第67話麗奈さんとの自宅デート?~後編~

 やはり、料理は楽しい。


 俺も我慢して料理人になっていたら、少しは考えは変わってたのかな?


 まあ、後悔はしていない。


 ただ、そんなことを思うのだった。



「さて、何となくわかりましたね?」


「うんっ!」


「では、続いてやってみましょう。俺はなるべく口を挟まないので、そこにあるレシピを見てやってみましょう」


「えっと……ポタージュは、あとはミキサーで……あっ、ブツブツ煩いかな?」


「いえ、そんなことはありませんよ。むしろ、大事なことです。料理を作る際も仕事と同じです。初めは声に出して、行うことを確認することが肝です。麗奈さんが教えてくれたことですよ?」


 確か、最初の研修で言われたはず。

 入社してすぐの頃、すでに女王の風格があった麗奈さんに。


「そういえばそうね……新人研修に駆り出されたっけ。その中に水戸君もいたのね」


「ええ、麗奈さんが三年目の時ですね」


 綺麗な人がいるなぁーと思ったのを覚えている。

 というか、みんな言っていたけど。

 付き合いたいとか、教えてもらいたいとか……。

 まあ、すぐになくなったけどね……。


「懐かしいなぁ〜あの頃の記憶ってほとんどなくて……毎日が楽しくて忙くて」


「麗奈さんは出世が早かったですからね……さて、確認をしましょう」


「あっ——いけない! えっと……うん、平気ね」


 俺が用意したミキサーに、ポタージュの具材を入れる。


「これに牛乳を入れて回すと……」


「俺はそのままでも気になりませんが、こした方が良い人もいますよ」


「うーん……ひとまず、このままで食べてみようかな」


「では、次の工程に入りましょう」


 その後も麗奈さんは、俺のレシピを見て作業を行っていく。


 カリフラワーとベーコンを炒め、もう片方で飴色たまねぎにご飯を入れる。

 ちなみに、米は冷凍の物を使う。

 レンジ500で、二分がベストだと思う。

 少し冷たいくらいがちょうどいい。


「このご飯って冷凍でいいの?」


「ええ、その方が味が染み込みますから。具材とも絡みやすいですし。何より、一合炊いた時に少し余るんです。その余ったのを貯めておいて、こういう時に使います」


「す、凄いわっ! たしかに、それなら色々効率が良い……! むぅ……すぐにでもお嫁さんにいけちゃうわね?」


「ハハ……誰か貰ってくれるといいですけど」


「い、意外と身近にいるかもしれないわよ?」


「そうですか? なんか、嫌がられません?」


「わ、私は良いと思うけど」


「ありがとうございます」


 ほっ……どうやら、ひかれるということはなさそうだ。



 そして、最後の工程に入る。


「ケチャップとソースを少し……これで良いの?」


「ええ、それらはお好みで。個人的には、中濃ソースを入れるのが鉄板ですね」


「味見は……うんっ! 美味しい!」


「どれどれ……うん、上手いですよ」


「ほ、ホントに……?」


「ええ、本当です」


「よ、良かったぁ〜」


 うむ……こんなお嫁さんいたら幸せだろうな。



 ポタージュを皿に盛り、ソテーも盛り、オムライスも盛り付ける。


 最後は、もちろんこれである。


「コホン! では、仕上げに入ります。お手本を見せますね」


「はいっ! 先生!」


「オリーブオイルにバターを入れます」


「ふむふむ」


「強火で一気に加熱します」


「あっ、見てたわ」


「麗奈さんのアパートで作りましたね」


 ついこの間のことなのに、ずっと前みたいな感覚だ。


「み、水戸君は……」


「はい?」


「ううんっ! 何でもなぃ……」


 少し気になったが、手元に集中する。

 ここからが勝負だからだ。

 卵を入れ一気に混ぜる。

 そして、十五秒で火からおろして、流れるように皿に盛る。


「わぁ……相変わらず凄いね」


「いえ、これなら簡単にできますから。大事なのは慌てないことです」


「慌てない……オリーブオイルにバターを入れて……強火で加熱したところを、一気に混ぜる」


 ゴアァァ!と音がして、一気に火が入る。


「……今です!」


「火からおろして……こう?」


 フライパンを揺らしつつ、流れるようにオムライスの上に乗る。


「素晴らしいですね。一発で成功です」


「で、できたよっ! わぁ……嬉しいっ!」


 うん……喜んでいる麗奈さんを見ると、俺も嬉しくなる。

 そして、当時の自分を思い出す。

 そういえば、親父に教わった時も……俺もこんなだったっけ。



 全ての調理を終えたら、夕飯の時間である。


 それぞれをテーブルに置いて、飲み物を用意する。


「お酒じゃなくて良いんですか?」


「う、うん……酔っちゃうと醜態を晒しちゃうし」


「俺は気にしませんが……いえ、そうしましょうか」


 俺はバカか。

 よく考えなくてもわかるだろうに。

 彼氏でもない男の家に来て酒なんか飲めるわけがない。

 というか、酒を勧めたこと自体がアウトだ。

 ……そういう目的って思われてたら——死にたくなる。


「そ、それじゃあ……召し上がってください」


「ええ、頂きます……うん、美味い」


 ポタージュから飲むが、全く問題はない。


「えへへ、ありがとう。と言ってもレシピ通りで、水戸君がいたからだけど」


「いえ、レシピや指導があっても出来ない人は出来ないですから。大丈夫ですよ、麗奈さんは」


「お、お嫁さんになれるかな……?」


 へぇ……麗奈さんって結婚願望があるのか。

 てっきり、仕事一筋なものかと。


「はい、もちろんですよ」


「そ、そう……そうなんだ」


 照れている麗奈さんを見て思う。

 ということは、俺にもチャンスがあるということか。

 もちろん、まだまだ釣り合いは取れないけど。


「うん、オムライスも美味い。ソテーも良いですね」


「バターに、塩と胡椒だけなのに……美味しい」


「シンプルイズベストってやつですね。カリフラワーに、ベーコンの旨味が染みていて美味しいですね。もし味変をしたいなら、バルサミコ酢がおススメですよ」


「へぇ〜見たことあるけど、何に使うのかさっぱりだったわ」


「肉料理にも合いますよ。もしくはサラダにも」


「じゃあ、今度買ってみようかなぁ」


 うん……誰かと摂る食事は美味しさも格別だな。


「良いね、こういうの。一人暮らしが長かったから、家で誰かと食事を摂ることなんてなかったし……水戸君? なんで笑ってるの?」


「い、いえ……そうですよね。ええ、よくわかります」


「むぅ……腑に落ちない」


 同じことを考えていたなんて言えるわけがない。

 いや、言っても良かったのか?

 あぁーだめだ……麗奈さんといると調子が狂う。

 思ったことを言えなくなる……なぜだ?



 そして、楽しい時間が終わる。


「ホントに良いの?」


「ええ、洗い物は洗浄機に任せますから」


「せ、洗浄機……そうよね、普通はあるわよね」


「ハハ……」


 こういう時って、どう言っていいかわからない。






 タクシーを呼んでおいたので、下まで一緒に降りる。


「じゃあ……今日はありがとう」


「いえ、こちらこそ。とても楽しかったですよ」


 色々なことが再確認出来たし、いい収穫もあった。


「そ、そう……また、教えてもらっても良い?」


「ええ、もちろんです」


「つ、次は……水戸君の好きな料理とか教えてほしいかなって……」


「えっ?」


「じゃ、じゃあ!」


 麗奈さんはそう言うと、タクシーに乗り込んだ。


 ……うん? 今のは……どういう意味だ?

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