第5話氷の女王は住処は……

 ……あれから時間が経ったのだが。


 これ、どうすればいいんだ?


「スー……すー……」


 ……寝ちゃったよ。

 しかも、いつものキリッとした表情が……緩んでいる。

 こうして見ると、意外と童顔に見えるな。


「おやおや?珍しいですな」


「え?そうなのですか?」


「ええ、お酒に強い方ですから。今回は相当張り切っていたのでしょうな。日頃から、貴方にお礼を言いたいと言っていましたからね。ただ、口下手な女性ですから。おそらく、酔いつぶれるほど飲まないと言えなかったのでしょう」


「そうなんですね……嬉しいです。マスターは付き合いが長いのですか?」


「ええ、彼女が入社してすぐですから。6年ほどになりますかね」


「へぇー、そんな初々しい時から……」


「ええ、それはもう。まあ、私に言えるのはこの辺りまでですな。さて……麗奈さん、麗奈さん……これは起きませんな」


「麗奈さん!起きてください!もう遅いですから!帰りますよ!?」


「う〜、ヤダ〜……すー……」


「ダメか……」


 ていうか、ヤダ〜って……可愛いのですけど?


「仕方ありませんな。では、送ってもらえますかな?」


「えぇ!?お、俺がですか?」


「ええ、貴方しかいませんから。住所はこちらです。では、タクシーを呼んできますね」


 マスターは、ささっとメモを渡して去ってしまった。


「いや、ちょっと……まじか……でも、確かに俺しかいないのか」


 勝手にスマホをいじるわけにはいかないし。

 起こしても起きそうにないし。

 ほっぽり出すわけにもいかないしよな……。


「ハァ……なんでこうなったんだ?いや、俺が来たからなんだけど」


 こうなるとは予想外の展開だ……。




 その後タクシーが来たので、麗奈さんに近づき……。


「し、失礼します……」


「うーん……」


 うわっ……!めちゃくちゃいい匂いする……!

 そ、それに……当たっている……!

 意識するな……!相手は上司だ……!


 なんとか、タクシーに乗せることができた。


「では、よろしくお願いします」


「はい……でも、俺で良いんですかね?」


「ええ、貴方なら不埒な真似はしないでしょう……女性が意識がないことをいいことに」


「ええ、もちろんです。ていうか、そんなことしたら何もかもお終いですよ……」


 社会的にも死ぬし、仕事も失くすし。


「ホホ……まあ、最悪そうなっても平気でしょう」


「はい?」


 発車する間際に何か聞こえたけど……なんだったんだ?




「お客様、こちらで間違いないですね」


「ほ、ほんとですか?」


 タクシーが到着した場所は、平凡なアパートの前だった。

 噂ではタワーマンションに住んでいるって話だったが……。

 もちろん噂を鵜呑みにはしてなかったけど。

 普通の高級マンションくらいには住んでるかと思ってたな。


「ええ、では料金を……」


「あっ、はい……これでお願いします」


 料金を支払いタクシーを降りた後、部屋をメモで確認する。


「げげっ?上の階か……仕方ない、頑張るとしよう」


 麗奈さんを担いで、慎重に階段を上っていく。

 怪我などさせたら責任重大だ。

 俺が怪我する分には構わないが、この人は会社にとって重要な人だからな。


「フゥ……なんとかなったか。だけど、鍵って……いや、そもそも勝手に開けていいわけがない」


「むにゃ………はれ?あ〜……水戸君だぁ〜……えへへ〜」


「ちょっ!?これ以上密着しないでください!」


「あれ〜おかしいなぁ〜夢の中なのに、水戸君が冷たいです……」


「夢じゃないですから!鍵を出してください!」


「むぅ〜強引なんだから……はい、どうぞー」


 もういい!

 鍵を開けて早く家に帰る!

 でないと、いくら俺でも色々持たない!


「これですね……よし、開いた」


 ドアを開けて中に入ると……。


「へぇ……狭いけどきちんと片付けられてるな」


 よくあるテンプレだと、こういう美女は部屋が汚かったりするんだけど。


「何よぉ〜いつも見てるじゃないの〜」


「はい?いや、入るのは初めてなんですけど……」


「あ、あれ!?……もしかして……夢じゃないの!?」


「あっ、気がつきましたかね」


 すると表情がコロコロと変わっていく……。


「な、何をする気!?……いや、違うわね!これって私のせいよね!あっ——は、恥ずかしぃ……」


「お、落ち着いてください。俺は送りに来ただけですから」


「確か……水戸君と飲んでて、嬉しくて楽しくて飲み過ぎちゃったのよね……」


「そ、それは光栄です」


「ち、違うのよ!?あくまでも部下とのコミニケーションって意味よ!?」


「ええ、わかっています」


「むぅ……生意気な……で、でも……送ってくれてありがとぅ……」


「いえ、こちらこそ御馳走になりました」


「ううん、いいのよ……あっ——タクシーよね!?」


「いえ、それくらいは出させてください。では、お休みなさい。また、明日からよろしくお願いしますね」


「ちょっと!?水戸君!?」


「わかってます。今日のことは誰にも言いませんから。では、失礼します」


「そ、そうじゃなくて……」


 俺はドアを飛び出し、急いで階段を降りていく!


 そしてタクシーも呼ばずに、夜の街を駆ける!


 でないと、色々どうにかなりそうだったからだ……。




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