2 分岐点
入学初日の出来事から一週間が経った。
優弥は目の下に
結果として優弥は日常の些細な物音にまで過敏に反応してしまうようになった。
さらに夜眠ろうとすると、瞼の裏にあの光景が浮かび上がる。その度に目が覚め、まともに睡眠も取れず、コンディションは最低だった。
日に日に悪くなる体を引きずりながらも、なんとか学校へはたどり着くことができた。教室は朝から賑やかだった。
「よお、今日も来たんだな」
優弥が席につくと隣の偉久保がそう言った。不意をつかれた優弥はやや遅れて答えた。
「ああ、うん。流石に休むのはちょっとね」
「別に無理してくる必要もないだろ」
「そんな訳にはいかないよ。まだクラスにもそんなに馴染めてないんだから」
他愛もない話をしていると、前の扉が開き担任の佐藤が教壇に立った。皆担任の姿を見るとそそくさと席に座った。
「みんなおはよう。早速だが重要なお知らせが一つある。昨日学校付近で例のバケモノが出たそうだ。場所は校門を出てから南へ行った方、皆も下校の時は十分注意するように」
爽やかな朝が一転、不穏なものへと変わる。
HRを終えた担任は教室から出、同時に教室中がざわついた。他クラスのざわつきも聞こえるから、おそらく同様のことを言われたのだろう。
「校門から南って……」
「優弥がバケモノと出会った所らへんだな」
偉久保が冷静にいう。
それを聞いた優弥は、しんみりとした表情を浮かべた。
「誰かがまた出逢っちゃったのかな?」
「多分そうだろう。可哀想に」
重苦しい雰囲気の中、ふと偉久保は片無に言われたことを思い出した。
「あ、そうだ。優弥、放課後時間あるか?」
「え、うん。急にどうしたの?」
「一緒に帰らないか? 寄りたいとこあるんだけど」
「え……」
まさかの誘いに優弥は一瞬フリーズした。あわてて偉久保は付け足す。
「いやほら、あんなことがあったろ。だから一緒にいた方がいいと思って。それに……」
「ありがとう。もちろんオッケーだよ!」
入学して初の大挙。当然これを断る道理もなく、優弥は二つ返事で了承する。
昨日は大変な目にあったが、やっぱり休まなくて正解だった。
◆
四限の終了を告げるチャイムが鳴った。教師の退出とともに、クラスに活気が戻る。
一週間もすれば、徐々にメンバーが固定されていく。それがそのまま昼食のグループになることもあれば、他クラスへ行く、あるいは来る奴も出てくる。ただ、未だ上手く馴染めずに一人で食べるやつも当然存在し、優弥もその一人だった。
しかし、今日の優弥は違っていた。四限の終わりに偉久保を誘い、二人で外での昼食。
「偉久保くんは、教室で食べないんだね」
石造の階段で弁当を広げながら、優弥は話しかける。
「うるさいのは苦手なんだ」
購買で買ったパンを頬張りながら答える。春の陽射しが、二人を照らす。
「そういえばお前」
「ん? 何?」
「助けに行った時、俺の刀が見えてたよな?」
「うん。それがどうかした?」
「いや、別に」
間髪入れず答える優弥の回答を頭の中で反芻しながら偉久保は食べ進める。やがて食べ終わるとどこかへ行ってしまった。優弥も授業に遅れぬよう食べるスピードを早めた。
◆
放課後になり、優弥は偉久保と帰っていた。
「ねえ、偉久保くん」
「どうした?」
「どこ向かってるの? 僕んちから離れてるけど」
「もうすぐ着く……あ、あそこだぞ」
偉久保が指さした方を優弥は見た。そこにはコンクリートでできたビルが建っていた。所々塗装が剥がれており、なかなかの年季が入っている。
「え、あそこに何しに行くの?」
「大丈夫、怪しくはない。ほら行くぞ」
横断歩道を渡りビルの中へと入っていく。三階につくと偉久保はドアノブを回し中へと入る。優弥もその後をついていく。
「おじゃましま……真っ暗だ」
「片無さーん、連れてきましたよー、片無さーん」
暗闇に向かって偉久保は叫ぶ。
「え、何してるの?」
唐突に叫び出した偉久保に驚きつつ質問をする。
その時、
「はじめまして! 鹿賀優弥くん!」
優弥の背後から大声の挨拶が飛んでくる。
優弥は直立の姿勢をとったまま前へ倒れた。
「……あらら、やり過ぎっちゃったかな?」
「気絶……しちゃいましたね」
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