第二話 隣町で
自分の故郷だった街を初めて出て数時間が経った。もうすぐ隣町に着く頃はずだ。ここにくるまで、街を出てからしばらく川沿いに道を進んでいき、途中何回か休憩を挟みながらではあったが野を越え山を越え進んできた道を振り返ってみる。故郷の街ははとうに見えなくなり、改めて自分が街を出たことを実感した。
これだけ歩いては、いくら休んでも腹が空いてしまうので街に着いたらとりあえず何か食べたい。
しかしお金が手持ちには銅貨が十枚程度しかない。銅貨十枚程度と言ったら、肉串焼きが三本くらいか。しかし食べないよりはマシなので、できるだけ安い肉串焼きがあることを願って歩を進める。
そこからもうしばらくしてようやく隣町に着いた。
「ようやく着いた〜。腹が減ってもう限界だから早く何か食べよう」
そう呟きながら門兵に軽く会釈しながら街の中に入っていく。
街に入り僕は驚きのあまり手持ち袋を落としてしまった。
「安くて美味しい肉串焼きだよ〜!!」
「ふかし芋二個で銅貨三枚だぞ〜!!」
「握り飯安いぞ!!」
そんな怒鳴り声に似た騒がしい声に街中が包まれていた。
僕が暮らしていた街とはとても似つかないような賑やかしい雰囲気に呑まれそうにながらも街の中を歩いていると
「お兄さんここらじゃみない顔だね!旅の途中かい?どうだ、肉串三本で銅貨八枚だ!」
グゥ〜
腹の虫が悲鳴を上げてしまい、恥ずかしさのあまり顔が赤くなるのが自分でも分かった。
「ははは、腹は正直ものだなぁ〜!銅貨七枚にまけてやるから食ってきな!」
「じゃあお願いします」
「はいよ!毎度あり〜!」
そうして僕は待ちに待った飯を目の前に持ち上げる。こんがり焼き上がった肉からは油がぼたぼたと滴り落ち、その匂いは鼻腔の奥から食欲を掻き立てるような香りだ。
ごくんっ。
「いただきます」
この世の命に感謝を述べて一息に頬張りつく。
「おーいしいー!!」
口の中に広がる肉の旨味と、軽くだが感じる香草の風味がとてつもなく美味しい。それまで空腹で歩き続けてたこともあり、三本もあった肉串はあっという間になくなってしまった。
改めてこの街を見渡すとやはりその賑やかさに驚く。
僕のいた街はそれはもう静かで、うるさい所と言ったらスラムの隅ぐらいだった。ここは正反対で、大きくはないまでも売店通りが出来上がっていてとても活発な印象だ。
初めての街がこういった街だとここより大きいエルナトはどんなところなんだろうと期待に胸を膨らましてしまう。
「さて、休憩もしっかりできたしエルナトまでに向かおう。暗くなるまでには着きたいしね」
そうして僕は残っていた銅貨で握り飯を一つ買い、エルナトに向かうのであった。
すると、門を出るタイミングで門兵に呼び取られた。
「お兄ちゃん、一人でどこに行くんだい?そっちはエルナトに向かう方だぞ?」
「今からエルナトに向かおうと思ってるんです」
「一人でかい?!まだ子どもなんだから、一人でエルナトに向かうなんでやめときな」
「でもどうしてもエルナトに行きたくて...」
「あのな、ここからエルナトに向かうまでの道は魔物が出るんだぞ」
「それも知っています、でもエルナトに行かなきゃいけないんです」
「......そうかい。じゃあおじさんとの約束な。絶対に大きい道から外れちゃダメだからな。大きい道にいたら、もし何かあっても近くに大人がいるかもしれないからな」
「分かりました!」
「気をつけていくんだぞ!」
優しい門兵だった。そこまで気にかけてくれることが少し嬉しくなりつつも、おじさん門兵に見送られながら歩き出す。
しばらく歩いて、小腹が空いてきたところで握り飯を食べようと取り出した時
「あっ」
木の根に気付かず握り飯を落としてしまい、草むらの中に入っていってしまった。
「あーあ落としちゃったよ。でも葉で包んであるし拾って食べ......わぁ!!!」
草むらで隠れていて、その先が斜面になっているのに気づかなかった僕はなす術もなく転がされていく。
「いててて......」
こうして、おじさん門兵の心配が的中するように本道から僕は外れてしまった。
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