第一話 ロイド・ステンノ

 スキルによって全てが支配されてると言っても過言ではない世界。ここはそんな世界の中の小さなスラム街。


「痛いよ!もう辞めてよ!」

「なんで俺達がお前なんかの言うこと聞かなくちゃいけないんだよ。ほら、お前らもやってやれ」


「ファイアーボール!」

「ウォーターボール!」

「ウインドボール!」


「や、辞めてってば!い、痛い!!」


「気持ち悪いんだよその血みたいな目に炭みたいな黒い髪も。へ、悔しかったらお前も早く十五歳になって俺らより強いスキルでももらうんだな。まぁお前なんかじゃ俺様たちと同じ☆3スキルどころか☆2スキルも貰えないだろうけどな。わっはっは」


 僕がいじめられっ子にひどい目に合わされているのに、周りを歩く人は気にも留めない。むしろ、気付いていても気付いていないフリをしているのだろう。それもしょうがない、誰もこんな汚らしい子どもがいじめられていてもわざわざ助けようなんて気にはならないだろうから。


「ゲイル君、こいつもっといじめます?」


「いや、今日はもう飽きたからいいや。おいロイド、明日もお前でスキルの練習させて貰うからな。楽しみにしてるんだぞ。おいお前ら行くぞ!」


「「「はい!」」」


 ようやくいじめっ子達が帰ってくれた。隣町に住むあいつらは全員僕よりほんの少し歳上だから、二ヶ月前からスキルを使えるようになった。昔から殴る蹴る叩くで散々僕のことをいじめてきたが、スキルを使えるようになってから更に苛めが酷くなっていた。スキルは無闇に人に使うものでは無いのだが、こんな場末のスラムは無法地帯も同然だ。だからこうやって、みんな弱いものいじめをする。


「僕にも強いスキルがあれば」


 そう独り言をつぶやいてしまうほど僕は疲れ果てていた。僕が十五歳になるのは二週間後。それまでこのスキルによる苛めが毎日毎日続くと考えるともう耐えられたものじゃない。もういっそのこと、自由都市国家スピカまで行きたいほどである。


「でもここからだとスピカまで歩いていくには一ヶ月はかかっちゃうよなぁ」


 また独り言を呟いてしまった。本当に心身ともに限界なのかもしれない。しかし、スキルを得る儀式が行えるのは全世界で自由都市国家スピカにある大聖堂だけである。まぁ全世界と言ってもこの世界には五つの国しかない。


 前にスラムにいた、唯一虐められている僕を助けてくれたおじいさんに聞いた話だと、この世界は四つの国とその中心、全ての国境に隣接している自由都市国家の合わせて五つに分かれている。


 まずスピカから見て東に位置するのがカノープス。次にスピカから見て南に位置するのがプロキオン。次にスピカ西に位置するのがアルデバラン。そして、スピカから見て北に位置するのがシリウス。


 この自由都市国家スピカを除いた四つの国で唯一魔族がいるのがシリウスだったはずだ。シリウスでは人とは異なる特徴が体にあるが、知性を備えていて生活自体は人間となんら変わりのない魔族が生活していると聞いたことがある。その特徴とは、角であったり、尻尾が生えていたり、翼があったりなど千差万別なようだ。


 この東西南北に位置する四つの国は農作物や海鮮食品、武器や防具の精製などそれぞれ特徴がある国だが、それをより効率的に流通するために四つの国が不可侵条約などを結んで作られたのが自由都市国家スピカだ。


 なぜスピカでは不可侵条約が結ばれているかというと、なんでもスピカには教皇様という強力な☆5スキルを持った人がいて、その人のスキルのおかげでスピカ内ではスキルを使った争いや闘いが出来ないようになっているらしい。


「おじいさんなんであんな物知りだったのに、こんなスラムにいたんだろう」


 まぁそれは置いといても、今僕のいるプロキオンからだとやはりどうやっても歩いて行ったら一ヶ月はかかってしまう。しかも僕なんかじゃ道中魔物なんかに襲われたしして怪我しかねないし、お金もないから食事も危うい。どうしたらいいんだと思っていたら、ふとその時いじめっ子のゲイル達が話していたことを思い出した。


「早く俺たちもスキルを使いこなせるようになってギルド登録してバンバン稼ごうぜ!」

「そうですね!ゲイル君ならすぐに看板ハンターになれますよ!」

「当たり前だろ!はっはっは!」


 なるほど。ギルドに登録すればお金を稼げるのか。でもギルドってどんなとこなんだろう。依頼があってそれをこなすと見合ったお金が貰えるのは分かるけど、それはスキルがまだない僕でもできるのだろうか。考えてても仕方ないギルドに行ってみるか。思い立ったら吉日とも言うしね。確か二つ隣の街にギルドがあったはずだから、まずはそこに向かってみよう。こんないじめられるだけの生活から抜け出すためにも。


 必ずみんなを見返してやるんだ。

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