第十七話 転換点(起)その五
冒険者ギルドへの依頼を終えた私は万が一に備え練っていた策を発動させるべく、懐に忍ばせていた通信用水晶を起動させる。
起動し通信相手の応答を待たずして、走り出し目的地へと駆けた。向こうも忙しくてすぐには出ないと思ったが走り始めすぐに水晶越しに彼女の声が聞こえた。
「ミカサっ!」
「お嬢様そちらは」
「無事冒険者ギルドを動かせたわ」
「流石です。それと手筈通り、王門の開放庭園への市民の誘導を開始しました」
指示を出さすども動いてくれていた。
「それとお嬢様の指示通り、陛下は王族専用通路を用いて極秘裏に庭園の方へ誘導。皆には王の間に行くと伝達しています」
王城に辿り着けど逃げ惑う人々の多さに、守衛は対応に追われ王女がこの人混みの中に居るとは到底思えないのだろう。
てか誰も気づかないなんて私の魅力ってないのかな……。普段から表舞台に立つことなく、生活して来たのだから国民は自国の王女の顔を記憶にないのも無理はない。
人混みに紛れながらそっと横道に逸れた。
王族にしか知らされていない秘密の抜け道に入り階段を昇り、目的地付近まで行くと通常の回廊へと戻るため秘密の扉を開ける。
そこで彼とすれ違う。
「おや?これはレテシア様。ご無事でしたか」
「バッハメルン侯爵、お父様は?」
法務官として正義を重んじ中立公正な立場から物言う彼の姿勢は薄汚れた貴族社会の中で稀有なものであり、お父様からの信頼も厚い貴族官僚だ。
当然私も彼のことは良く思っている。
「王の間に行かれている筈です。私が王女様をご案内しますのでお手を」
「はい」
実は城の中枢、王の間は外部からの敵の侵入を防ぐ結界を張ることが出来万が一の王族の避難場所とされているのだ。
だから彼は私を連れて向かった。
「むっ何故誰も居ない?」
王の間へと至る扉を開け中に入れどそこには誰も居なかった。もぬけの殻とはこのことだろう。
「王女様一体何をしておいでか」
「結界を発動しただけですが何か問題でも」
「まだ陛下が来られていません。今閉めれば陛下等が入れません」
誰も居ないこの状況におそらくまだこの場に現れていないだけだと錯覚するのも無理はない。王の間に避難するのが最も安全なのだと認知されていればこそ。
但し内側に敵がいた場合見方は変わる。
「お父様はこちらには来ません」
「何を仰る」
「今頃庭園の方に諜報暗部の者がお連れする手筈になっていますから」
「ここより安全な場所はありませぬのに何故そのような場に……。王女様、結界を早く解いてすぐにでも陛下をこちらへご案内せねばなりません」
「残念ですがこの結界は解除しません。何故なら誰もこの中へ入れないためです」
事前に仕掛けていた
何重にも何重にも。常人なら縛り付けが原因で死ぬほどに。
所詮これが無意味かも知れぬとも、試す価値はある。
動きを封じたバッハメルン侯爵の土手っ腹に一撃を与えるべく私は動く。敵は私の実力を甘く見積もる筈。
だって私はただの王女だもん。
とまぁ敵の正体を知る者だからこそ本気でぶつかるも……。
「やはり多少なりとも鍛えてはいたようだ」
「甘かったのは私の方だったわけね」
渾身の一撃は全く手応えがなかった。
それをアピールするが如く彼もまた元気そうに微笑みかけ、思わず不気味さに一歩退いてしまう。
だが……。
感触と実情は違った。
無駄に終わったかに見えた攻撃は私が退いた瞬間、技を撃ち込めし箇所が光輝きバッハメルンを玉座付近まで弾き飛ばしたのだ。
武は効かぬとも技は通用する。
王族のみ使える魔法。
「よもやそれを扱う術者がいようとは驚きを通り越して尊敬してしまうよ」
「さぁ始めましょうか」
神衣。邪悪を打ち砕く魔法。
その一撃は確かにダメージを与えた。
「小娘と油断していたが、まさかここまでの強さとは」
「お父様は私が守る」
「やれるものならやってみろレテシア王女」
「言われなくても」
鼓動が高鳴り彼に向けて笑みが零れる。
なんで私はワクワクしているの?
自問自答してしまう。
けれど答えは当に解っていた。
人生の分岐点。私が取り零してしまった過去の悲劇、それを塗り変えるため今ここにいる。何故こうなったか理由は定かでなくとも、私は今ここに立っているんだ。
「それが王女の責務」
静かにただ感情を言葉に乗せる。
そして……。
「
誰も知らぬ王女の戦いが始まった。
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