第2話「白星イソラというライバル」

 玄関に上がり込むと、フカミがすぐ目の前で落ち込んでいた。

「……何をやっているんですか、あなたは」

「見ればわかるでしょ。落ち込んでるの」

 フカミは両足と手をぺたんと床につけている。膝のすぐ前にはスマホ。


「またSNSのチェック、もしくはエゴサーチでもしていたんですか? 心身に悪いから止めなさいとあれほど……」

「エゴサはしてないもん」

「……SNSのチェックはしていたんですね」

 はぁ、と僕はため息をついた。


 他人の目が気になってしょうがないのはどうにかならないか。


いつも口を酸っぱくして言っているのだが、フカミの悪癖は治らない。それどころかアイドルになって調子がついてから、ますますひどくなっている。放っておけば一日に二時間でも三時間でもSNSのチェックか、エゴサーチをしかねない。そんなことよりも睡眠に時間を充ててほしいのだが。


「で? 何を見ていたんですか?」


 フカミは無言でスマホのロックを解除し、画面を僕に見せつけた。そこには僕も見知ったアイドルの顔があった。


 白星(しらぼし)イソラ。フカミの親友であり、ライバルでもあるアイドルだ。茶髪のセミロングで、目元に泣き黒子がある。フカミよりも頭ふたつぶんは身長が高く、おまけにナイスバディという評判でグラビア写真集も出している。さらにはバラエティー番組でも引っ張りだこで、とどめに映画出演の話も出ている。


 安直に言えば、スーパーアイドルだ。


 そんな彼女はエンタメグラムというSNSで、焼き肉店に行ったことをアピールしている。内容は、下記の通りだ。


〈レッツ打ち上げ♪

 みんなと一緒に焼き肉ぱーてぃなう!〉


 焼き肉を美味しそうに頬張っている白星イソラと、仲間とのショット。普通ならばなんてことのないアイドルの日常を切り取ったものだが、ことフカミに関しては事情が違う。ここが厄介なところである。


「楽しそうですね」

「うん」

「焼き肉、行きたかったんですか?」

「うん。でも、それだけじゃないの」

「というと?」

「イソラに誘われなかったのが悲しいの」

「それは、まぁ……別のグループですし。打ち上げって書いてありますから、誘う暇もなかったんじゃないかと思いますし」

「そんなのわかってるもん。だから凹んでるの」

「しょうがないと思いますよ。イソラさんにはイソラさんの付き合いというものがあるのですから」

「それだけじゃないの」

「まだあるんですか」

「他にも更新があったの。特盛パフェを食べたって。あんな幸せそうなイソラを見ていると、なんだか泣けてきちゃうの」

「…………」


 僕は目と目の間を指でつまんだ。


 実は、フカミと白星イソラは小学校からの付き合いだ。ただ、今のフカミの心身については伝えていないという。心配をかけたくないというのがもっともな理由だが、それだけではないだろうと僕は見ている。


「なんだか泣けてきちゃうの」

「二回言わないで下さい。わかりましたから」

「涙がどばどばあふれ出して、水分なくなったら死にやすい?」

「僕に聞かないで下さい。そしてそんな風に死に陥ることは許しません」

「なんだか今日のマネージャー、厳しい」


 むすっと言われ、僕ははっと胸を突かれた。


つい昨日、レッスンのコーチからフカミについて嫌味を言われたところだ。甘やかしてばかりいるとどんどんつけあがるわよともっともなことを言われ、どうしたものかと考えあぐねているところだったのである。


 僕はすぅ、はぁと一旦深呼吸した。


 社会人として、アイドル三人を担当しているマネージャーとして、みっともないところは見せられない。


 僕は姿勢を正し、フカミをまっすぐに見下ろした。

「厳しいのは当たり前です。僕はあなた方アイドルのマネージャーで、きちんと見ておく義務と使命とがありますから」

「それっぽいこと言っちゃって。一人の女子としてのあたしのことなんかどうでもいいのね。遊びだったのね」

「そこまでは言ってません。そして、誤解を招く発言は止めて下さい」

「五階建ての建物から落ちたら死ぬ?」

「まぁ、死ぬでしょうね。……話をすり替えないで下さい。そして僕にノリツッコミをさせないで下さい」


 ぶぅ、とフカミはいつものようにふくれた。


 僕はいつものようにフカミを洗面所に向かわせ、朝食の用意をする。自分でも苦笑するぐらい、すっかり慣れてしまった。


 そういえばフカミにしては珍しく多弁だな、と益体のないことを考える。白星イソラの投稿に影響されてしまったのだろうか。彼女の投稿がフカミにいい影響を与えるかどうかはまだ測りかねているが、「あたしも負けてらんない!」とやる気を出すきっかけになれればいいなとは思う。


