2章 第14話 クラス
クラス。
この言葉はなろう系においては2つの意味で登場する。
1つ目、“立場”の意味で使われるクラス。物語の世界観によって、階級制を用いているものやジョブなどにランクがある場合にこの言葉が使われる。これを用いることによって主人公の立場が低い状態から上へ昇りつめていることが分かるため、それを明確化するために用いられることが多い。
2つ目、“学級”の意味で使われるクラス。こちらの方が現代日本ではよく使われているだろう。
なろう系において、学級の意味のクラスが出てくるパターンはこれまた大きく分けて2つある。
1つ目は異世界の学校に入学して、そこで新たなクラスが作られるパターン。大抵の場合はそのクラスに新しい仲間やヒロイン、ライバルが2,3人いるのでそのクラスの初登場時は、出会いの場面として描かれることが多い。
そして、2つ目に学級が出てくるパターンが......
「お母様、ただいまー!」
「はい、おかえりー」
入学式後のホームルームを終えて、息子が帰って来る。私も入学式までは参加していたのだが、その後クラスの顔合わせと担任の先生の挨拶などがあるということなので先に帰って来ていた。まぁ、久しぶりに再会した友達と帰る流れになった時、お邪魔になってもいけないからね。
それにしても、
“こんなに楽しそうなら、小学校でも大丈夫そうかな”
私は少し安心する。といっても幼稚園に入れる時ほど心配していた訳ではない。息子もこの2年間で十分成長しているし、幼稚園の頃の友達もいる。きっと息子はうまくやっていけるだろう。
「ねぇ、すごいんだよ!」
「んー、なにがー?」
息子が楽しそうに話してくるのでその話を聞く。
幼稚園と違って迎えに行ったり、見学に行ったりということがないので、先生と話をする機会も激減する。そのため小学校であったことに関しては、これからは息子の口から聞くことがほとんどになるだろう。
そんなことを考える私に息子は引き続き話を続ける。
「あのね、たっくんも、みーちゃんも、しぃちゃんも、かなちゃんもみんな同じクラスだったんだよ! 3クラスもあるのに!」
「へー、それはすごいね!」
「でしょ! きっと運命だよ!」
「そうだねぇ」
私は全員同じだったことに驚く。しかし、息子のように“運命だ!”とは思わないのは私の心が汚れてしまったからだろうか。
“これが大人の事情か......”
小学校のクラス分けを先生がする時、それまで仲良かった子などは同じクラスにして、独りぼっちの子を作らないというような配慮が行われることがある。息子の成長が進んでいることは小学校にも伝えてあるし、きっと配慮をしてくれたのかもしれない。
「たっくんは彼女の3分の1しか同じクラスじゃなかったって落ち込んでたなぁ」
「それは、まぁしょうがないんじゃないかな......」
“彼女の3分の1”という聞きなれない単語に頭がくらくらする。
まぁ、たっくんの9人の彼女が全員同じクラスだったら、息子の彼女と合わせて12人の女子が彼氏持ちということになる。それはちょっと見てみたい気もするが、学校側はそんな偏ったクラスを作りたくはないだろう。
「先生はどんな感じだった?」
息子に担任の先生についての印象を聞いてみる。これからの小学校生活を決める......とまではいかなくとも重要なキーパーソンということには変わりないだろうし、母親として気になるところであった。
「東堂先生っていう先生でね、若い男の先生だったよ! 優しそうだった!」
息子が楽しそうに話してくれる。とりあえず優しそうという印象を受けたと聞いて安心する。若い先生であれば変わった児童に対しても柔軟な対応をしてくれるんじゃないだろうか。
「あとね! 座席表もらったからね、これで明日までにクラスのみんなの名前全部覚えていくんだ!」
息子が今日の目標を話してくれる。
学校初日でみんなと友達になろうと思えるのであれば良い傾向だろう。
「はい、じゃあその前に手洗いうがいして来なさい」
「はーい!」
息子は座席表をテーブルに置いて、洗面所に向かう。
そんな息子の背中を見送った後、ふと息子が置いた座席表を見てみる。
『あきみや しおり / 10月11日生まれ /ハンバーグとねこが好き /虫が苦手......』
座席表には名前の横にメモが走り書きで書いてあった。字を見れば分かる。きっと息子が自己紹介を聞きながら、メモしたものだろう。このメモが自分を除く全員にしてあったため、座席表は手書きの文字で真っ黒だった。
“こういう所はほんと努力家だよなぁ......夫に似てよかった”
こんなところは、事あるごとにサボろうとする私ではなく、勤勉な夫に似たことにホッとする。
そんなことを思いながらしおりちゃんの人物像を見ていると、最後に見慣れない......いやある意味見慣れた言葉が付いていることに気づく。
『転移したら僧侶』
“んー??”
私の頭がハテナで一杯になる。他の子を見ても最後には、『転移したら○○』というようにジョブが振られている。
そしてあらかた目を通してやっと気づく。息子が考えているもの、それは、
“クラス転移!”
クラス転移。
なろう系のジャンルの1つで、現実世界で同じクラスだったクラスメイト全員が転移して始まるタイプの物語である。このタイプの物語は、転移・転生した世界にある学校で初めて学級が作られる場合とは異なる、明らかなメリットが存在する。それは、
“見返す相手が明確に存在している”
ということだ。
これは、下剋上や成り上がりをメインテーマとしているなろう系作品ではとても重要なことで、
『現代社会ではこんなにダメだった主人公が異世界でこんなに強くなるなんて!』
というリアクションを取る人間を置くことで、話を盛り上げることができるのである。
また、なろう系を読んでいる学生が、『もしも俺のクラスも転移したら.....』というような考えに行きつきやすいというのもメリットの1つである。
“息子よ......入学初日にして考えることじゃないぞ......”
息子はみんなが自己紹介をしている最中、転移後クラスメイトがどんなジョブに付くのかを一人ひとり考えたのだろう。
そのジョブを見るだけで、私にも何となく子供たちがどんなタイプの子かが分かる。
“あきみやさんは僧侶ってことはおとなしいんだろうなぁ......
いしかわくんは大剣づかいだし、背も高くてがたいが良いんだろうなぁ......”
息子が決めたジョブからそれぞれどんな子かを推測する。
なんとなく楽しくなって来ていろんな妄想を膨らませていたのだが、たっくんのジョブが『恋金術師』になっているのを見て、ふと我に帰る。
座席表を見るのを止め、折り畳む。
“うちの息子の学校生活、大丈夫かなぁ......”
リビングに佇む母親は言いようもない不安に駆られる。
こうして、先行き不安な息子の小学校生活が幕を開けたのだった。
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