第12話松浦係長をご招待?

 何を言いだすかと思えば……。


 ほら、松浦係長だって固まっているじゃないか。


「姉貴、何を言っている?松浦係長に迷惑かけないでくれよ。松浦係長にだって予定というものが……」


「い、いくわ!」


「はい?」


「ダ、ダメかしら……?」


「い、いや……ダメというか……」


 頼むから上目遣いをしないでくれ!

 俺の心が揺らいでしまう……!


「帰っても1人だし……ご飯も作れないし……み、水戸君の料理食べてみたいし……」


 そんな捨てられた子犬のような目で……。

 ハァ——仕方ないか……栄養バランスは気になっていたし。

 姉貴もいるから、変な空気にはならないだろうし。


「……わかりました、良いですよ」


「ほ、ホント……?わぁ〜!嬉しい!」


 やばい……可愛い。

 花が咲いたように笑う松浦係長に、俺の目は釘付けになる……。


「よし!決まりね!じゃあ、買い物して早く行きましょう。じゃないと、作る時間もないしね」


「いや、作るのは俺なんだが?」


「えへへー、楽しみだなぁ〜」


 ……まあ、良いか。

 こんなに喜んでくれるなら、悪い気はしないし。



 その後、手早く会計を済ませ、車に乗り込んだのだが……。


「おい?何故後ろに乗る?」


「荷物多く買ったから、押さえかないとねー」


「わ、悪いです!私が押さえときますから!」


「いいの、いいのー。さあ、助手席に乗っちゃってください」


「ハァ……松浦係長、乗ってください」


「むぅ……それ……イヤです」


「はい?」


「プ、プライベートでしょう?えっと……この間みたいに呼んで欲しいの……」


 ……モジモジしないでくれぇぇ——!

 ああ!もう!どうにでもなれ!!


「れ、麗奈さん……?」


「はい!」


 めっちゃ嬉しそう……!

 ダメだ……この間から色々ありすぎる。

 思考放棄したい……キャパオーバーだよ。




 その後、ご機嫌?な様子の麗奈さんを乗せ、俺の家に向かう。


「み、水戸君は、運転も上手ね」


「そうですか?よくわからないですけど」


 なんで、さっきから横顔を見られているのだろう?

 何か、顔についてるのか?

 ……よくわからない。


「そうなんですよー。この子ったら、自覚がないだけで出来る子なんですけど、自己評価が低いんですよねー」


「それ、わかります。会社でも有能なのに、自分を普通だと思っているみたいで……」


「普通ですよ、俺は。決められたことしかできない……いえ、なんでもありません」


「ふふ、覚えていてくれたのね。そうよ、つまらない人間なんかじゃないわ。貴方がそんなこと思ったら、そう思ってない私がバカみたいじゃない」


「麗奈さん、ありがとうございます」


「ほほぅ、これはこれは……楽しそう」




 その後安全運転を心掛けつつ、自宅に到着する。


「へぇ〜、ここが水戸君の……私とは違って、立派なマンションね」


「え?侑馬の上司さんですよね?なら、もっとお給料も良いし……高級マンションとかじゃないんですか?」


 ……それは、俺も気になっていた。

 多分、手取りで35万くらいはあるはず。

 なのに、どう見ても家賃が安そうなアパートに住んでいた。

 俺のマンションだって、1LDKで家賃は8万だ。

 都内から外れているとはいえ、安いほうだろう。

 だが、あれは3万とか4万なんじゃないか?


「い、いえ……少々事情がありまして、自分にお金を使えないのです」


「そうなんですね……ごめんなさい、無神経なこと言いましたね」


「いえ、良いんです。当然の疑問でしょうし」


 ふむ……じゃあ、食堂での出来事は……。

 ダイエットとかのためではなく、お金がなかったから?

 しかも……そんな中、俺にお酒を奢ってくれたのか?

 これは、恩返しをしなくてはいけない。

 でないと、俺の気が済まない。


「ほら、行きましょう。麗奈さん、今日は沢山食べていってください。日頃からお世話になっていますので、是非お礼をさせてください」


「み、水戸君……はぃ……」


「……お母さんに連絡しなきゃ……」




 5階建てマンションの、5階の角部屋に向かう。


「最上階の角部屋……これって、高いんじゃないかしら?」


「ええ、まあ多少は……ですが、静かだし良いんですよね。周りに遊ぶ場所や、観光名所もないので。だから、人気がないので8万で借りれましたし。きちんと、収入の三分の一以内に収まっていますしね」


「す、凄い……それでも8万……」


「……ハハ……変な会話ですね」


 お給料は倍ぐらい違うはずなんだけど……。

 まあ、あまり深入りしない方がお互いのためか。


「ほら!いいから、中に入ろうよー」


「はいはい、わかったよ」


 鍵を開けて中に入る。


「さあ、どうぞ」


「お、お邪魔します……お、男の人の家……」


「麗奈さん、スリッパをどうぞ」


「は、はい、ありがとぅ……」


 そのまま、リビングに案内する。


「わぁ……!綺麗でお洒落な部屋……!」


「そうですかね?普通ですよ」


 窓側にテレビとソファー、入り口側にテーブルと椅子とくらいしかないけど……。


「ううん!物が少なくて、ごちゃごちゃしてない感じで素敵だと思う」


「……ありがとうございます。まあ、この部屋にはこだわりもないですからね」


「あっ——食器棚可愛い……アンティークな雰囲気で……」


「それは母親が送ってきたものですね。まあ、とりあえずはソファーでゆっくりしててください」


 なんだが、さっきから係長の口調が子供っぽいのだが。

 テンションも高いし……何が楽しいのだろうか?


「は、はい……失礼します……」


「じゃあ、私とお喋りしましょー?」


 ……まあ、いいか。


 とりあえず、料理を作るとしよう。


 そういや、他人に食べさせるのは久しぶりだな……。

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