 でも、それは希望的観測に過ぎない。

「マネぇ~ジャぁ~」

「どうかしました、か……」

 見るとフカミの顔が水で滴っているままキッチンに出てきていた。足元には水滴が点々と落ちている。

「タオルがないよぉ」

「……洗ってなかったんですか」

「忘れちゃったの。昨日洗濯するつもりだったんだけど、疲れてそのまま眠っちゃったの。あ、でも薬はちゃんと飲んだから!」

「情けない話と自慢話を同時にやらないで下さい。……まったく」


 僕はハンカチを取り出し、フカミに差し出した。洗い立てで、まだ使っていなかったのが幸いした。


 しかし――と思う。


 フカミがこんな調子では、白星イソラのライバルにはなり得ないのではないだろうか。


 友人でいられる内はいいのだが……


     〇


 今回は撮影。

 

 専用スタジオまでフカミを引っ張り込み、スタイリストさんに多大な迷惑をかけて、どうにかこうにか撮影開始までこぎつけた。


 フカミは本番に入るまでが厄介だが、いざ本番になれば腹をくくる。それを知っているから僕は、フカミに見切りをつけたりすることができないかもしれない。

 

 僕は壁にもたれて、フカミが撮影に臨んでいるところをぼんやりと眺めていた。

 

 もし、フカミ以上のアイドルがいたとして。僕はその子の専属マネージャーになるのだろうか。同じアイドルをずっと担当することなんてできないし、会社の都合で簡単に変わってしまうことだってあり得る。

 

 けれど、僕以外にフカミをマネージメントできる人がいるだろうかとも思う。


 これは僕のうぬぼれだろうか。

「あ、新垣さん。こんにちは」

 ピアノのように耳心地のいい声に振り返ると、なんと白星イソラがいた。後ろには僕と同じマネージャーがいて、髪を七三に分けている。時間に正確というもっぱらの評判で、フカミとは相性が悪いだろうなというのが僕の印象だ。

「やぁ、白星さん。梅田さんも、こんにちは」


 梅田さんは会釈だけする。どうもこの人はやりにくい。


 それに構わず、白星イソラはフカミの方を見やった。

「相変わらずいい笑顔をしているわね。でも、ちょっと肩に力が入ってるかしら。緊張しているの?」

「え、そう見えますか?」

「ほんのちょっとだけね。そういえば、私が来てから力が入ったような気がするわ」


 ということは、フカミは白星イソラの存在に気づいて緊張したということなのだろうか。それであればうなずける。

「白星さんは……」

「イソラでいいわよ。堅苦しいのは嫌いだから」

「では、イソラさん。今回は撮影で?」

「そうね、今度雑誌でグラビア写真を撮ってもらうことになってるの」

「そうですか、快挙ですね。今月に入ってから……ええと、三冊目でしたっけ?」

「あら、よく覚えてるのね」

「フカミが欠かさずチェックしていますから」

「フカミが?」


 イソラは目を丸くし、えへらとだらしない顔をした。


「そうなんだぁ、フカミが……私のことをねぇ……」


 えへえへ、とアイドルに似つかわしくない笑い声を立てる。


どうも奇妙なことなのだが、この白星イソラという子はフカミのことが極端に好きらしい。立場的にも事務所の力的にもイソラの方がはるかに上なのだが、フカミのことは大のお気に入りだ。だから事あるごとにフカミのことについて聞いてくる。


 イソラは食い気味に、僕に詰め寄ってきた。

「ね、ね、新垣さん。フカミ、他になんて言ってた?」

「あ、えーっと……エンスタグラムでの投稿、楽しそうでいいなみたいな」

「あ、昨日の投稿ね。私、本当はできればパフェとか焼き肉とか、フカミと一緒に食べたかったのよ」

「本人に言ったら、喜びますよ」

「それはダメ」


 ぴしゃり、とイソラは笑顔のままで言った。


「私はフカミのことは大好きだけど、それとこれとは別なの。曲がりなりにも私とフカミはアイドルだし、一応ライバルみたいなもんだし、そこらへんはきっちりさせておかないとのちのち困ることになるわ」


 腕を組み、イソラは断言した。


 僕は内心で感心した。さすがトップを走っているだけのことはある。彼女なりのプロの矜持が、フカミを甘やかせることを許さないのだろう。


 しかし――


「マネージャー、撮影終わったよ~……」


 フカミがぐったりと、僕たちのところにやってくる。当然イソラのことも視界に入っているはずなのだが、なぜか彼女の方を見ようとしない。

「お疲れさまです、フカミさん」

「ほんとだよ、お疲れだよ。マッサージ機欲しいよ。社長に頼み込んで、なんとか取り寄せてくれない?」

「それはダメです。というか社長にたからないで下さい」

「相変わらずね、フカミ」


 イソラの声に、フカミはぎぎぎと首を動かした。


 イソラはフカミを見下ろし――えへら、と先ほどよりも顔を緩めた。そしてフカミに抱きつき、頬ずりをし始めたのである。

「ああ、もう、可愛い! なんでフカミはこんなに可愛いの!? 神様の仕業なの!? 悪魔の所業なの!? とにかくもう可愛い! お持ち帰りしたいぐらい! ねぇ、マネージャー! このままフカミを持ち帰ってもいい!?」

