第65話麗奈さんと自宅デート?~前篇~

 実家に電話してからは、ゲームをして過ごす。


 まだ、麗奈さんが来る時間があるので置き型のゲームである。


「いやー、面白いけど……やっぱり歳だな」


 やっているのはF○7のリメイクなのだが。


「単純にアクションになって疲れるってのもあるけど……社会人になると、腰を据えてやることが難しいよな」


 時間が限られているから、スマホゲームや携帯型のゲームの方が便利である。

 どこでもセーブできるし、空いた時間に気軽にできる。


「あれ? 麗奈さんが来る前にセーブポイントまで行けるのか?」




 ……ふぅ、何とか間に合った。


「さて……あっ——」


 インターホンの音が聞こえる。


「はい」


『こ、こんにちは。松浦麗奈です』


「クス……」


『な、何で笑うの!?』


「す、すみません。松浦麗奈ですって名乗るものですから」


 あと、映ったのが頭のてっぺんという。

 多分、インターホンに頭を下げたのだろう。

 何というか、可愛くて律儀な人だ。


『へっ? あっ——そ、そっちからは見えているのよね! あぅぅ……』


「まあ、まずは上がってください。エレベーターの前にいますから」


『は、はい』



 家を出て、エレベーター前で待機する。


「こ、こんにちは」


「………うわ」


「ふえっ?」


「いえ、さあ行きましょうか」


「う、うん」


 おっと、まずはこれを言わないと。


「夏には早いですが、涼しい格好で良いですね——良く似合っていますよ」


 よし! 噛まずに言えたっ!


「あ、ありがとぅ……ほっ」


 白のワンピースに、赤いカーディガン。

 ジメジメした空気を吹き飛ばすような清涼感のある格好。

 手元には黒のトートバックに、足には白のサンダル。

 清楚感とお色気との中間という……恐ろしさ。

 いやはや、まいったなぁ。



「どうぞ」


「お、お邪魔します」


 うーん、めちゃくちゃ緊張しているな。

 警戒されているかも? 窓は全部開けてあるし……。

 あと、何をすればいいだろう?


 ひとまず、リビングに案内をする。


「相変わらず綺麗……」


「ハハ、ありがとうございます」


 入念にした甲斐があったな。


「まずはソファーにお座りください」


「し、失礼します」


「飲み物は何が良いですか? 紅茶かコーヒー、ジュースもありますが……」


「えっと……あ、暑いから冷たい物で。アイスコーヒーでも良い?」


「ええ、もちろんです。エアコンをつけましょうか?」


 そうすると窓を閉めなくてはいけないが。

 つまり、このとてつもない良い香りから逃れる術がない。

 それは、できれば避けたいところだ。


「う、ううん! そこまでじゃないの!」


「もしあれだったら遠慮なく言ってくださいね」




 俺が飲み物を持ってくると……。


 うわ……ワンピースだけになっている。


 肩から眩しいものが見えている。


 ……落ち着け、俺。


「ねえねえ、これって……ゲーム機?」


 あっ——仕舞い忘れてた。


「すみません、さっきまでやっていたもので……」


「うわぁ〜凄いねっ! 最新ってやつかしら?」


 あれ? なんか食いつきが良い? 顔から緊張が消えたような……。


「ええ、といってもプレス○4ですけどね……興味あるんですか?」


「うんと……さっきのインターホンもそうなんだけど、そういうお家で暮らしたことがないの」


「なるほど……だから、あの反応なんですね」


 まあ、そういう家もあるだろうな。


「家がお金がなくて、こういうのがなかったから。ほら、私達が子供の頃ってすっごく高かったじゃない?」


「ああー、そうですね。まだスーパーファミコ○とかで、ソフトも一万円しましたからね」


「そうそう! 友達の家にあると、良いなっていつも思ってたな〜」


「俺も思ってましたね。でも、買えなかったですけど……親父に、そんな暇があれば家を手伝えって言われてましたし」


「私も買えなかったなぁーお金もないし、そんな暇があれば勉強をしなきゃって思ってたから」


「……やってみますか? まだ時間はありますから」


「えっ!? 良いの!?」


「ええ、もちろんです。俺も気持ちはわかりますから。だから、大人になってから全部揃えたんですよ」


「そういうことなのね。あっ——でも、こんな最新のゲームは無理かも……」


 確かに、ゲームに慣れている俺でも疲れるしな。

 どうする? リラックスしてもらう媒体として役に立つと思ったが……。


「あっ、少し待っててください。部屋にあるはず……」


「お、お部屋……?」


「はい?」


「ううんっ! なんでもないのっ!」


「興味があるなら見てみますか?」


「えっ? 良いの……?」


「別に、見られて困るようなものは置いてないですからね」


 ……大事なものは全てハードディスクの中である。

 あれを見られたら死ねる……いや、別に趣味が変とかではなく……。

 誰に言い訳をしているんだ……ただ、アレってそういうものだよな。


「けど……なんか変な顔してたよ?」


「気のせいですよ。さあ、こっちです」


「はいっ! ふふ〜ん」


 よくわからないが、何やらご機嫌な様子だな。


 部屋の扉を開けた状態で中に入る。


「うわぁ……! 凄いねっ!」


「はは……趣味丸出しですけどね」


「本棚がいっぱいあるわ。あっ、この漫画……懐かしい」


「ああ、昭和から平成初期の漫画ですね」


 玉を集めてドラゴンを呼ぶやつだ。


「これも知ってる……こっちは最近の……」


 いや、しかし……子供のように夢中になる麗奈さんはとても可愛らしいな。


「おっと」


 見惚れている場合じゃない。

 俺はゲーム機本体を二つ持つ。


「あっ、スイッ○ってやつね? でも、なんで二つもあるの?」


「まあ、とりあえずはリビングに戻りましょう」



 リビングに戻り、並んでソファーに座る。


「えっと……これで良いはず。はい、麗奈さん」


 設定を済ませて、片方を麗奈さんに渡す。


「えっ? あれ……これ知ってる!」


「ええ、有名なマリ○カート ですね。オンラインに加入していると、こういうのもできるんですよ」


「凄いねっ! 最新のゲーム機で昔のゲームができるんだね!」


「ええ、俺も最初は驚きましたね」


 ゼル○とか魔界○をやれるし。


「でも、なんで二個もあるの?」


「それ、型が違うんですよ。まあ、とりあえずやってみましょう」


「えっと……これがこう……?」


 しまった、麗奈さんの時は止まっているんだった。

 ボタンの位置や操作なんかはわからないだろうに。

 ……これは不可抗力である。

 決して、俺にやましい気持ちはないと断言する……多分。


「えっと、これがアクセルで……これでドリフトして……」


 声をかけたら不自然になるので、自然体を装って近づく。

 無だ、無になれ、俺は無だ。


「は、はぃ……」


「これでやってみましょう」


 ふぅ……なんとか乗り切った。



 その後、やってみると……。


「きゃー!?」


「ププッ!」


「むぅ……笑いすぎじゃない?」


「す、すみません」


「すぐに落っこっちゃうけど……楽しいねっ!」


 その顔は、正しく童心に返ったようだった。


 良かった……これで、少しはリラックスしてもらえただろう。


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