第36話麗奈さんとデート~中編~

 ……麗奈さんが——可愛い。


 歳上だが——とにかく可愛い。


 先程から、俺の心臓がおかしい。


 苦しい……これは——なんだ?


 感じたことのない痛み……。




「水戸君!」


「……はい?」


「大丈夫?胸を押さえて……苦しそう……どこか、具合悪い……?」


 俺を心配そうに見つめる目を見てると……痛くなる。

 だが、心配をかけるわけにはいかない。

 俺は無理矢理押さえ込み、平静を装う。


「いえ、大丈夫ですよ。少し張り切り過ぎましたね」


「そ、そう?無理しないでね……?」


「ありがとうございます、相変わらず優しい方ですね」


「べ、別に……普通です……」


 相変わらず、こういうのは言われ慣れていないようだ。

 俺が褒められ慣れてないと同じように……。





 再び車に乗って、移動を開始する。


「ふふ……」


「ん?どうしました?」


「え?」


「いや、微笑んでいたので……」


 運転中に、思わず見惚れてしまうところだった……。


「う、ううん!なんでも……た、楽しいなって……」


 少し恥ずかしそうに、麗奈さんは言う……。


「そ、そうですか……それなら良かったです」


 何をつまんない返し方を……!

 もっと気の利いた言葉は出てこないのか!俺は!




 その後、少し気まずくも、何故だか居心地が悪くない沈黙が続く……。


 そして、赤信号で一時停止をすると……。


「次は、ボウリングよね?」


「ええ、そうですが……」


 そして……俺は思わず、太ももを見てしまう。

 あのミニスカートじゃ……投げる時見えちゃうよな?

 綺麗な脚だなぁ……何を想像してんだ、俺は。

 あっ——俺のアレがあったな。


「あ、あのぅ……」


「え?」


 いつのまにか麗奈さんが……スカートの端を両手で押さえていた……。

 モゾモゾしながら、必死に脚を隠そうとしている……。


「あぅぅ……」


「す——すみません!!」


 いかん!ガン見してしまったっ!

 完全なるセクハラだっ!


「う、ううん!気にしないでっ!あっ!前!」


「え?……あぶねっ!」


 信号が青になるところだった……。

 しっかりしろ!運転中だぞ!


「ご、ごめんね……みっともないよね……いい歳して……」


「え?」


「す、スカートなんて……履くの大学生以来だから……」


「……麗奈さん」


 俺は運転に集中しつつも、気合いを入れて声をかける。


「は、はぃ……」


「先程も言いましたが……とても——良く似合っています」


「…………」


 あれ?気合い入れて答えたんだけど……。

 返事がない……よそ見するわけにもいかないし……。


「麗奈さん?」


「あ、ありがとぅ……」


 とてもか細い声が聞こえてきた……。

 ……どんな顔をしているのだろうか?





 そして……ボウリング場に到着する。


 車を止め、中に入る。


「へぇ〜……今ってこんな感じなんだ……」


「確かに……綺麗ですね。なんか、俺らの学生の時って、言い方は悪いですが……」


「少しさびれた感じだったよね?」


「そうです。それで、いつ潰れるかわからないような感じで……」


「わかる!幽霊とか出そうで、肝試しとか!」


「あー、やりましたね。ただ、悪い連中の溜まり場でもあったので……」


「いたわね……今って、そういう人減ったよね?」


「たしかに……ヤンキーとかって死語らしいですし……」


 そんな同年代あるあるを話しながら、受付を済ませる。


 その間にも、麗奈さんは……男女問わずに視線を浴びている……。

 やっぱり、美人だもんなぁ……。

 きっと慣れているのだろう……堂々としている。

 よし!見た目は釣り合わないにしても、少なくとも姿勢だけは正しておこう。




 そして靴を履いて、いよいよとなったので……アレを渡す。


「麗奈さん、良かったら使ってください」


 俺は袋からパーカーを取り出す。

 寒さ対策に持ってきたが、役に立ちそうで良かった。


「えっと……」


「その……投げる時に、スカートがですね……」


「え……?あっ——だ、だから、さっき……?」


「ええ……見えてしまうかなと」


「は、恥ずかしぃ……私ったら何を勘違いして……水戸君は、脚が好きなのかなぁって……」


 ……好きです。


「……などと言えるわけがない」


「え?」


「いえ……よければお使いください」


「あ、ありがとうございます……えへへ……」


 何故、パーカーをぎゅっと抱きしめているのだろうか?