「ダメです」

「ダメです」

 僕と梅田さんの声が重なる。梅田マネージャーはやれやれと言わんばかりに首を振り、僕に視線を寄こしてきた。

「どうも申し訳ありません。うちの白星が……」

「いえ、大丈夫です。いつものことといえば、いつものことですから」

「恐縮です。……イソラ、そのぐらいにしておきなさい」

「うぬぅ」

 

 おおよそアイドルらしくない声と表情だ。年頃の女子というのはこういうのが流行っているのだろうか。ただ、フカミとは違ってイソラは武士みたいな呻き声(?)なので、外見とのギャップがすさまじい。


 イソラは名残惜しくフカミを手放し、それでもぴくぴくと指を動かしていた。そんなにフカミを可愛がりたいのか。


 これでは梅田さんも大変だろうな――と思って彼の顔を見ると、フカミに厳しい眼差しを向けているところだった。どこか警戒心じみたものを感じ取った僕は、ついフカミの視界を遮るように足を動かしていた。


「ええと、イソラさん。梅田さん。これから撮影では?」

「……そうですね」

「あ、そうね。じゃあまたね、フカミ!」

「またねー……」


 元気よく手を振るイソラと、不承不承という具合のフカミ。これだけでも対照的な二人である。


 イソラと梅田さんの後ろ姿を見送り、「ねぇ、マネージャー」

「梅田さんって、やっぱあたしのこと嫌いだよね」

「……考えすぎですよ」

「だってそうとしか考えられないんだもん。性格的にも合わなさそうだし。それに、あたしの病気のことを理解してもらえるかどうか……」


 僕は頬を掻いた。フカミの言うことにも一理あるからだ。


 イソラ、そして梅田さんにもフカミのことは公言していない。知っているのと知らないのとでは対応がまるで異なることは想像がつく。イソラはフカミのことを知ったとしても対応は変わらないと思うが、梅田さんに関しては予想がつかない。


「あの人、『うつは甘え』って言いそうだもん」

「それは言いすぎですよ。うつに理解のある人は年々増えていってますし、この業界においても無関係ではありませんよ」

「じゃあ、どうしてあんな目をするの」


 僕は数秒考え込み――おそらくですが、と前置きした。


「梅田さんはあなたがイソラさんのライバルであることが、気に食わないのかもしれません。立場的にも事務所の力的にもあちらの方が上ですから」

「あたしみたいな格落ちとは釣り合わないってこと?」

「格落ちの使い方が異なっていますが、そういうことです。ただ、これはあくまでも仮定の話なので。もしかしたら別の理由もあるのかもしれません。いずれにしても、あまり気にしない方がいいでしょう」

「そう?」

「そうです」

 そうかなぁ、と応えるフカミの声にはいつになく張りがなかった。


     〇


 撮影の後は、レッスン。


 都内のスタジオに入り、フカミはそこでアルミとミルキと合流した。


「撮影、どうだった!?」

 ぐいぐいと尋ねてきたのはもちろんミルキだ。フカミは「どうってことないよ~」と生返事をしていたが、ミルキの圧に圧され、とうとう先ほどの出来事を白状してしまう。

「あー、梅田さんかぁ。あたしもあの人苦手」

「フカミとは相性悪そうだものね」

 困り顔で首を傾げたのはアルミだ。

「なんか、あたしたちのことっていうか、フカミのことを一方的に敵視してる感じがするんだよねぇ」

「イソラさんのことも関係しているでしょうね」

「神経質そうだし。融通きかなそうだし。あたし、あの人がマネージャーだったらアイドル辞めてるかもしんない」

「はい、そこまでです」


 僕は三人の間に割り込んだ。


「人のことについてあれこれと推測するものではありません。それに、相手は大手事務所のマネージャーです。くれぐれも発言には気をつけて下さい」

「あ……ごめんなさい」

「う。ごめん、マネージャー」


 頭を下げる二人と、心もち視線を落としているフカミ。


 いけないな、と僕は思った。こんなことで心に影を落としてはいけない。アイドルたるもの余計なことでかかずらって、歌や笑顔やダンスの質が落ちてしまっては元も子もない。それはフカミたちにも僕にもひいては会社の信用問題にも関わりかねないのだ。


 ここはひとつ、太っ腹にいくしかない。


「それよりもどうです、今回のレッスンが終わりましたらみんなで焼き肉にでも行きませんか?」

「え、マジ!?」

「本当ですか、マネージャー!?」


 ミルキよりもアルミの方が食いつきがいい。この子は見かけによらず肉食系なのである。


 ただ――


「わーい、焼き肉だー」


 フカミはそれでも何か心に引っかかっているようだった。


 今日のレッスンに支障がなければいいのだが……

 

