第13話係長……ではなく、麗奈さんとのクッキングタイム?

 よくよく考えてみると、これは一体どういう状況だ?


 ただの平凡だけど平和な休みが……姉貴が来たことで変わってしまった。


 スーパーで松浦係長に会い、姉貴に言われるがままに連れてきてしまったが……。


 本人も、なんだが乗り気に見えたし。


「……いいや、もう。それについて考えるの疲れた。こういう時は、料理を作るに限る」


 眼鏡を外し、まずは考える。

 さて、どうする?

 料理とは、シミレーションしてイメージすることが大事だ。

 今回は急遽三人になったし……栄養がつくもの……尚且つヘルシーなもの……。

 ある程度は予定通りでいいとして……どうせなら美味しい物を食べて頂きたい。


「よし、決まった……シンプルだが、これなら美味しいと思ってもらえるだろう」



 まずは、お湯を沸かし下準備を済ませる。

 カボチャにラップをして、レンジ入れる。

 そして、15分でタイマーをセットする。


 さて、次は……ん?視線を感じる?


「……麗奈さん?何をしているのですか?」


「ば、バレちゃった……」


「いや……そりゃ、バレますよ。うちはオープンキッチンですし。姉貴は……ああ、寝ちまったのか……すみません」


「ううん、いいの。なんか疲れてたみたいね?ソファーに座ったら、すぐに寝ちゃって……」


「まあ、色々あったみたいですからね。半分は、俺のせいなんですけどね……」


 きっと、両親に色々言われてるだろうな……。

 俺が親父と決別してしまったからな……。


「え?」


「いや、気にしないでください」


「う、うん……それより、料理の時は眼鏡を外すのね?」


「ええ、曇ってしまいますから」


「でも、危なくないの?見えないと……」


「いえ、もう感覚的にできるので。むしろ、無い方が楽ですね」


「へぇー……あ、あのね……見ててもいいかしら……?」


「はい?別に面白くもなんとも無いですよ?」


「ううん!そんなことないわ!」


「は、はぁ……まあ、麗奈さんが良いならご自由にどうぞ」


「はい!見てます!邪魔はしないから!ふふ〜ん……」


 何故かはわからないがご機嫌な様子。


「まあ、良い……さて、やっていくか」


 玉ねぎを微塵切りし、塩胡椒したら弱火でじっくり炒める。

 その間に沸いた鍋で、トマトを湯煎する。

 30秒ほどですぐに引き上げて、用意した氷水の中に入れる。


「皮を剥いてと……これを細かく刻んで……」


 次は、サラダのドレッシングを作っていく。

 余った玉ねぎに、醤油、レモン、サラダ油、ニンニクを入れる。


「これをミキサーにかけてと……」


 その間に、レタスをちぎって水の入ったボールに入れておく。

 更にはきゅうりやニンジンを切っておく。

 そしてソースの味見をする。


「……うん、オッケーかな。レモンとニンニクが、いい味を出してるな」


 ソースをボトルに入れ、ミキサーを軽く洗っておく。


「か、カッコいい……」


「はい?」


「う、ううん!ごめんなさいね!邪魔しちゃった……」


「いえ、大丈夫ですよ。これくらいの作業なら、話しながらでも出来ますから。何か好き嫌いやリクエストがあれば、遠慮なくおっしゃってください」


「す、凄いのね……こんな流れるようにやってるのに…… ちなみに、好き嫌いはないかな。そんな甘えたこと言ってられなかったし」


「そうなんですね。でも、とっても素敵なことですよ」


 あんまり突っ込まない方が良いな……。


「そ、そうかしら……?」


「ええ、そう思います」


 さて次は……炒めた玉ねぎに、仕上げにバターを入れる。

 それを洗ったミキサーに入れておく。

 ただし、少しだけ別皿に取っておく。


「では、メインをやりますか」


 フライパンにオリーブオイルとニンニク入れ、鳥モモ肉を皮から焼いていく。

 更に、別のフライパンを用意する。

 そちらでは、エリンギに椎茸にしめじを入れ、バターで炒めていく。


 すると、レンジの音がなる。


「おっ、良いタイミングだ」


 ミキサーに、皮を取りほぐしたカボチャを入れる。


「これに牛乳を入れてと……」


 スイッチを入れ、30秒ほどで止める。


「わぁ……!凄い!あっという間にポタージュになったわ!」


「これは、結構簡単でおススメですよ。見てましたよね?」


「うん……確かに、玉ねぎを飴色になるまで炒めて……カボチャをチンして……牛乳を入れて……私にも出来そうね」


「ぜひお試しください。カボチャにはビタミンやカロテンが豊富に含まれています。胃の調子や、肌や髪にも良いですから」


「へぇ〜!よく知ってるのね!」


「まあ……よく、調べていたので」


 さて、スープの味見……。


「麗奈さん?何を見つめて……ああ、どうぞ?」


 俺は、ポタージュを入れた味見用スプーンを差し出す。


「えぇ!?い、いや、あの……」


「あれ?違いましたか?」


「違くないんだけど……こっちばかり意識してズルイわ……」


「はい?」


「……ぁ、あ〜ん……」


 グハッ……!?

 美女が口を開けて待っている……!

 えろっ……!

 俺はスプーンを取って、自分で食べるものかと……。

 し、しかし……恥をかかすわけにはいかないな。


「ど、どうぞ」


「……お、おいしぃ……!」


「そ、そうですか、ありがとうございます」


 反則だ……可愛くてエロいだなんて。




 その後気を取り直しして、仕上げに入る。


「さて、ソース作りかな」


 湯むきしたトマトに、取っておいた炒めた玉ねぎを加える。

 そこに塩と胡椒、バルサミコ酢を加える。

 これで、トマトソースの完成だ。


「サラダを盛り付けてっと……」


 1番下にレタス。

 次に、カットした新玉ねぎやきゅうり。

 千切りしたニンジンを入れ、最後にプチトマトを添える。


「これ、完成かな?盛り付け綺麗……写真撮っても良いかしら?」


「ええ、こんなのでよければどうぞ」


 なんか……可愛いらしい言い方の『かな?』と、高圧的な言い方の『かしら?』が入り混じってるのだが?


 その間に、ポタージュを皿に入れる。

 仕上げに、パセリを入れて完成だ。


「鳥モモは……うん、良いだろう」


 鳥モモ肉に、串を刺してきちんと確認する。

 結構、生焼けなことが多いからな。


 皿に盛り付けて、横にキノコのソテーを添える。


「最後に、このトマトソースをかけて……完成だ」


「…………」


「ど、どうかしましたか?」


「う、ううん……30分ちょっとで出来ちゃったから……プロみたい……」


「いえ、大したことではありませんよ。ただの慣れです。さあ、食べましょう」


「う、うん……じゃあ、起こしてくるわね」


 プロか……。


 いや、俺は投げ出した人間だ。


 そんな大層なもんじゃない……。

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