第11話会社の上司とスーパーにて

 ……ただのジーンズに、パーカーを着ているだけなのに……。


 何という色気とスタイルの良さ……。


 しかもスッピンなのかわからないが……いつもと違い、可愛らしい感じだ……。


 松浦係長って化粧映えする顔だからわからなかったけど……意外と童顔だったんだな……。


 ……い、いかん!見惚れてる場合じゃない!


 何故か、松浦係長も固まってるし……。


 な、何か話しかけなくては……!


「き、奇遇ですね?松浦係長」


「え、ええ……こんばんは、水戸君……ご、ごめんなさいね……デートの邪魔して……」


「はい?……はぁ!?何をどうすればそう見えるのですか!?これは姉です!」


「良いのよ、気を遣わなくて……飲みに誘って悪かったわ……完全なパワハラだったわね……私ったら……」


 だ、ダメだ……!

 何故か知らないが、完全に勘違いをしている!

 確かに、俺と姉貴の顔は全く似ていないけれど!


「あの〜、弟の会社の方ですか?」


「え……?」


「私、こういう者です。いつもお世話になっております」


「免許証……水戸朱音さん……水戸君、そうだったの……」


「ほっ……わかってくれましたか」


「そ、そんな……!結婚してたの……!?」


「何でそうなるんですか!?違いますから!今、弟のって言ったでしょ!?意外とポンコツですね!」


「ポ、ポンコツ……!」


「あっ——す、すみません!」


「あの!私は姉です!」


「……ホントに……?」



 その後場所を変えて、何とか信じてもらう。

 何が悲しくて、姉貴を恋人に間違われなきゃならないんだ……。


「ご、ごめんなさい!」


「良いですよ、誤解が解けたなら。俺もポンコツとか言ってしまい、申し訳ありませんでした」


「ううん、言われても仕方ないわ……ハァ……は、恥ずかしぃ……」


 頬に両手を当てている様は、まるで少女のようだ。

 いかん……ギャップがありすぎて……可愛い。


「あの……では、改めまして……侑馬の姉で朱音と申します。いつも、弟がお世話になつております」


「ご丁寧にありがとうございます。私は彼の上司で、松浦麗奈と申します。いえ、お世話になっているのは私の方です。彼はとても真面目で、仕事も出来るので頼りにしています」


 ……なんだ?この状況?

 姉貴と係長が挨拶してる……。

 しかも、うれしいこと言ってくれるし……。


「へぇ……弟の良さをわかってるんですねー。侑馬、良い上司さんね?綺麗だし」


「ああ、それは間違いない。部下をきちんと評価してくれる良い上司だよ……綺麗だし」


「そ、そんな……き、綺麗って……はぅ……」


「あれあれー?これは……姉のセンサーが反応している……」


「おい?何を考えてる?」


 この『面白いモノ見つけた!』という時は、大体ろくでもないことになる……。

 ……主に、俺が酷い目にあう……。


「今って、何をしてたんですかー?」


「え?……か、買い物を……あっ——」


 今更ながら、係長の買い物カゴを見ると……。


「割引のお弁当……惣菜……お菓子……これは……」


「あぅぅ……み、見られちゃった……ち、違うのよ!?今日は偶々で、いつもは……ごめんなさい、いつもこんな感じなの……ガッカリした……?」


「いえ、そんなことはありませんね。姉貴もこんな感じでしたし」


「ちょっと?私だって……」


「今日、うちで食べるって言ったのは誰ですかね?」


「……はい、ごめんなさーい……」


「ふ、ふふ……仲が良いのね」


「普通ですよ……それより、俺が思うのは……栄養は取れてますか?会社でも、あんまり食べてなさそうですし……身体が心配です」


 松浦係長がいないと、うちの課は成り立たないからなぁ。

 しっかりしたもの食べて、健康で元気でいて欲しい。


「み、水戸君……優しい……見ててくれてたの……?」


「そりゃ、見てますよ。大事な方ですから」


 松浦係長だからこそ、俺みたいな奴でも評価してもらえるんだから。

 それに、会社にとっても大事な人だ。

 松浦係長がいないと、色々な仕事が滞ってしまう。


「だ、大事な人……!私が……?」


「はい、もちろんです」


「う、嬉しい……えへへ……今日はいい日だわ……」


 あれ?なんで顔が赤いんだ?

 それに……なんか可愛くみえる……。


「……我が弟ながら、恐ろしい子ね。こんな美女を骨抜きにするとは……昔から、そういうところはあったけど……」


「はあ?何がだ?」


「……自覚なしか……うん、姉が一肌脱ぎましょう……でないと、あまりに不憫だよね……あの〜今日って家に帰るだけですか?」


「え……?は、はい、そうですけど……悲しいことに……」


「今日、弟の家で夕飯を食べるんです。弟は料理が得意で、今日も作ってくれるんですよー」


「へぇ……!水戸君って、料理もできるのね?と、とっても素敵だと思うわ。お姉さんが羨ましいわ」


「いえ、大したモノではないですけどね。ささっと作れるモノばかりですよ」


「その言い方……出来る人のセリフね。ハァ……良いなぁ〜」


「それでですねー……もし良かったら、一緒に夕飯を食べませんか?」


 ……はい?


 今……この姉はなんと言った……?

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