5 歓迎会と癖
「改めて紹介します! 新メンバーの鹿賀優弥くんでーす」
「よろしくお願いします!」
一日が経ち、優弥の正式加入が事務所のメンバーに伝えられる。といっても、今事務所にいるのは片無含めわずか四人だけだった。
「あの、質問いいですか?」
祝福の拍手が鳴る中で、偉久保が挙手をする。
「どうしたの?」
「こう言っちゃあれなんですが、少なくないですか? せっかく新しい人員が増えたのに」
「いやー、僕も呼びかけたんだけどみんな忙しくてね。集まれるのはこれだけだったよ。ごめんね優弥君」
「いやいや、十分ありがたいです」
すかさずややオーバーな身振り手振りでフォローする。人数の少なさもさることながら、優弥は別のことが気になっていた。そしてそれを表すかのように、さっきから片無の右側にちらちらと視線を向けている。
見かねた片無が優弥に問いかける。
「どうかしたかい優弥くん?」
「いや、その、片無さんの右側にいる人って……」
「右? ……もしかして彼のことかい?」
片無の右側で、彼と呼ばれた男は姿勢良くソファに座っていた。180センチほどはある身長と、締まった肉体。短く揃えられた栗色の髪、獲物を狙うライオンのような凄みのある眼が周囲に威圧感を放っている。
「彼はね、僕が呼んだの」
「はじめまして、
「あ、よろしくお願いしま——」
「鹿賀優弥。都立恵那川高校一年生。2202年2月20日生まれ。魚座でO型。身長170センチ体重60キロ、足の大きさ26センチ。家族構成は父親、母親の計三人。優柔不断な性格で、周りに流されやすい。困った時、左手で左頬を掻く癖がある」
「え、あの……」
「今の情報に誤りは?」
「な、ないです」
一体いつ調べられたのか、突如個人情報が宍粟の口から語られた。優弥は唖然としてただただ宍粟の顔を見ていた。
「ごめんね。彼の癖なんだ」
片無が付け足す。宍粟は取り出した手帳を服の内ポケットにしまい、何事もなかったかのように座った。
「いやいや、癖で片付けられないですよ」
優弥が冷静につっこむ。しかし、それももっともだ。
ぬるっと歓迎会に現れ、ベラベラと個人情報をばらされた挙句「癖」の一言で片付けられるのは、優弥にとってどう頑張っても腑に落ちない回答だった。
「彼には、君の教育をお願いしたよ」
「きょ、教育?」
優弥は淡々と語りだす片無に視線を戻した。片無はそのまま話を続ける。
「君はどう言う訳か既に魔力を持っているんだ」
「魔力って?」
「詳しい説明は後。とりあえず僕の話を聞いてね」
「あ、はい」
「ただ、魔力は持ってるだけじゃ意味がない。能力に昇華させて初めて意味があるんだ。そこで彼宍粟の出番ってわけ」
一通り喋り終えた片無はコーヒーを勢いよく飲んだ。さっきから質問したくてうずうずしていた優弥が喋り出した。
「それはそうと、なんで宍粟さんなんですか?」
「宍粟は全魔術師の中でも割とマトモだし、
宍粟以上にやばいやつがいるのかと想像しただけで身震いする優弥をよそに、片無の呼びかけで宍粟は口を開いた。
「とりあえず、優弥君には今後私と任務をこなしてもらいます」
「任務ですか?」
「もちろん修行も兼ねています。そのため、これから放課後、および休日はこの事務所へ来てください。時間は平日なら午後4時、休日は10時といったところでしょうか」
「わ、わかりました」
「では明日土曜に早速始めましょう」
「何か持ち物とかはありますか?」
「いや、手ぶらでいーよ」
ひとしきり要件を伝え終わったのか、宍粟は話し終えると事務所を出た。その後で片無の「解散!」の合図で残されたメンバーもポツポツと帰っていった。
もはや歓迎会はその体ていを成していなかった。
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