第48話顔合わせと初仕事

 自己紹介が済んだところで、早速仕事に取り掛かりたいが……。


 だが、その前にやることがある。


「三船部長は、基本的には参加しない方針ですか?」


 責任者とはいえ、部長が付きっ切りというわけにはいくまい。


「ええ、そうよ。ただ、ちょくちょく顔は出すし、何かあれば遠慮なくオフィスに来てちょうだい。あと、基本的にはこの人数だけど、随時何人かは出入りするからね」


「わかりました……そうなると臨時責任者というか、リーダーはどなたでしょうか?」


「ふふふ……サプライズよ! リーダーは——貴方です」


「……はい?」


「この企画のリーダー兼、アドバイザーということね」


 ……はい?この俺が?


「聞いていないのですが……」


「ええ、今初めて言ったわ。私は渋ったんだけど、田村君が彼なら出来ますって……もちろん、事前にテストはしたけどね」


「田村課長が……テストですか?受けた覚えはないのですが……」


「君の仕事振りを観察したり、周りの人から聞いたりしたわ。その結果、私も任せても良いと思ったわけよ」


 ……俺なん……いや、それはもうやめよう。

 お世話になった田村課長の期待に応えるためにも……。

 俺自身が自信をつけるためにも……。


「わかりました。若輩者ですが、精一杯勤めてまいります」


「固いわよ! もっと気楽で良いわ。失敗しても誰も責めないし。そういう意味でのお試しでもあるから。もし成功すれば、儲けもんくらいの感覚でいきましょう」


「ありがとうございます。そう言って頂けると気が楽になります」


「ふふ……麗奈ちゃんや田村君が気にいるわけねー」


「え?」


「いえ、こちらの話よ。アナタ達」


「「「はいっ!」」」


「いいこと?今から、水戸君の言うことをしっかりと聞くこと。彼は優秀であり、人当たりの良い方です。意見なんかを蔑ろにするタイプではないので、遠慮なく言っていきなさい」


 それぞれがしきりに頷いている……というか、ブルブルしてる?

 ……そりゃそうか、新入社員からした部長ってそういう存在だよな。


 その後、三船部長は去っていった。


 さて……まずは挨拶からか。


「三人共、ちょっと待っててくれ。二人に挨拶してくるから」


 それぞれが返事をした後、俺は厨房の方へ向かう。


「すみません、今よろしいですか?」


「あらー! さっきの子ね! 私の名前は中村花子と申します」


「貴方がそうなのね。瀬戸望美と申します。これからよろしくお願いします」


 中村さんの方は恰幅もよく、如何にもな元気お母さんって感じだ。

 瀬戸さんの方はほっそりしてて、物静かなお母さんって感じだ。

 主婦の方である二人が料理担当であり、主婦目線でもあるということか。


「水戸侑馬と申します。先輩方、よろしくお願いします」


「任せてちょうだい!」


「ええ、こちらこそ」


 ホッ……良かった。

 歳下の俺にも普通に接してくれそうだ。

 三船部長が、その辺も含めて配置したんだろうけど。


「基本的にお二人が調理ということですか?」


「ええ、そうよ」


「なるべく、あっちには口を出さないように……ってことね」


 ……なるほど。

 主婦であり、料理をする二人の意見を聞かないということは……。

 ベテランである、この二人のもう一つの役目は……。

 あの三人を鍛える意味と、俺がどうするかを見定めることか。


「わかりました。では、何かあればおっしゃってください」


「あら〜、わかってるって顔ね……理解が早いわ」


「ですね……」


 やはり、そういうことか。

 そして……声をかけられるということは、軌道修正が必要と思われたってことだな。

 二人に挨拶をして、三人のところに戻る。



「ど、どうでしたか?」


「お、怒られました?」


「どうですか?」


「おいおい、何をそんなに……」


「あの二人は古株の人で、すっごい怖いんですぅ……」


「俺なんか、髪型がどーたら、清潔感がどーたらって……」


「僕も愛想がないとか言われましたね……」


「なるほど……それほど、君達に期待してるってことだな」


「「「え?」」」


「だってそうだろ?どうでもいいと思っていたら、何も言わないはずだ。期待してるからこそ、あれこれと言うのだと思うよ」


 実際はどうかわからないけどな……。

 ただ単に、本当にダメ出ししてる場合もあるし……。


「そ、そうなんですね……!」


「なんかやる気出てきた……!」


「……まあ、やるだけやってみますか」


 とにかく、やる気を出させることが——俺の初仕事の一つだな。


「三人は料理は?」


「私は少し……」


「俺は全くです……」


「僕はそれなりに……」


「好きな物は?」


「私は洋食です」


「俺は中華です」


「僕は和食です」


「見事に分かれたな……俺はどれも好きだけど……じゃあ、まずはそれから決めることにしようか」


「「「はい!!!」」」


「いい返事だ。さあ、話し合っていこう」


 なんか懐かしいな……。

 入社当時、俺も昇とこんな感じだったな……。



 その後、話し合いの結果……ひとまず洋食ということになった。

 どうしても手間と時間がかかるものが多いことと、主婦の方が作り辛いという理由からだ。


「よし……とりあえず、ここまでにしよう。確か、一時から四時までと決まっていたしね」


 軽い雑談も出来たし、何となく人となりがわかったかも。


「こ、これからよろしくお願いします……」


「お願いします!」


「お願いします」


「ああ、こちらこそ。明日からもよろしくね」


 それぞれに挨拶をして、部屋を出ると……。


「あれ?三船部長?」


「ふふ……良かったわよ?」


「……見てたんですか?」


「少しだけね。お疲れ様、これを渡しておくわね」


「書類……」


「三人のことが書いてあるから目を通しといてちょうだい」


「なるほど……わかりました。では、失礼します」


「ええ、また明日ね」




 そのあとは、自分のデスクに戻り普段の仕事をこなす。


「よう、どうだった?」


「まあ、想定外のことはあったが……どうにかな」


「うぇー、大変だな……俺はこのままでいいかも」


「昇こそ、料理するんだから参加してくれると助かるがな」


 情けないが、少し心細いし……。

 軽快な会話とか向いてないし……。


「俺はなぁー……料理か……いや、なんでもない」


 ……はて?何か変だな。

 入社時に、昇とは料理の話で仲良くなったんだが……。

 少しモヤモヤしつつも、仕事に戻るのだった。



 そして退社後、スマホに連絡が入る。


「ん?誰だろう?」


 そこには……麗奈さんからのメールが届いていた。



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