第8話叱られはしたが……良いこともあった

 ……君……水戸君……。


 何か聞こえる……あれ……?


 しまった……寝すぎたか……?


 それにしても柔らかいな……何かが頭に当たっている?


「み、水戸君……お、起きて……」


「……はい?……松浦係長……?」


「お、おはょ……よ、よく寝てたね……?」


「ええ……えぇ!?」


 俺は飛び起きる!


「きゃっ!?」


「す、すみません!えっと……何がどうなってるんだ?」


「あ、あのね……貴方が休憩時間が終わっても、デスクに戻って来なかったから……そしたら、課長がここで寝てるからって……」


「す、すみません!すぐに仕事に戻ります!決してサボっていたわけではなくて……」


「も、もちろん、わかっているわ。貴方がサボるような人じゃないことは」


「あ、ありがとうございます。何故、松浦係長が……?それに……ひ、膝枕を?」


「ち、違うのよ!え、えっと……まずは、課長に起こしてきてくれって頼まれて……そしたら、座ったまま寝てて……起こそうと思って、横に座ったら……そ、その……寄りかかってきて……」


「も、申し訳ないです!俺が全て悪いですね!」


「ちょっと!?土下座しなくても……」


「いえ!寝すぎた挙句、起こしてもらい、膝枕まで……会社でなんということを!」


 これは言い訳ができない。

 失態だ……クビにされても文句が言えない。

 上司の部屋で寝てることすらアレなのに……。


「顔を上げなさい!」


 その声はさっきとは違い……よく知る冷たい声だ。


「は、はい……」


「たしかに失態ね。課長の部屋で寝て、私に起こされて、膝枕までしてもらって……」


「はい!すみませんでした!」


「……許します。貴方は普段から頑張ってますから。それに、責任の一端は私にあります」


「いえ!それは……」


「後は、この後の仕事で取り戻しなさい」


 ……松浦係長の言う通りだ。

 ここでうだうだしてる時間があったら、さっさと仕事をした方が良い。


「はい!頑張ります!」


「良い返事ね。では、期待するとしましょう」




 その後、部屋を出たのだが……。

 何故か、途中で立ち止まる。


「あの……? どうしましたか?」


「……水戸君」


「は、はい……?」


「わ、わ、私の……膝枕……硬くなかった?」


「はい?」


「な、なんでもないわ!」


「松浦係長!」


「な、何ですか……?」


「とても素晴らしかったです。おかげ様で、疲れも眠気も取れた気がします。これで、午後の仕事も頑張れそうです」


「そ、そう……よ、良かったぁ……」


「あれ?また口調が……」


「ゴホン!ほら、行くわよ」


「は、はい」




 その後デスクに着き、しっかりと仕事をこなしていく。


「データ不備はなし。バックアップした、報告書を作成っと……」


「水戸さん、コーヒーどうぞ〜」


「森島さん、ありがとう。いつも助かるよ」


「えへへー、そうですよねー。こんな可愛い子がコーヒー入れてるんですからねー」


「ハハ……ノーコメントでお願いします」


「もう〜シャイですね!」


「森島さん?水戸君の仕事の邪魔してはいけないわよ?」


「むっ……係長。はい、すみませんでした」


 ホッ……助かった。

 ああいう時って、どう返したら正解なのかわからない。

 昇みたいにノリが良ければ、軽快な返しをするんだろうけど。

 会社の中ってこともあるが、俺はつまらない人間だからなぁ……。

 ……初めての彼女にも、つまらないって言われて振られたっけな。


「さて、切り替えていこう」




 その後は黙々と仕事をこなして、なんとか定時に間に合った。


「けげっ!?侑馬、なんで終わってんだよ!?一時間も遅れてたのに……」


「寝たのが良かったのかもな……後は、日頃からやってるからだな」


「クソー!心配して損したぜ!今日は合コンだっていうのに……!」


「……心配してたのか?」


 道理で、いつもなら絡んできそうなのに、そんなことをしてこなかったな。


「まあ……お前がそんなミスするのは珍しいからなぁー。しかも、何故か機嫌良いし」


「そうか……どれ……ふむふむ、これなら……これ、もらうぞ?」


 俺は、昇のデスクの横にある書類の束を取る。


「お、おい?」


「ほら、やるぞ。すぐに終わらせる。俺だって、今日はゲームを買いに行くんだからな」


「ど、どうした……?」


「心配をかけたなら、俺にも責任の一端はある。それに……お前には、いつも助けられているしな。人付き合いの下手な俺は……めんどくさいと思いつつ、実は嬉しかったりするんだよ」


 こいつがいるから、俺は孤立していないようなものだ。

 それに、飲み会の集まりを断るときもフォローしてくれるしな。


「侑馬……へへ、助かるぜ。仕方ねえな、これからも誘ってやるよ。じゃあ、お礼に合コン来るか?」


「行かねえよ。手伝うの止めるかな……」


「わっー!悪かった!なっ!」


「ったく……よし、無駄口を叩くのは終わりだ。さっさと片付けるぞ」


「おう」


 ……まあ、たまにはこんな日があっても良いかもな。


 というか、あの感触が素晴らしかった。

 機嫌が良さそうに見えたか……。

 自覚はないけど、膝枕が嬉しかったのかもしれないな。










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