第35話麗奈さんとデート~前編~

 ……フゥ、緊張するな。


 会社帰りに飲みに行ったり……。


 姉貴がいる時に、昼間会ったりしたことはあるけど……。


 休日に、昼間から二人きりというのは初めてのことだ。


 いや……そもそも女性と出掛けることがいつ振りかって話だ。


 ……やめておこう、今日は楽しんでもらいたいからな。





「えっと、洋服はこれでいいか。あんまり決め込むこともないよな?」


 別に付き合ってるわけでもないし……。

 カラオケやボーリングなら、動きやすい格好の方が良いしな。


「かといって……あの美人の隣に立つのに、恥をかかせるわけにもいかないよな」


 特にこの時期は服装に困る……。

 昼と夜の寒暖の差が激しいからな……。

 車にパーカーを持って行って……。


「そこそこ値段のする青ジーンズに、長袖Tシャツ、黒のジャッケットが無難か……」


 時計は、新入社員の頃に姉貴にお祝いで買ってもらったやつで……。

 靴はスニーカーの方が良いよな……よし、確かナイキの綺麗なやつが……。


「お金……いつもお世話になってるんだから、全額俺が払うべきだよな……」


 今時、男が奢るのが当たり前ではないけど……。

 お酒なんかも奢ってもらったし……。


「財布、ケータイ、食材は帰りに買えば良いとして……よし、行くか」


 入念にチェックをし、家を出て車に乗り込む。




 三十分ほどで、麗奈さんの家の前に到着する。

 車を止めて、メールを送信する。


「おっ……五分待ってください……まあ、それくらいは仕方ないよな」


 姉貴にも、散々言われてきたし……。

 女性の準備っていうのは、男と違って大変なのって。



 俺が車を降りて五分ほど経つと……上の方からガタガタと音がする。


「おっ、きたか……ヤベェ……」


 階段を降りて……超絶に可愛い子が現れた。

 普段とは違い、柔らかな雰囲気の化粧。

 髪をサイドテールにして、前髪が下りている。

 格好は……赤チェックのミニスカートだと……!?

 上はカジュアルな白いロンTに、黒のカーディガンを羽織っている……。

 美人でもあり可愛いくもある……端的に言うと……どストライクだった。


「ご、ごめんなさい!ま、待った……?あっ——違うのよ!別に待ったって言いたかったから遅れたわけではなくて……えっと……あぅぅ……最初からやり直したぃ……」


 ……なんだ、これ?

 可愛いのですが?

 ポンコツ具合もハンパないし。

 ……落ち着け、今日の俺はクール……既に冷静じゃないな。


「い、いえ、お気になさらずに」


「う、うん……あ、あのぅ……」


 ん?何やらモジモジしている?

 ……はっ!これは姉貴が言ってたやつだっ!


「えっと……よくお似合いです」


「ほんと!?わぁ……!」


 麗奈さんは、花が咲いたように笑う……。

 ほっ、正解だったようだ。

 ……いかん、見惚れてる場合じゃない。


「……では、行きましょうか?」


「は、はぃ……!」


「そんなに緊張しなくて良いですよ」


 と言っている俺こそが、緊張してますがね!


「う、うん……初めてだし……」


「え?」


「ううん!いこ!」


「は、はい」


 とりあえず車に乗り込み、車を発進させる。


「み、水戸君もオシャレだね?」


「へ?そ、そうですかね?ありがとうございます」


 至って普通の格好だと思うのだが……。

 というか……エロ。

 いかんいかん!座った際に見える太ももがエロいとか……!

 これでは麗奈さんが嫌がるセクハラではないか!


「き、今日は、どうするの……?」


 ……いかん、緊張とあまりの可愛さと……エロさに思考回路がショートしそうだ。

 そもそも、リードとか慣れてないし……。


「……まずは、カラオケに行くとしますか」


「カラオケ……!い、いつ振りかしら……?」


「俺もですよ。そういう集まりにもいかないので、どうしても行く機会が減りますよね」


「そうなの!仮に行こうってなっても、友達とかも赤ちゃんいたりするから中々行けなくて……」


「わかりますよ。このくらいの歳なると結婚したり、子供もいたりしますから。そうなると、どうしたって生活習慣や価値観も違ってきますからね」


「そう!そうなの!うぅー……楽しい……!」


 ほっ、良かった。

 何とか自然に話せてる……。

 それに、早速楽しんでもらえたようだ。


「なら良かったです」


「あ、あのね……水戸君は、結婚願望あったりする……?」


「え?……どうでしょうか……」


 あんまり結婚に良いイメージがないんだよなぁ。

 というか、家族そのものに。

 母さんも、何であんなのと結婚したんだろ?


「あっ——そ、そうだよね!ごめんなさぃ……」


 ん?ああ、そういや少しは話してたっけ……。


「いえ、気にしないでください。自然に話してくれれば良いですから。麗奈さんが言うことに関しては、嫌と思うことはなさそうですし」


「え……?ど、どういう意味かな?」


 ……確かに……今、自然と出てきたな。

 意味……多分これか?