 着替えてレッスン場に入っても、フカミの顔は冴えないままだった。コーチから何度か注意を受けていても、生返事ばかり。音楽が流れるとそれまでの鬱屈した雰囲気を振り払っていたが、どこか笑顔が固い。そればかりかフカミらしくもなく、最後のターンでステップの方向を間違えてしまった。

 

 コーチがフカミを注視しているのを見、僕は腰を浮かしかけた。

 

 だが、僕の予想とは裏腹にコーチは口元を緩くほころばせた。

「どうしたの、フカミ。あなたらしくないわ」

「……ごめんなさい」

「謝らなくていいの。誰にだって調子の悪い時があるわ。今日はたまたまそういう時と割り切るしかないわね。最後のターン以外はよかったし」

「……でも……」

「思うところがあるみたいね。マネージャーには相談してる?」

 

 ちらり、と一瞥された。目つきが鋭いから心臓に悪い。


「してます」とフカミが答える。

「ならいいわ。困ったことがあるのならまず人に相談。ありきたりな文句だけど、一人で抱えるのはダメ。それは自分にとっても周りにとってもよくない影響を与える。……フカミ、あなたはアイドルでしょう?」

「はい」

「ならば、自分の持つ影響力をきちんと考えた方がいいわ。あなたにはファンがついてくれているし、仲間もマネージャーもいる。そのことは決して忘れないこと。いいわね?」

「はい……」

 

 しょんぼりと肩を落とす。


 普通に叱責されるよりもこっちの方が、フカミにとっては辛いかもしれない。コーチはただ単にらしくないフカミのことを気遣ったのだろうが、それは逆効果だったようだ。


 じゃあどうすればよかったのかというと、僕にはなんとも言えない。

「マネージャー、ちょっと……」

 コーチはフカミたちに休憩を言いつけ、僕をくいくいと指で招いた。

レッスン場の入り口の脇で、コーチは体を抱くように腕を回す。

「フカミ、何かあったの?」

「わかりますか?」

「いつも暗いけど、あの子はプロ根性のある子よ。ああ見えてプライドも高いことぐらい、あなたにはわかっているはずだわ」

「……恐縮です」

 

 僕は先ほどの出来事を話し、コーチはううんと難しそうに眉を八の字に寄せた。


「そういうことがあったのね。道理で……」

「僕がもっとフォローしてあげられればと思うのですが」

「あなたは精いっぱいやっているわ。フカミも。でも、それで世の中全部うまくいくとは限らない。ある日いきなり理不尽なことがやってくるなんて珍しくもないし、この業界にいればなおさらそうでしょう?」

「その通りです」

「フカミも二十歳を過ぎたし、そういうことぐらいはわかりそうなものだけど……」

 

 ため息をつかれる。

 

 コーチの言う通り、そういうことはフカミにもわかっている。けれどそれを全部飲み込んでアイドルとしてやっていけるほどフカミは――人はそこまで強くない。病気を患っていればなおさらだろう。


「まぁ、いいわ。フカミのフォロー、お願いね」

「はい、ありがとうございます」

「それと……」

「はい、まだ何か?」

「梅田さんのことだけど。あの人そこまで悪い人じゃないわよ」

「はぁ……」

 

 じゃあね、とコーチは戻っていく。


 僕は壁に背をつけ、首筋を掻いて、知らずの内にため息が漏れた。

「わかってはいるんだけど、なかなかなぁ……」

 その言葉はフカミに向けたものか、あるいは自分に向けたものなのか。

 

 おそらく両方だろう。


     〇


 

 翌日――僕は胃もたれと格闘しながらフカミ宅に向かっていた。

 

 昨日の焼き肉が効いた。そんなに食ってはいないはずなのだが、日々の疲れでストレスが溜まって胃が弱まってしまったのかもしれない。自宅で胃薬を服用した時、僕も歳かなぁと落ち込みたくなった。

 

 そしてなんとなくフカミの気持ちがわかったような気がする。

 

 薬に頼ること自体は悪いことでもなんでもない。病気であれば治したいと思って服用することは自然なことだ。

 

 けれどフカミの病気は長く続いている。本人からは五年以上と申告されている。十代の時からうつを患っていたのなら――感情が嵐のごとく大きく揺さぶられている時分なら――引け目になったりコンプレックスになったりして引きずってしまうことも十分考えられるのだ。

 

 気にしなくても大丈夫です――

 

 そう言ったこともあるが、フカミはなかなか納得しない。今もだ。

 

 フカミの住むマンションに着き、僕は彼女の部屋に向かう間にも首筋を掻いていた。何かイライラすること、思うようにいかないこと、不安な時についやってしまう癖だ。スーツ姿だから引っかき痕は目立たないのが幸いだった。

