第55話 歩み寄り、支え合う

 暗い墓地を明るく照らすような、レッドの言葉が聞こえる。

 ティナはとある墓の陰からそれを耳にしていた。


 ——完全に、レッドと意見が対立しているのだと、思っていた。


 自分の目的を話しても、自分の思いを伝えても、レッドの意思は変わらなかった。

 だからどちらかが折れるしかないのだと。

 けれど、


(レッドは——)


 ぎゅっと目を瞑る。

 ちくちくと痛む胸を手で押さえる。


(レッドは、私に歩み寄ろうとしてくれてたんだ)


 レッドは精一杯、ティナの意思を汲んでくれていた。

 そのためにクラリーナをスカウトするという手段を講じた。


 チームだから、仲間だから。

 それはソロ探索者だった頃には決してなかった——ぬくもりだ。


「ティナ」


 傍にいたグレインがぽんとティナの肩を叩いた。


「あいつは『地上最強』だ、なんて馬鹿なこと吹聴してるけどよ。決して馬鹿じゃねえ。それに情の深い男さ、オレには分かるぜ」


「グレイン……」


「オレはレッドみたいに気の利いたことはできねえけどよ。でもお前らを支えるためなら、なんだってしてやるぜ。それが仲間ってもんだろ」


「……うん」


「さ、行こうぜ」


 グレインに促され、ティナは墓地の道を進んだ。

 答えを待つレッドと俯いて黙考しているクラリーナに近づく。

 先に気づいたのはレッドだった。


「ティナに、グレイン? なんでここにいんだ?」


 クラリーナがはっと肩越しに振り返る。

 ティナは乾いた声で言い訳した。


「あの……私も墓参りをしようかと思って。ぐ、偶然ね」


「もしかしてさっきの話、聞いてたか?」


(うっ、鋭い……)


 内心、冷や冷やしながらもティナが小さく頷くと、レッドは照れくさそうに後ろ頭を掻いた。


「そうかぁ。本決まりになってから言おうと思ってたんだが……。バレちゃしょうがねえな」


「レッド……」


 ティナは恐る恐る顔を上げた。

 レッドは眉を下げて笑っている。


(私もチームだ。ブルーローズの一員。レッドとグレインの——仲間だ)


 彼らの思いに応えたい、素直にそう思った。


「私も、考える。あなたに納得して貰えるようなトゥリゴノ討伐の案を。それでもあなたが無理だと判断したら、その時は私も撤退を考えるから」


「うん、そうだな。そうしてくれるとありがたい」


「決まりだな!」


 グレインがティナの背中を押し、レッドに歩み寄らせた。

 そして双方の肩を抱き、明るく笑う。


「オレもない頭で考えるぜ。チームのためだからな!」


 暗い墓地に弛緩した雰囲気が流れる。


 しかし——それに水を差す、固い声が響いた。


「——勝手に話、進めんといて」


 再び俯いたクラリーナが小刻みに肩を振るわせている。

 その口調には隠しきれない怒気が混じっていた。


「あんたらの都合でうちを巻き込むなんて勝手すぎや。協力したところで、うちになんのメリットがあるって言うん?」


「クラリーナ……」


 ティナの呼びかけにも耳を貸さず、クラリーナは続ける。


「うちは一人で十分や。今までもそうしてきた。これからだってそうする」


「お前……なんでそこまでソロに固執するんだ?」


 レッドの訝しげな問いかけは、クラリーナの逆鱗に触れたようだった。

 桃色の髪をぱっと散らして、クラリーナは激しく首を横に振った。


「——うるさい、うるさい! あんたらには関係あらへん!」


 地面を蹴った小柄な体が、あっという間にティナの脇を通り過ぎた。

 止める暇もあればこそ、クラリーナは墓地から出ていった。


 ティナは昨晩のクラリーナの言葉を思い出す。


 ——「やっぱこう一人の力で困難を成し遂げてなんぼやと思うんよ!」

 ——「……うちはそうは思わへん。人の手なんか借りたない」


(クラリーナにはきっとソロに……一人にこだわる強い理由があるんだ)


 未だ戸惑っているレッドとグレインに、ティナは向き直った。


「私、クラリーナと話してみる。きっと夜には孤児院に帰ってくるはずだから」


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