 ただのパーカーなんだけど……変な匂いでもしたのかな?

 きちんと洗ってあるはずなんだが……。




 麗奈さんは腰にパーカーを巻き、二人ともボールを選び終える。


 しかし……すぐに取り替えることになった。


 ゲームが始まってすぐに……。


「かっ!?」


「だ、大丈夫!?」


「は、はい……重っ!」


 14を取ったのだが……投げてみるとキツイ……。

 完全なる運動不足だな……絶対に筋肉痛が来るやつだ。

 13に取り替えて、なんとかスペアをとる。


「わぁ……!すごい!」


 ほっ……良かった。

 密かにボウリングは得意だったからな……。

 投げ方自体は、鈍っていなかったようだ。


 ところで……イェーイとかやった方がいいのか?

 麗奈さんを見ると……拍手をしている……。

 うーん……ノリとかよくわからないが……麗奈さんとは、これでいい気がする。


「では、麗奈さんの番ですね」


「よ、よーし……!」


 麗奈さんの立ち姿は、まるでプロボーラーのようだ。

 背筋を伸ばし、背中からやる気が伝わってくる……。

 これは……すごいスコアが出そうだ。

 ボウリング場の人々も、その姿に魅了されたのか注目を集める……。


 そして……麗奈さんが……投げた!


「えいっ!」


 とてつもなく綺麗なフォームで投げられた球は……。


「はい?」


 ……吸い込まれるようにガーターに入っていた……。

 麗奈さんの綺麗な投げフォームとは裏腹に……。


「…………」


「…………」


「おい、あの美人固まってるぞ?」


「すんごい綺麗なフォームだったのに……」


 ……どうしよう……かける言葉が出てこない。


「…………」


 麗奈さんは真面目な表情のまま、静かに戻ってくる……。

 そして、何事もなかったかのように椅子に座り……。


「……あぅぅ……!」


 両手で顔を覆い、可愛い声で俯いてしまった……。

 ボウリング場内が静まりかえる……。

 たが……多分、皆の心は一つだろう。


(おい、可愛いな、おい)




 その後、落ち着いた麗奈さんが言い訳を始める。


「ち、違うのよ?アレはアレでアレだから」


「何も答えになってませんが……?」


「むぅ……イジワルです……」


「そんな膨れなくても……」


 めちゃくちゃ可愛いけど。


「お、おかしいわ!いくら10年ぶりだったとしても……」


「いや、忘れますって」


「……じゃあ……水戸君が、教えてくれる……?」


「え?」


「だって上手だったもん」


「わ、わかりました……」


 ひとまず自分の番なので、投げると……。


「ストライクだっ!すごいすごい!」


 うん、なんだかとても嬉しいな。

 たかがゲームだけど褒められるのは。


「ありがとうございます。では、やってみますか」


「よ、よろしくお願いします」


 麗奈さんの後ろに立ち……あれ?


「どうしたらいいかな?」


 これって……まずいのでは?

 密着しないといけない……。

 いいのか?ありなのか?

 いや、意識してるのは俺だけか……なら、自然な感じで。


「失礼します」


「っ——」


 ん?何か漏れた?

 ……気のせいか。


「投げる時は真っ直ぐを意識して、姿勢を崩さずに。力は大していりません。むしろ大事なのは、力を抜くことです」


「は、はぃ……」


 めちゃくちゃ良い匂いがするが……我慢しろ!

 俺のアレも大変なことになっているけど……中学生かっ!


「良いですか、このまま腕を上げて……投げる!」


「えいっ!」


 投げたボールは……レーンの最後まで到達した!

 パコーン!と小気味良い音が鳴り、いくつかのピンが倒れる。


「ヤッタァ!」


「やりましたねっ!」


 気がつけば……自然とハイタッチをしていた。


 ……どうする?


 相変わらず緊張はしてるし、心臓は痛いけど……。


 ……めちゃくちゃ楽しい。



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