 

 フカミの部屋に着き、チャイムを押す。まぁ、返事はないだろうなと思っていたら、「は~い」と返ってきたので驚いた。

 

 しかもフカミの方からドアを開けてきた。さらにその姿に、僕はもう仰天した。

「ふ、フカミさん……?」

「なぁに、マネージャー?」

 

 フカミはすでに準備万端だった。顔色も髪型も服装もばっちり決まっている。フカミにしては珍しいことに、メイクもしてあった。派手すぎず、それでいて地味すぎないという絶妙なバランスのナチュラルメイク。

「……何か悪いものでも食ったんですか?」

「……ひどい。昨日、一緒に焼き肉食べたじゃない。SNSのチェックもエゴサもしてないし、薬もきちんと飲んだし、ちゃんと寝たもん」

 

 ぶぅ、と思いきり頬をふくらます。

 

 僕は正直戸惑っていた。フカミがこんな風に気合を入れて準備完了していることなど、マネージャーを担当してから一度か二度しかない。

 

 今日は何かあったろうか、と記憶を掘り起こす。


 そしてすぐに、あることに思い当たった。

「今日もイソラさんに会うんでしたね」

「うん、といってもすれ違う程度だと思うけど」

「だからそんなに気合を入れているんですか?」

「そーゆーんじゃなくて。なんていうか、今日はたまたま調子がよかったの。マネージャーが来る前に起きられたし」

「なるほど。いつもこうならいいんですけどね」

 

 何気なく言ったつもりだったが、フカミは口をすぼめた。


「わかってるもん。でも、今日は良くても明日どうなるか自分でもわかんないんだもん。ほんとに今日はたまたまなんだから」

 

 いじけてしまった。

 

 僕は姿勢を正し、頭を下げた。

「失言でした。申し訳ありません」

「うむ。よきにはからえ~」

「朝ご飯はどうですか?」

「もう食べた」

「じゃあ、後は出発だけですね。行けますか?」

「ばっちり」

 

 僕はフカミを引き連れ、バンに乗り込んだ。

 

 今度はアイドル雑誌のインタビューだ。イソラみたいに何ページにも渡って特集を組まれるわけではないが、この際量は問題ではない。インタビュアーの質問にきちんと答え、そして読者に共感してもらえるような内容に持っていくのがポイントだ。

 

 区内のちょっと高級なビルに入る。駐車場は広く、しかも清掃も行き届いている。ここに入るのは初めてだから、僕はちょっと気後れしてしまった。

 

 しかし、フカミはどうということはないようだ。

「大きいとこだね」

「そうですね。いつもとは違います」

 

 バンから降りた時、ふとフカミの頭がゆらゆらと動いていた。ん? と首を傾げた直後、フカミの足元がふらつく。とっさに手を出し、フカミの体を支えた。

「どうかしたんですか!?」

「うーん、どうしたんだろ。なんか頭がふらふらする」

「薬の副作用ですか?」

「たぶん。頓服薬を飲んだから」

 

 頓服薬とはフカミいわく、「ここぞという場面で飲む薬」だ。気合を入れて臨まないといけない時に用いる。しかし、服用した後の反動がひどいからなるべくならば飲みたくない――フカミはそう言っていたはずだった。

「なぜ、飲んだのですか? 今日はインタビューですからそこまで気合を入れなくても……」

「だって、イソラと会うかもしれないだし」

 

 どこかうわごとのようにフカミが答える。

 

 対抗心を燃やすのは立派なことなのだが、そのせいで心身に悪影響をもたらしてはいけないではないか。

 

 僕は頭の中ですばやく計算をした。


 インタビューはせいぜい一、二時間程度。しかし今の状態のフカミで乗り切れるだろうか。ここはキャンセルした方がいいのではないか――

 

 そう考えていた矢先、フカミの手が僕の肘を引っ張った。

「マネージャー、あたしドタキャンとかしないよ」

「フカミさん」

「あたし、これでもアイドルだもん。一度引き受けた仕事はやり遂げたいの」

 

 フカミのまっすぐな瞳が、僕の目を射抜く。暗い海を照らす灯台のように、煌々と輝いていた。

 

 僕はぐっと息を呑み込み、「わかりました」

「でも、無理はなさらないで下さい。僕がダメだと判断したら、その場で中断します。それでいいですね?」

「わかってる」

「歩けますか?」

「うん、なんとか」

 そう言って僕から離れるフカミだったが、その足取りはおぼつかない。

 

 僕はつい首筋に手を触れそうになったが、ぎりぎり思い止まった。


 主役はフカミで、僕ではない。


 僕があれこれと気を揉んでも、フカミの体調がどうなるというものではない。

 

 何よりフカミ自身がプロ根性を発揮しているのだ。

 

