と戦ったり、国の軍に入るわけではないんだよ。もちろん☆5のスキルを手に入れちまったら半強制で国に囲まれちまうけどね」

「そうだったんですね......。僕はもうてっきり☆3以上のスキルはみんな戦うためにあるんだと思ってました」

「そういう人も多いね〜。私はそもそも戦いとか争い事が嫌いだし、こういう商売の方が性に合ってるんだよ」


 そんな話をしていると、ポツっと僕の頬に冷たい感触がした。


「おっ、雨が降ってきちゃったな」

「え、この荷馬車は屋根がないですよね。荷物は大丈夫なんですか?」

「優しいね〜、私の商品のことをそんな真っ先に心配してくれて。でも大丈夫だよ、見てておくれ」


 そう言ってティナさんが軽く俯き目を閉じて何かを呟いた。


「これでもう大丈夫だよ」


 一体今ので何が変わったのか、どう大丈夫なのか全くわからない。


「ふふっ、ロイドはほんとに可愛いな。ほら顔を上げてあたりを見てみな」


 そう言われてあたりを見渡してみると不思議なことに気がついた。


「あれ、雨が降ってない?いや、周りには降ってる???」

「はははっ、素直な感想ありがどう。ロイドのそれは当たってるよ。今私が使った風操作で、私達の乗っているこの荷馬車の周りに風のベールを作って、雨が私達を避けて降るようにしたのさ」

「そんなこともできるんですか?!」

「慣れれば簡単だよ」

「こんなことも出来るんですね......」

「そうさ、スキルはどんなことにも使える。全ては使い方次第なのさ」



 こうして僕はスキルについては何も知らないことを実感しつつ、荷馬車に揺られながらエルナトに向かうのだった。

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