2章 第17話 タイトル
なろう系タイトル。
なろう系小説のタイトルと聞いて、どんなものを想像するだろうか。
実はこのタイトル事情、一昔前と現在で大きく変化している。
一昔前、なろう系がまだそんなに流行っていなかった頃、この時にはまだ物語のキーワードだけを入れたタイトルが数多くあった。。
“転生”“転移”“最強”“下剋上”“成り上がり”“裏切られ”“異世界”“ゲーム”等々。
大抵はこれに加えてオリジナリティを出すためのキーワードや主人公の職業を入れてタイトルにすることが多かった。だから、少し前までのなろう系のタイトルは実は10文字前後、もしくはもっと短いものまであった。
現在は一昔前とは事情が変わった。同じような話が乱立ししてしまい、タイトルで差を付けることが難しくなったのだ。その結果、必然的にタイトルが、それに加えてサブタイトルが長くなっていくことになった。
“どんな状態の主人公が、”
“最初にどんな仕打ちを受け、”
“どんなスキルを持って、”
“誰と仲間になり、”
“どんなことをしていくのか。”
というような、物語の序盤で説明すべき内容を、全てタイトルで説明しちゃうようなタイトル。これが現在のなろう系タイトルである。
この長いなろう系タイトル。良い点としてはやはり他の作品との差別化がしやすい。作者が伝えたい“この作品はここが他とは違う!”というところを全てタイトルにしているのだから当然だろう。また、作品数が急増している現代ではあらすじを読まない読者も増えていることを考えると、このくらい書かないと興味がある読者を釣ることはできないとも考えられる。
......まぁ、それに加えて長いタイトルの方がサイトで出てきた際の当たり判定が大きくなるから......というような嘘のような話も流れてはいるのだが。
しかし、このような長いタイトルにも悪い点がある。これはあらすじにも言えるのだが、最初の設定をそのままタイトルにしていることで物語の内容と合致しなくなることが起こるのだ。『○○の下剋上』というような名前の小説なのに、主人公が最初の数話で下剋上を果たしており、中盤以降は全てその後の話なんてこともざらにある。
そう、結論何が言いたいかというと、
なろう系ではタイトルやあらすじと物語の内容が途中からずれてしまうことなんて日常茶飯事なのである。
「最近息子と話をすることも減ってきたなぁ......」
私は誰もいない部屋で一人呟く。
小学校に上がったら息子と話す機会が減ることは分かっていたし、1人でに勝手に成長していくのを温かく見守ろうという意識もあった。
でも。それはそうだが。
「実際減ってみるとけっこう寂しい!!」
これが子離れできない母親の現状である。このまま行くと寂しさのあまり学校のことに積極的に口をはさみかねない。そしたらモンスターペアレントまっしぐらである。
“だめだめ。 息子の学校での平穏を奪っちゃいけない!”
私は自分の意識を強く持つ。
「ただいまー......」
すると、玄関から息子の声がする。先ほどの叫びは聞こえてなかっただろうか。聞かれていたら親としての威厳が丸つぶれである。
「おかえりー」
少し不安になったので、私は息子の様子を見に玄関に行く。すると、息子が元気のない顔をしている。
「どうしたの?」
「また、愛花ちゃんとけんかした」
「あー......」
上野愛花ちゃん。息子が3股しているのが気に食わないらしく、何かと突っかかって来るらしい。息子の話によると、『そんなの、少女漫画で見たことない! だから不純!』という意見らしいのだが、それはそれでどうなのだろうか。
......決してなろう系を読み漁って育った息子と重ね合わせたりなんかはしていない。
「はぁ......」
息子がため息を付くのを見て一瞬、学校に直談判しようと思った私は慌てて首を振る。
“だめだ! こんなことで電話したらまんまモンスターペアレントじゃない!”
それに、これは子どものけんか。当人たちで納得する結果を出すのが最良なのは明白だ。それに息子だって愛花ちゃんを説得するのを諦めていないのだ。ならば私から言う事は何もない。
“でもこのまま元気がない息子を見るのもなぁ”
私は元気がない息子を見て、寂しく思う。せっかくであれば息子には楽しい生活を送ってほしい。
何か案はないか......と考えた所で天啓が下りる。
平日がダメなら休日に元気付けてあげれば良いじゃない?
「ねぇ、天成。今度の土曜日みんなでお出かけ行かない?」
「え!? 行く!!」
息子が元気に答えてくれる。夫も確か今週の土曜日は休みと言っていたしちょうど良いだろう。
それに、もう少ししたら妊娠した私に遠出は難しいかもしれない。そうすると家族3人で出かけるというのも回数が限られているのだ。
「じゃあ、どこ行きたい?」
私は楽しみだと鼻歌を歌っている息子に聞く。こんな楽しそうな顔をしてくれるなら提案して正解だった。そう思っていたところ、
「えーとね! 紙作り体験したい!」
そう息子が答える。
あー、うん。これはもう、
“紙作り!”
紙作り。
なろう系にて現代知識無双として出てくるものの筆頭である。その理由は大雑把に言うと2つ。
1つは中世ヨーロッパ風風のなろう系作品では大抵の場合は紙が貴重だからである。これを無尽蔵に作れる主人公にすることで、金を大量に稼ぐことができたり、他の人間からの尊敬を得られたりと、無双に拍車をかけることができるのだ。
また、2つ目はぎりぎり特殊な道具がなくても作ることができるからである。電気がない異世界で現代知識によって無双するためにはこのくらいの技術力の製品がもっとも都合が良いのだ......まぁ、作品によってはその電気などの技術力が必要なものを作る際に異世界特有の魔法でごまかしたりするのだが。
そして加えて言うなら当然、作者が人生において1度は紙作りを体験しており、その作り方をなんとなく知っているというのも理由の一端だろう。
“いつかは言い出すと思ってたけど今かー”
異世界に転生した際になろう系主人公は大抵現代知識を用いて無双する。でも、大抵の場合こう思う。
“いや、そんなもんの作り方なんぞ知ってる訳なかろう!”
紙、自転車、銃、インク、船、印刷機、ケーキ、マジックミラー等々。
異世界主人公に作れないものはない。現実問題、なぜ作り方を知っているのかに関しては、まぁ作者が必要になった時にググって調べているのだろう。でも、
“この目を見たらそんなこと言えないよねぇ”
天成はウキウキしながら、メモ帳を用意しようとしている。きっといつ転生しても良いように紙の作り方を覚えようとしているのだろう。
“まぁ、いいよね!”
天成はこれからも多分、いろいろなものの作り方を学んで覚えようとしていくだろう。でも、それも鑑定の時と一緒だ。理由はどうあれ、物事を知ろうとすることはとても良いことなのだ。
それに、
“付き合っていろいろな所に行けるのも今の内だからね”
最近になって息子との時間の貴重さに気づいた母親はそんなことを考える。
「あ、今の内に木の枝拾ってきた方がいいかな?」
......暴走しようとする息子を止めながら。
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