 ならば僕も腹をくくるしかない。

「マネージャー、早くー」

「はい、今行きます」

 不安を振り払うように、僕は一段声を高くした。


     〇


「とすると、イソラさんとはライバルなんですね?」

「そんな大層なものじゃないです。私とイソラさんとでは何もかも違います。比べることなんておこがましいぐらいです」

「謙虚なんですね。……イソラさんとは小学校からの付き合いだと聞いていますが?」

「そうですね。今も仲良くしています。彼女のエンタメグラムの投稿とかはよく見ていますし、パワフルだし、純粋にすごいなぁと思うんです」

「イソラさんは映画へのデビューが決まりましたが、フカミさんとしてはこれから成し遂げたいことなどはありますでしょうか?」

 

 インタビューが始まってから三十分。


 話題は白星イソラのことばかりだ。このインタビュアーはイソラに近い位置にいるフカミから、イソラの情報を引き出していきたいのだろう。意図はわかるが、僕はどうしても内に芽生える不快感を拭えなかった。

 

 フカミにインタビューするなら、フカミ自身のことを見てあげてほしい。

 

 だけど、勝手に口を挟むわけにもいかない。どうしてもダメな時はフカミからサインが飛ぶが、その様子はない。

 

 このまま続けて大丈夫。

 

 フカミがそう言っているのが聞こえ、僕は組んだ腕に力を込めた。

早くこんなインタビュー終わればいいと思っていた。


 フカミが目立てる機会が訪れたというのに、イソラの引き立て役になってしまってはフカミのプライドに傷がつくのではないか。

 

 インタビューが始まってから一時間後、ようやく終わった。結局最後もインタビュアーの質問は「これからもイソラさんを目指して励むおつもりですか?」というものだった。それに対しフカミは、「そうですね。彼女に負けずに私も頑張りたいと思います」と返した。

 

 満点の回答だが、フカミの本心ではないことはわかっていた。

 

 退室し、僕はフカミと並んで歩いた。

「ねぇ、マネージャー」

「なんでしょうか」

「珍しく、怖い顔をしてるね」

「……そう見えますか」

「さっきのインタビュー、ムカついてたの?」

「あなたもですか?」

「別にそんなに。イソラのことばっかり聞かれるのは予想ついてたから」

 

 僕は肩の力が抜けた。腹をくくるしかないと言っていたのに、僕自身がこの様では情けないことこの上ない。


 フカミの頭が揺れている。いけない、と僕は彼女の肩を支えた。手近なところに休憩スペースがあったので、ベンチの上に座らせる。するとフカミはぐにゃあと倒れ、横になってしまった。

「マネージャー、ココア~……」

「わかりました、すぐに買ってきます」

 

 僕は急いで自動販売機からココアを買い、キャップを緩めてフカミに手渡した。寝たままでは飲みにくいので、僕の方から彼女を支える。

 

 ちびちびとココアを飲むフカミの顔色は蒼白に近かった。これは限界に近い。

「今日のレッスンはキャンセルしますね」

「いけるよ、あたし……」

「ダメです。あなたは少しやる気を出しすぎました。今日はすぐ家に帰って、ゆっくり休むことです」

「でも、レッスンしないとコーチが。アルミもミルキもあたしのこと、待ってるし」

「他の人はこの際気にしなくていいです。僕の目から見ても、あなたは限界のはずです。そのような状況のあなたに無理をさせては、マネージャー失格というものです」

「…………」

「フカミさん」

「……わかった」

 

 僕は小さく吐息をついた。今日はいけるかもしれないと思っていたが、甘かった。

 

 いくらフカミが本番に強いといっても、その体力には限りがある。フカミはアイドルである前に、人なのだ。無理をし続けられるほど強くないし、フカミならばなおさら余計だ。

 

 しかし――ここで運悪い出来事があった。

「あら、フカミ」

 

 白星イソラと梅田さんが、僕たちの前に現れた。


 何もこんな時に。


 そう言いたくなったが、邪険にするわけにもいかない。

 

 僕はフカミをしっかりベンチの背に預け、立ち上がった。

「おはようございます、イソラさん。梅田さん」

「おはようございます」

「……おはようございます」

 

 梅田さんはフカミを観察するように見下ろしている。


 僕はよくないものを覚え、前のようにさりげなくフカミと梅田さんとの間に体を割り込ませた。

「フカミ、体調悪いの?」

 イソラが尋ねてくる。

「ええ、ちょっと今日はたまたま……」

「そう。じゃあ、そっとしてあげた方がいいわね」

「そうしてくれると助かります」

「じゃあ、残念だけどフカミ。またね」

「またね……」

 

 イソラは廊下を歩いていき、梅田さんもそれに続いた。彼は僕たちの方を一瞥したが、別段何か言ってくることもなかった。

「ふぅ……」

 

 僕は吐息をついた。この程度で済んでくれてよかった。

 

