第34話姉貴に相談と実家の話

 翌日の午前中は、部屋の掃除に専念する。


 普段からある程度掃除はしているが……。


 毎日会社で、中々細かいところは出来ないし……。


 こういったまとまった時間を取れることは珍しいからな。


 掃除機をかけながら、スマホをいじり色々と思案を巡らす。


「うーん……カラオケは駅前にある……ボーリングは少し遠い……車があった方がいいな……よし、掃除機はこんなもんか」


 次に床拭きをする。

 まずは机の下などを入念に拭く。


「意外と……汚いな……」


 ……えっと、カラオケが2時間くらいか?いや、1時間か?

 ……今更気づいたが……密室で2人っきりってこと!?


「うげぇ!?イタッ!?」


 起き上がろうして、思い切り頭をぶつけてしまった……。


「い、イテェ……」


 ダメだ、掃除に集中しよう。




 その後手早く済ませ、昼飯のカップラーメンを食べる。


「フゥ……ある意味で贅沢だよな……たまに食うから良いんだよ」


 それにしても……密室か。

 いや、何もしないし……というか、起きるわけがないし。

 中学生か、俺は……。


「いや……そんなもんかもな。初めての彼女は高校生の時で、半年くらいで別れちゃったし……大学生の時の2人目は……」


 ……好きだったんだけどなぁ……。

 1年と持たずに振られたっけ……。

 最初は良いかなと思ったけど、刺激もないし言いたいことも言わない。

 自分が我慢してヘラヘラしてれば良いと思ってるとか……。

 面白い話もしないし、優しいだけのつまらない人って……。


「まあ、全部俺が悪いんだろうな……」


 言いたいことを言うのが……苦手なんだよなぁ。

 親父のせいでもあるけど……。

 そういえば……松浦係長の悪口を言われた時はきちんと言えたな……。

 なんかすげームカついたのを覚えている……。


「これも直していかないとな……」


 これからはアドバイザーもやるわけだし……。

 自分を出していかないと……。


「まあ……それで出来たら誰も苦労しないけど」



 そんなことを考えていると……スマホが鳴る。


「おっ、来たか。さて、出掛けるとしますか」


 用意をしてマンションを出る。




 マンションの外で、姉貴が車に乗って待っていた。


「よっ、悩める少年」


「誰が少年だ、おっさん……いや、青年だ」


「私から見たら少年ですー」


「はいはい、行こうぜ」


 助手席側に乗り込む。


「じゃあ、行きますよ〜」


 車が発進する。


 その道中で気になることが……。


「随分とご機嫌だな?」


「だって、アンタが相談するって言うから……嬉しいじゃない」


「姉貴……」


「アンタは人の顔色を伺ったり、相手のことを考えすぎなのよ。もっと自由に生きて良いのよ。嫌われるとか嫌がられるとか気にしないで……アンタには、それくらいがちょうどいいわ」