「うーん……麗奈さんは、きちんと相手のことを考えて発言してくれるから……ですかね?仕事でも、言い方はきついですがそうですし……」


「うっ……反省します」


「でも、最近は良いと思いますよ?少しずつ柔らかくなってきたというか……」


「ホント……?じゃあ、水戸君のおかげだね!」


「はい?」


「水戸君がお話聞いてくれたり、フォローしてくれるから……嬉しいのです。ありがとうございます」


 頬を染めつつ、指先で毛先をいじっている……エモい?いや、使い方違うか。


「い、いえ、こちらこそ麗奈さんのおかげで自信が持てましたから……」


「そ、そう……えへへ……やっぱり、お父さん?」


「ああ、そうですね。ただ、少し色々考えてみようと思ってます」


「わ、私に相談しても良いですからね!」


「麗奈さんのところは仲が良いんですか?」


「うーん……仲は良いかな」


 なんか含みのある言い方だな……。


「じゃあ、その時はお願いします」


「うん!」


 どうでもいいけど……さっきから隣にいる可愛い女性は誰だろう?

 ……いや、わかってはいるんだ。

 ただ、あまりのギャップに戸惑うだけで……。




 その後、カラオケ店に着き、入店を済ませる。


「わぁ〜!すごい広いね!」


「……ああ、そういう意味ですか。確かに、最近のカラオケは昔より綺麗だし、広いですよね」


「昔って、ソファーが破れてたり、変なシミとかなかった?」


「ありましたね……」


 はい、一見普通にしている俺ですが……。

 ピンチです……はい、ピンチです。

 この部屋一帯に、甘くてとてつもなく好い香りがします。

 なにこれ?香水じゃないし……麗奈さんの匂い……恐ろしい。


「水戸君?大丈夫?」


「もちろんです!」


 いかん!煩悩に支配される前に歌わなくては!


「えっと……これとこれかな」


「あっ——ジャニーズだっ!」


「姉貴の影響でしてね。覚えさせられて、散々歌わされましたよ……スマッ○から、アラ○くらいまでなら大体歌えますよ」


「えぇ〜!いいなぁ!お姉さんとカラオケかぁ……私は歳が離れてるから……趣味も合わないし……」


「10歳違うと、中々難しいかもですね」


「そうなのよ。お金もなかったから、あんまり行けなかったし……」


 いかん!暗い顔をしている!


「お、俺で良ければ付き合いますから!」


「ふぇ!?」


 なんか可愛い人から可愛い声出てきた。


「カラオケにです」


「あっ——そ、そうよね!うん、私……しっかりするのよ……!」


 その後、俺が歌うと……。


「……………」


 何やら、麗奈さんが固まっている……。


「麗奈さん?」


「ひゃい!?」


「どうしました?」


「え、えっと……やっぱり、良い声してるのね……?」


 ……やっぱりとは?


「そうですかね?高い声が出ないので、中々難しいんですけど」


「でも、低い声でもちゃんとキーが合ってるし……良いです……」


「……ありがとうございます」


 なんだこれ?

 照れ臭いのだが……中学生か、俺は。


 その後、麗奈さんが歌いだす……。


 ……ギャップが激しい……!

 どう見たって……貴方はハスキーボイスとかでしょ!?

 何その……アイドルというか声優みたいな声は……。

 可愛いし……リクエストとかしても良いのか?


「ふぅ……き、緊張したぁ〜!」


「上手でしたね」


「なんでニヤニヤしてるの?うぅー……変だと思ってるでしょ?高い声で……」


 いかん、あまりの可愛さにニヤニヤしてしまっていたようだ。


「違いますよ!可愛いなぁ……って」


「……え?そ、そうなんだ!ありがとぅ……」


 何故か二人してモジモジしている……。

 はて?俺たちって……いくつだっけ?


 その後は、お互いにリクエストを聞きつつカラオケを楽しむ。


 歳が近いこともあり、幽遊白○、セーラームー○、スラムダン○などをそれぞれ歌う。




 そして、楽しい時間はあっという間に過ぎていった……。


「あぁ〜!楽しかったっ!」


「ええ、俺もです」


 めちゃくちゃドキドキしたけど……。

 ハチャメチャが押し寄せてきたけど。


「あ、あのね!」


「はい?」


「さっきの話は、鵜呑みにして良いのかな……?」


「えっと……?」


「カラオケに付き合ってくれるって話……」


 化粧の違いなのか、いつもの格好が違うからか……。

 上目遣いの破壊力は——もはや凶器。


「…………」


「水戸君?やっぱり、図々しいよね……」


 いかん、思考が停止した。

 ……俺、今日何回いかんっていうんだろうか?


「いえ!俺も楽しかったですから!また、行きましょう。ねっ?」


「えへっ……嬉しぃ……」


 か細い声でそういう麗奈さんは……まるで少女のようだ。


 俺は胸に強い痛みを感じ……抱きしめたい衝動に駆られるのだった……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る