 しかし、フカミの方を振り返るとまたも体を横にしていた。先ほどのやり取りだけでも相当消耗してしまったらしい。


 僕はとっさに膝を床につけ、「フカミさん!」

「大丈夫ですか、まだ息はありますか!?」

「マネージャー、さりげなくひどいこと言うよね……」

 フカミはへへ、と力なく笑った。

 

 人目があるので、抱えていくわけにもいかない。僕は断腸の思いでフカミを立ち上がらせて、肩を担いで駐車場へと歩いていった。

 

 バンに乗せるなり、フカミは頭から座席に滑り落ちた。ふぅ、ふぅ、と疲労をあらわに息をついている。額に手を当て、熱がないことを確認してから僕はバンを発進させた。


「あ、もしもし。新垣です。ええ、フカミさんは体調不良で……はい、今日はお休みを頂きたく損じます。申し訳ありません。……いえ、僕の監督不行き届きです。責任は僕にあります。……はい、はい。どうもすみません」


 僕は電話を切り、赤信号の時にフカミを確認した。両目は細く開かれていて、時おりうなされている。まだ息が荒いので、眠りたくても眠れないのかもしれない。


 頓服薬の効果が切れるまで待つしかないのだ。やる気を出している時ほど、その反動がひどい。

「フカミさん……」

 信号が青になって、僕は後ろ髪を引かれる思いでハンドルを握った。

 

 フカミ宅までいつもより早く着いた。


 人目もはばからず僕はフカミを抱きかかえ、彼女の部屋へと直行する。ベッドの上に寝かせると、フカミも僕もようやくほっと息をついた。

「あんがと、マネージャー……」

「いえ、礼を言われるほどではありません。それよりも申し訳ないです。僕がきちんとあなたを見ていれば」

「ううん、マネージャーのせいじゃないの」


 くるりと体の向きを変え、フカミは僕に背を向ける形になった。


「あたし、イソラに負けたくないって思ったの」

「……はい」

「イソラは昔からなんでもできたの。あたしとは大違いだった。なのにあたしなんかにも優しくしてくれて、友達になってくれて。そりゃあちょっとウザい時もあるけど、イソラがいてくれてよかったって思う時はいくらでもあった。イソラがいなかったら、あたしアイドルとしてステージに立てなかったかもしれない」

「そうなんですか」

「でも、ダメだね。あたし。ちょっと頑張っただけでこのザマ。イソラみたいになりたいのに、どうしていつもこうなんだろ……」


 布団にくるまり、うう、と声を漏らす。


 僕はどう声をかけていいものか迷っていた。半端な励ましの言葉は逆効果だ。気にしなくても大丈夫と言っても、フカミは気にしてしまうだろう。


 僕はあることを思い出した。


 フカミがイソラに病気のことを打ち明けない理由だ。

「フカミさん。確認したいことがあるのですが」

「……なに」

「イソラさんにフカミさんのことを伝えないのは、今言っていたことが原因ですか?」

「……うん」

「友達だから心配をかけたくないというだけじゃなく、アイドルとして引け目を感じたくないということなんですね」

「……うん」

「なら、大丈夫ですよ」

「どうして?」

「その想いがある限り、フカミさんはイソラさんに負けることはありません。今すぐは無理かもしれませんが、諦めない限り必ず届きます」

「でも、イソラが今よりもっともっと遠いところに行っちゃったら……」

「それでも大丈夫です。人と比較する必要はないとよく言いますが、それでもあなたは気にするでしょう?」

「うん」

「ならば、もっと追いつけるようにするしかありません。そして僕はあなたがそれをできる人だと信じています。だからそんなに自分を責めないで下さい。マネージャーとしても、僕個人としても、それは悲しいことです」

「…………」

 

 フカミは布団の中でもぞもぞと動き――それから身を起こした。目が赤くなっており、頬に涙の跡が残っている。

「マネージャー、悲しいの?」

「はい」

「じゃあ、泣くのやめる。マネージャーが悲しいのやだから」

「ありがとうございます。でも、泣いてもいいんですよ」

「そう?」

「ええ。無理して涙をこらえるよりもその方がいいんです。泣かない人間はいませんし、泣かないアイドルもいません。泣きたい時は泣いて、それから笑いましょう」

「笑う……」

「あなたの笑顔は魅力的です」

 

 するとフカミはぱちくりと目を開き、そっとうつむいた。


「笑うためには泣くことも必要です。泣けば泣いた分だけ、人に笑いかけることができます。泣かないアイドルは確かに強いですが、強いだけで生き残れるほどこの業界は甘くありません。それは、イソラさんでも同じことです」

「そうなの?」

「ええ、だからマネージャーという存在が必要なんです」

 

 フカミはうつむいたまま考え、ややあってから口を開いた。

「梅田さん、あたしのこと嫌いなのかなぁ」

「わかりません。でもイソラさんと同じでフカミさんをライバル視していることは間違いないと思います」

「ライバル……」

「実力を認めてもらっている、ということです。実力がなければライバル視してもらえません。梅田さんはもしかしたらあなたのことを脅威だと思っているのかも」

「そうなのかな」

「きっと、そうですよ」

 

