第8話 ブルーローズの見る夢

「——“ティナ・バレンスタインは薄氷でできている”」


 クラリオンの解体整備をしていたところへ、急にもったいぶった口調でそう言われ、ティナは胡乱げに部屋の入り口を睨んだ。


「突然なに。撃たれたいの、レッド?」


「いや、こうお前を一言で表現するフレーズを思いついちまってな。的確だろ? やっぱ俺、頭脳も地上最強だな」


 自画自賛を始めたレッド・クリフにティナは深い溜息をつく。

 また始まった、と言わんばかりに。

 だがそんなことはお構いなしにレッドは意気揚々と続ける。


「なんていうか、お前を見てると時々背筋がひやりとするんだよな」


「よく言われるわ。銃口を向けた相手とかにね」


「そうじゃねえよ。危なっかしいし、冷たいフリしてやがるしさ。そのくせ踏むとすぐ割れそうなところとか、まさに“薄氷”って感じだ」


 レッドの言に色々と思うところがあるティナだったが、抗弁するのも馬鹿馬鹿しくなり、クラリオンの整備に集中することにした。


 次第に音が遠ざかる。

 視界も霞み、手元しか見えない。


「——まぁ、そんなお前が好きなんだけどな」


 ティナは弾かれたように顔を上げた。


 宿の自分の部屋にいたはずなのに、周囲はいつしか闇に包まれていた。


 もうレッドの姿も見えない。


「大丈夫だ、ティナ」


 声だけを頼りに、ティナは暗闇の中へと手を伸ばす。


「お前には俺がついてる。地上最強の男が。そのことを忘れるなよ——」

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