第66話麗奈さんとの自宅デート?~中編~

 そのまま一時間ほどゲームをすると……。


「あっ、日が沈んできたね」


「おっと、ほんとですね」


「ふふ、すっかり楽しんじゃった。子供みたいで恥ずかしぃ……」


「わーきゃー言ってましたね?」


「もう! 仕方ないじゃなぃ……」


「いえ、良いことです。中々、大人になると機会を作らないとやりませんしね。楽しかったですか?」


 うん、大分肩の力が抜けているように見える。

 どうやら、作戦通りにリラックスしてもらえたようだ。


「——楽しかったっ!」


「俺も久々にやって楽しかったです。では、またやるとしましょう」


 昔のゲームをたまにやると、めちゃくちゃ楽しいよな。

 昔を思い出すっていうか……正しく童心に帰るだな。


「えっ? ……うんっ!」


 何やら嬉しそうにしているが、そんなに気に入ったのだろうか?

 よし、次にやるゲームでも考えておくか。




 そして、調理に取り掛かる。


「先生! お願いします!」


「むず痒いですね……普通で良いですよ」


「そう? 形から入ろうかと思ったけど……水戸先輩?」


 ……グハッ!?

 な、なんだ……?

 ただ、先輩と呼ばれただけなのに……この高鳴りは。

 一瞬、制服姿が見えたほどだ。


「な、なぜに?」


「うーん、一人暮らしの先輩かなって……ほら、私って壊滅的だから……」


「なるほど」


「女子なのにダメだよね……」


「別に良いんじゃないんですか?」


「えっ?」


「女子だからって、家事が得意じゃなきゃいけない決まりはないですから。向いている人がやれば良いと思います。あとは、日頃からそれに感謝さえしていれば」


「水戸君……えへへ、そっか」


「まあ、俺達はそういう世代ですしね」


「確かに共働きも多いもんね」


 そんな会話をしつつ、食材をキッチンに広げていく。


「オムライスの他に、何を作るの?」


「ほうれん草のポタージュに、カリフラワーとベーコンのソテーですね」


「お、お洒落な感じ……作れるかな?」


「ええ、簡単ですから」


「むぅ……料理できる人の簡単って、簡単そうに見えたことない」


「はは……否定はできないですね。まあ、とりあえずやってみましょう」


「よーし! 頑張るぞっ!」


「では、服が汚れるので……」


 うちにある青いエプロンを渡す。


「あっ——そうよね! ごめんなさい!」


「えっと……?」


「私、料理をする格好じゃなかったわ……」


「ああ、そういうことですか。いえ、お気になさらずに。俺としては——可愛い麗奈さんが見れて嬉しいですし」


 平常心、平常心、平常心。

 どもるな、きょどるな、テンパるな。


「はぅ……ありがとぅ」


 麗奈さんは、恥ずかしそうに俯いてしまう。


「さ、さあ! やりますか!」


 ダメだ、テンパった。


「そ、そうねっ!」



 麗奈さんが、エプロンを着たのだが……。


「ど、どうかな?」


 どうでも良いが、ワンピースにエプロンは反則だと思う。

 というか、エロいと思う。

 だが、そんなことは微塵にも顔に出してはいけない。

 折角、リラックスしてもらったのに台無しである。


「よくお似合いです」


「ほっ……えへへ」


 可愛い……まるで、新妻のようだ。

 いかんいかん! 雑念を振り払わなくては。


「では、まずはオムライスの準備から始めましょう。麗奈さん、料理を作る上で大事なことはなんだと思いますか?」


「うーん……味見かしら?」


「大事ですね。あとは?」


「あとは……見た目とか?」


「そうですね。それ次第で味も変わったりしますから」


 人間は視覚で食事をするという人もいるくらいだし。


「うーん……わからないわ」


「少し俺の言い方が悪かったですね。毎日忙しい人が、料理を作る上で大事なことは?」


「うーん……あっ——時間がないから早く作る?」


「まあ、正解です。作る工程が大事ですね。つまり、順番です」


「順番……」


「では、実際にやってみましょう。まずはお湯を沸かします。次に、ほうれん草を水洗いします」


「お湯を沸かして……水洗いっと」


「次は玉ねぎを使います。みじん切りと、薄切りですね。二つの料理に使うので、いっぺんにやると効率がいいです」


「あっ、確かに……えっと」


 相変わらず、包丁使いが危なかっしい。


「失礼します。手を触ってもいいですか?」


「は、はぃ……」


 後ろからゆっくりと手に触れる。


「ひゃっ!?」


「す、すみません!」


「へ、平気……」


「えっと……指はこうで、力を抜いて……」


「こう……?」


「ええ、良いですね。そのままで」


 そして、みじん切りと薄切りを用意し終える。

 そして、ついでにジャガイモも剥いておく。


「では、油で炒めていきましょう」


 二つのフライパンを用意する。


「量はどれくらいかしら?」


「適量ですね」


「むぅ……それってどれくらい?」


「これはすみません。これくらいですね」


「なるほど……これにたまねぎとジャガイモを入れて……片方には、みじん切りしたたまねぎを入れて」


「あとはしんなりするまで火を通しましょう」


「次はどうするの?」


「カリフラワーとベーコンのソテーの下準備ですね」


 カリフラワーは半分サイズにきり、ベーコンは細切りにする。

 ベーコンはオムライス用も用意する。


「まだ時間があるので、ポタージュの準備ですね。水とコンソメを入れて混ぜておきます」


 麗奈さんが一生懸命になって混ぜている。

 ああ、なんかいいな。

 俺の下心とかどうでもよくなってくる。



「さて、終わりましたね。何かに気づきませんか?」


「あっ——お湯が沸いてるわ」


「それに、切ったほうれん草を1分ほど入れましょう。普通のぶつ切りで平気ですから」


「ほうれん草を切って……入れると」


「その間にたまねぎとジャガイモを確認しましょう」


「えっと……しんなりしてきたかな?」


 俺も串を刺して確認する。


「うん、平気ですね。そしたら……」


「ほうれん草を取り出すのねっ!」


「そういうことです。それをジャガイモと玉ねぎに追加しましょう。そしたら、バターを加えて炒めます」


「えっと……よし、できたわ」


「そしたら先程の水を加えましょう」


「これを入れてっと……」


「あとは、そのまま待ちます。もう一つのみじん切りはどうですか?」


「あっ……飴色になってる」


「俺の言ってることはわかりましたか?」


 そう言うと、麗奈さんは顔を輝かせる。


「うんっ! すっごくわかりやすいねっ! 順番が大事というか、効率化ってことねっ!」


「そういうことですね。仕事と一緒ですよ」


「そっかぁ……そう考えれば良かったんだぁ〜なんか楽しいねっ!」


 いや、楽しいのは俺ですよ。


 麗奈さんのお陰で、料理がまた好きになりました。


 何より——まるで新婚夫婦みたいだ。



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