 これはあくまでも僕の希望的観測にすぎない。梅田さんを利用しているみたいであまりいい気持ちはしないが、フカミのためだ。

 

 フカミは再び布団に潜り込み、「ありがと」

「今日はもう大丈夫」

「そうですか?」

「うん。アルミとミルキのところに行ってあげて。あたしは大丈夫だって」

「……わかりました」

 僕は立ち上がり、部屋から出ようとして――

「マネージャー」

「はい、なんでしょう?」

「いつもありがとう」

 僕は一瞬言葉を無くし――「とんでもありません」と答えた。

「また明日、会いましょう」

「うん」

「じゃあ、お大事に」

「うん」

 僕はフカミの部屋から出た。


 余計なお世話だと思うが、一旦コンビニに寄ってフカミの好きなプリンとお弁当を買っておく。フカミ宅に戻り、彼女のテーブルの上にそれを置いておいた。簡単なメッセージも添えて。

 

 それから僕はアルミとミルキと合流するべく、フカミ宅を後にした。


     〇


「おはようございます、フカミ……さん……」

 ドアを開けるなり、フカミは死んでいた。ひと昔前のミステリー小説みたいに足と手を広げ、ダイイングメッセージのごとく人差し指が伸びている。その先にはスマホ。

「……またSNSのチェック、もしくはエゴサーチをしてしまったんですか」

「SNSのチェックはしてないもん」

「エゴサーチはしたんですね……」

 

 僕は目と目の間を指でつまみ、はぁとため息をついた。


「またひどいことを書かれたんですか?」

「イソラがライバル視してるのがおかしいって。地下ドルと変わらないって。ステージから降りればどうせクソビッチだって」

「そんなのは邪推です。いい加減、エゴサーチは止めて下さい」

「あたしの生き甲斐だもん」

「そんな生き甲斐は虚しいです」

「胸にぽっかり穴が空いたら、さすがに死ぬかなぁ」

「当たり前です」

 

 僕はフカミの体を起こし、いつものように着替えさせて、いつものように出発して、いつものようにスタジオに着いた。

 

 そこで――またしてもイソラと梅田さんに出会った。

「ああん、フカミぃ!」

 

 顔を見るやすぐに抱きついてくる。さらには頬ずり。しかも匂いをくんくんと嗅いでいる始末だ。

「ああ、今日もいい匂い……もっと味わいたい……」

「止めて下さい」

「止めて下さい」

 

 再び、僕と梅田さんの声が重なる。さすがにこれ以上はイソラさんの沽券にも関わってくる。口を半開きにしていたイソラさんは舌の代わりに「ぐぬぅ」と声を出した。止めなかったらR指定になる。

「申し訳ありません、度々うちのイソラが……」

 梅田さんが深々と頭を下げる。

「イソラ、もう先に入ってなさい。私も後から行きますから」

「はーい。またね、フカミ!」

 ぶんぶんと手を振り、颯爽と去っていく。

 

 残された僕とフカミ、そして梅田さんとの間にはどことなく気まずい雰囲気が流れていた。

 

 ふと、あることに気づく。梅田さんの手に紙袋が提げられている。何かしらの差し入れだろうか――と思った時には、梅田さんは紙袋に手を突っ込んでいた。

 

 取り出したのは――色紙とサインペン。


「は?」

「え?」

 梅田さんはそれをフカミへと突き出す。両手を揃えて、かっちりと。

「突然ぶしつけで申し訳ありませんが……サインを頂けませんか?」

「は?」

「え?」

 

 僕とフカミは顔を見合わせ――とりあえずフカミは呆然とした表情で色紙にサインを走らせた。

 

 梅田さんはそれを見、満足そうにうなずく。

「うむ、これで五十人目……」

 

 どことなく不穏なことをつぶやいた梅田さんは、その場の雰囲気を誤魔化すように眼鏡をくいっと上げた。

「ありがとうございます、フカミさん。イソラがいるとなかなかこういうことを言い出せなくて……」

「は、はぁ」

「そう、なんですか……」

「では、私はこれにて。本日も一日頑張りましょう」

 

 再び頭を下げられ、くるりと踵を返す。数歩歩いた先で、梅田さんがぴょいんとジャンプしていた。

 

 僕とフカミは再び顔を見合わせ――


「あのさ、マネージャー……」

「ええ、おそらくですが……」

「あたし、意外な人の意外な一面を見た気がする……」

「ええ、僕もです」

「正直ちょっと、気持ち悪いって思っちゃった」

「気持ちはわかりますが、思っていても言わないで下さいね」

 僕たちは誰もいない廊下で、半ば呆然と突っ立っていた。

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