第6話氷の女王はご機嫌?

全然寝れなかった……。


 昨日は色々ありすぎた。


 松浦係長があんな可愛らしい人だったなんて。


 良い匂いするし、無防備だし……色気も凄いし……。


 だが、俺は会社には私情を持ち込まないと決めている。


 何故なら、俺にはそんな器用な真似はできないからだ。


 日々の仕事に精一杯の俺では、明らかなキャパオーバーだ。


 ここはなかったことにして、普通の対応を心掛けよう。


 あっちもたまたま酔っていただけだし、いつも通りになっているだろう。




 ……と、思っていたんですけど?


「お、おはよう……水戸君……」


「おはようございます。えっと……何故、このような状況に……?」


 寝れなかったので、早めに会社にきて仮眠でもしようとしたら……。

 同じく朝早くきた松浦係長に、給湯室に連れてかれたのだ。


「き、昨日のこと……」


「俺は何もみていませんからご安心ください」


「むぅ……そうじゃないわよ……ご、ごめんなさいね。酔っ払った挙句、色々と面倒をかけちゃって……げ、幻滅しちゃった……?」


「いえ、係長の責務を考えたら当然のことかと。日々の仕事でストレスが溜まると思いますから、あれくらいは仕方ありませんよ」


「そ、そうよね!アレくらい良いわよね!」


「ええ、では戻りましょう。誰かに見られたら面倒ですから」


「み、水戸君は……私といるところを見られるのイヤ……?」


 強烈な上目遣い……!

 貴女みたいな方がやったら反則だよ!?


「はい?いや……そうではなくてですね……昨日、あまり寝ていなくてですね」


 参ったな、一体全体どうなっているんだ?


「わ、私の所為よね……?ごめんなさい……つい、楽しくて……いつも会社で独りぼっちだし……仕事終わったら誰もいない部屋に帰るし……友達はどんどん結婚して会わなくなってくるし……」


「あ、あの?」


「そうよね……こんな女なんかといても水戸君には迷惑よね……」


 どんどん沈んでいってる!

 まずいぞ!?これだと仕事にも影響が出そうだ!

 つまり……俺の仕事も遅れるということだ!


「いえ!そんなことはありません!昨日も楽しかったですから!」


 これは本音だ。

 多少困りはしたが、こんな綺麗な方とお酒を飲めたんだ。

 ……これで会社の上司じゃなければなぁ〜。


「ほ、ほんと……?」


「ええ、もちろんです」


「嬉しい!ふふ〜ん、今日もお仕事頑張れそう!ありがとね!水戸君!」


 ほっ……どうやら持ち直してくれたようだな。


「いえ、こちらこそいつも助けられてますから」


「あ、あのね……また、誘っても良い……?」


 ……どうする?

 また落ち込まれるのも困る。

 かといって、俺のプライベートの時間が……。

 しかし係長のお陰で、今まで残業がなかったとも言える。

 松浦さんが、的確なアドバイスや指示をしてくれるからだ。

 ここは……今までの恩を返すべきか。

 それに……嬉しくないといったら嘘になる。


「……わかりました。ええ、良いですよ。だだ、条件があります」


 俺は誰かに聞かれぬように、松浦さんの耳元で囁く。


「たまになら付き合います……そして、これは2人だけの秘密です。良いですね?」


「は、はぃ……あぅぅ……」


 あれ?なんでだ?

 どうして顔が赤くなる?

 ただ単に、他の奴らに知られると面倒なだけなのだが。


「あ、あのぅ〜?」


「も、もぅ……み、水戸君ったら!そんなところもあるのね!」


 そう言い残し給湯室から出て行った。

 はて? 何か間違ったことをしただろうか……?

 とりあえず眠い……頭が重い……ここで寝よ。


 俺は眼鏡を外して、椅子に座った。

 そして……すぐに眠気がやってくる。




 その後30分ほど寝れた俺は、なんとか午前中の仕事をこなすことが出来た。


 そして昼休み間際になって、部屋の中に冷え切った声が響き渡る。


「小野君……これ、間違ってたわよ」


 小野君か……2年目の男性社員だな。

 慣れてきて、1番仕事のミスが増える頃だよな。


「え……?あっ——!?す、すみません!」


「商品を送る住所を打ち間違えるなんて……私がたまたま気づいたけど、下手したらクレーム案件よ?」


 ……どうやら、注文された商品を送る住所を打ち間違えたようだな。

 これは違う場所に届いてしまうから、あまりよろしくないミスだ。


「す、すみません!」


 これは……キツイのが出そうな予感。


「……幸い、今回は事前に気づくことが出来たわ。次からは気をつけなさい。たかがデータ入力と侮ってはいけないわ。これも大事な仕事だし、誰にも出来そうに見えるけど忍耐や集中力を必要とします。こまめにチェックし、休憩などを取りつつ、仕事に取り組みなさい」


「は、はい!今回は申し訳ありでした!以後、気をつけます!」


 ……うん?なんか、口調がいつもより柔らかい気が。


「ねえねえ、なんか係長機嫌よくない?」


「わかるー、私も今日はそんなに怒られなかったー」


「俺は怒られたけど……たしかに、いつもより怖くなかったような……?」


「なんか、良いことでもあったのかなー?」


 ……これは……俺か……?


 いやいや……自惚れすぎだろ!


 ……まあ、いいや。


 さっさと終わらせて昼飯食おう。

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