「……サンキュー」


「ふふ、素直でよろしい。やっぱり、聞く耳を持たないと何言っても無駄だからねー」





 その後三十分ほどかけて、車はアウトレットモールに到着する。


「意外と空いてるな……?」


「うーん、まあ旅行とかいく人が多いんじゃない?」


「そういうもんかね……さて、どうするんだ?」


「お洋服を買って、小物なんかも……靴も買って……」


「おいおい……」


「良いのよ!日頃のストレス発散よ!なにさ!早く結婚しないんですか〜って!マウント取ってきて〜!」


「悪かった、俺が悪かったよ。付き合うから行こうぜ」


「うむ!くるしゅうない!」


 その後、姉に引きずり回される……。

 俺は感情を殺し、ただの荷物持ちとなる。

 相変わらず、女性の買い物は戦争だ……。




 ようやく終わり、カフェにて休憩する。


「つ、疲れたぁ……」


「アンタ、彼女ができたら言うんじゃないわよ?」


「うっ……頑張るよ」


「まあ、仕方ないわね。で、相談って?」


「……実は……」


 松浦係長と出掛けることや、会社の女の子と出掛けることなったことを伝えた。


「へぇー ……やるじゃない」


「いや、成り行きで……」


「それでも良いのよ。アンタにはグイグイ来てくれる女の子の方が良いわ。どうせ、俺なんかとか考えてウジウジしてるんだから」


「……おっしゃる通りかと」


「まあ、私達にも責任はあるし……自己肯定感を感じることがなかったもんね……私は女の子だったし、そこまで厳しくはされなかったし……」


「まあ、小さい頃はなんでって思ってたけどな……でも、姉貴には姉貴で苦労はあっただろうし……」


「……まあね。さて……で、なにを悩んでるの?」


「いや……そもそも、2人の女性と出掛けていいのかと……」


「真面目か!」


「いや、でもな……」


「別にどっちかと付き合ってるわけじゃないんでしょ?」


「もちろんだ、あり得ない」


「自信満々で言われると、それはそれで……なら、問題ないわよ。相手に言う必要もないわ。自意識過剰だと思う人もいるしね」


「たしかに……うわぁ……恥ずいな、俺。何を勘違いして……」


 これって……2人が俺に好意がある前提で話してるじゃんか……。

 馬鹿か、俺は……そんなわけがないだろうが。


「相変わらず拗らせてるわねぇ……いいじゃない、普通に出掛けるくらい。アンタには経験が足りないんだから。せっかく、素材は悪くないのにもったいないわよ」


「そうか……いいのか。ありがとな、姉貴」


「ふふん、これでもお姉さんですからね。そういえば……実家の話は聞く?貴方が変わっていきたいなら……まあ、無理はしないでいいけど……」


 ……どうする?

 拒絶反応はあるが……いつまでも避けられる問題でないことは理解している。

 こっちも、少しずつでいいから進んでみるか……。


「ああ、頼む。何かあったのか?」


「ふふ……貴方を励ましてくれた方に感謝ね。お父さんがね、腰を怪我しちゃって……まか、ギックリ腰なんだけど」


「はあ?そんな歳でもあるまいし……いや……そうか」


「そうよ。アンタが出て行ってから、もう8年よ?お父さんも58歳よ?」


「そうか……母さんとは、年に何回か会ってるけど……」


「まあ、お父さんは相変わらずだしね。あいつには連絡するな!の一点張り。昭和の男っていうのは、どうしてああなのかしらねー」


「相変わらずだな……押し付けることしか知らない。どうしてあれで客商売が出来るのか謎だよな」


「ほんとよねー。でも、社会に出てわかったでしょ?そういう人ほど成功していることを……もちろん、そうじゃない場合もあるけど……」


「……まあ、否定はできないな」


他人を蹴落としても気にしない人や、自分勝手に生きてる人が得する時代だからなぁ。

もちろん、そういう人ばかりではないけど……そういう一面があるのは否めない。


「まあ、少し考えてみなさい。何か協力して欲しかったら、私がなんとかするから」


「すまん、姉貴……」


「それと……お母さんには、きちんと連絡を入れること!良いわね?」


「……はい、そうします……」






 その後お茶を飲んで、帰りの車に乗り込む。


「それで、車が必要なのね?」


「ああ、いいかな?」


「いいわよ、火曜日に返しに来てくれれば」


「助かるよ、ありがとう」


「じゃあ、今日送ってもらって、そのまま持って行きなさい」


「わかった」


 俺は姉貴を送っていき、自分のマンションに帰宅する。


 ソファーに座って、松浦係長にショートメールをする。


「えっと……明日の一時に迎えに行く予定でよろしいですか?っと」


 すぐに返信がくる……了解です、よろしくお願いしますと。


「これでよしと……」


 さて……明日か。


 楽しみでもあり、不安でもある。


 ……つまらない男って思われたら嫌だなぁ……。


 いかんいかん!こういうのがいけないんだよな。


 よし、気合いを入れて臨むとしよう。




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