(什)
この後、長く付き従っていた者達にとって、意外な光景が
ただし、趙武が女性に対して気の利いた言葉を囁やけるわけが無く。ひたすらに、趙武の知識により、古の戦いや、自分の行った戦いに対する説明や、軍略、戦術、用兵の話等が繰り広げられていた。それに対して、嫌な顔をせずむしろ楽しそうに聞く瀨李姉綾。
瀨李姉綾自身も、完全に趙武の話を理解している訳では無かったが、楽しそうに話す趙武の話を聞いているのが、何故か楽しかった。
「う〜む。姫のあのような楽しげな顔見るのは、久しぶりですな」
慈魏須文斗が呟くと、呂亜も、
「趙武のあんな積極的な姿、始めて見ますよ」
「これは、大丈夫ですかね?」
「そうですね。では、準備に取り掛かりますか」
という訳で、周囲では密かに結婚に向けて準備が執り行われた。そして、それに向けて呂亜と、慈魏須文斗の余計なお世話とも言える。趙武と、瀨李姉綾に対する、攻勢が始まった。
「趙武、瀨李姉綾さん。綺麗だな」
「呂亜先輩。どうしたんですか? 突然」
「いや、趙武がどう思っているのかなってな」
「そうですね〜。正直、楽しいですよ、それに一緒にいると、心が落ち着いて、安心出来ます」
「そうか。それは良い。でだ、趙武瀨李姉綾さんと、結婚する気はあるのか?」
「結婚ですか。う〜ん。考えなくも無いですが、風樓礼州王国の後処理もまだですし、相手の気持ちもある事ですから。落ち着いたら考えますかね」
「そうか。まあ、焦ることもないか」
「はい?」
「姫、趙武様はいかがですか?」
「急に何ですか? じい」
「いえ、姫が、最近趙武様とおられる事が多いので、どう考えておられるのかなと」
「そうね〜。趙武様はとても純心な方ね。そして、とても怖い方」
「それはどういう?」
「良い意味でも、悪い意味でも純心なのね。目的を決めたらその頭脳で、徹底的に考え、勝利を追求し、それによってもたらされた結果は特に気にしない。だから、純心でいれれるのかな」
「では、姫は、趙武様のことお嫌いですか?」
「う〜ん。わたしは、好きかな趙武様のこと。一緒にいて心地よいし」
「そうですか。それなら良い方法がございます」
「突然、何?」
「いえ、男なんて生き物は単純な存在でございます。本能で生きているのです」
「へ〜、そうなの」
「眠かったら寝ますし、美味しい食べ物があれば、食べます。そして、綺麗な女性がいれば、抱きたいと思いますし」
「えっ、えっ」
「ですが、一番効果的なのは」
「効果的なのは?」
「胃袋を掴む事です。美味しい食べ物で、姫がいないと、いれなくすれば良いのです」
「そうなの?」
「はい、なので、姫! 料理の特訓です」
「なんか、強引な感じだけど、わかったわ。じい」
「では、やりましょう」
「おー」
という訳で、慈魏須文斗の勢いに押されて瀨李姉綾の料理特訓が、始まった。しかし、
「姫、真面目にやってますか?」
「真面目にやってるもん、頑張ったもん」
「ですから、もんって、言う年齢ではないでしょ。ちゃんとしてください。趙武様に嫌われますよ」
「ぶ〜」
こんなドタバタ劇も繰り広げられていたが、風樓礼州王国に対する戦後処理も進められていた。
風樓礼州王国には、帝国の支配に抵抗する気全く無いようで、すんなりと帝国の要望を受け入れていった。その一つ目が、風樓礼州王国国内に住む、有能な黒髪黒眼の民の採用だったのだが。趙武が、将軍である慈魏須文斗や、王国の筆頭文官であった、執政官と言う役職の
「かしこまりました。では、早速取り掛かります」
「うむ。そうだな」
と、把羽琉州が受諾し、慈魏須文斗も同意した。あまりにあっさりとした、もの言いに、趙武が疑問を、持って訊ねると、
「良いんですか? 今まで、銀髪碧眼の民で文官、武官共に役職を占めていたんじゃないんですか?」
すると、把羽琉州は、
「正直なところ、伝統だったからそうなっていましたが、向き不向きがありますからな〜。個人的に、秘書として、雇っておりましたし」
すると、続けて慈魏須文斗が、
「左様ですな。武官でも、騎馬兵は、かなり苦労してましたからな、ハハハ。黒髪黒眼の民が加われば、百人力ですな」
笑い事じゃない気もしたが、とりあえず受け入れて貰えそうだった。これで、黒鷲団にも面目がたった。
さらに、二つ目として、
「軍制ですが、慣れているので、そのままで良いでしょうね。ただし、騎兵隊長に黒鷲団の団長の
「かしこまりました」
これも、あっさりと慈魏須文斗は受諾し、さらに、
「そして、将軍ですが、帝国に倣って呼称だけ変更して、上将軍として、慈魏須文斗さん、そのままやってください」
「は? よろしいんですか? それでは、帝国が攻略した意味が無くなるのではないですか?」
慈魏須文斗が、疑問を投げかけるが、趙武は、
「僕も当初は、呂亜さんをって思って思っていたんだけどね。呂亜さんが傍に居ないと僕が困るし、慈魏須文斗さんの事、信頼しているし、それにね」
趙武は、始めて真面目な顔をして、二人に告げた。
「もし反旗を翻しても、何度でも攻略してみせるよ」
把羽琉州も、慈魏須文斗も心の底からこう思った。ただの小説の話と思っていた、氷の軍師。それが、目の前にもいるような気がした。心底震え上がりつつ。この人に逆らっては駄目だと。そして、土下座し、頭を床までつけて誓った。
「ははっ、肝に命じます!」
さらに、趙武は、王都の欠点であった、岩山との段差も岩山を少し削る事によって、岩山からの騎兵の侵入を困難にさせた。
そして、帝国とのスムーズな交易が始まる事によって風樓礼州の元王都は、わずか数ヶ月で更なる、賑わいを見せる事となった。
趙武が、こうして忙しく動き回る中、その隣には、必ず瀨李姉綾の姿があった。忙しく仕事や考えに没頭する趙武の世話を甲斐甲斐しく行う瀨李姉綾。
「そろそろ、お昼の時間です、趙武様」
「ああ」
考えに没頭する趙武の生返事にもめげる事なく、食事の用意をし、食べさせる。最初の頃は、文句は言わないものの、顔を
「うん、これ、美味しいですね」
「そうですか! 良かったです!」
無邪気に少し跳ねながら、喜ぶ瀨李姉綾。趙武は、珍しく考えを中断させ、目の前で弾む瀨李姉綾を見た。そして、ある決断を下したのだった。
趙武は、呂亜とも相談した後、瀨李姉綾に話があると告げた。そして、
「えっと、瀨李姉綾さん、あの結婚していただけますでしょうか?」
本当は、いろんな言葉を考えていたのだが、実際言う段になって、全部飛んでしまい、いたって簡潔な言葉となった。
「趙武様は、勝者です。敗戦国の女王は、それに従うまでです」
「えっ、いや、えっ」
「冗談でございます。趙武様、今後ともよろしくおねがいします」
「ああ、よろしく。いや。こちらこそよろしくおねがいします」
こうして、趙武と、瀨李姉綾は結婚する事となった。趙武33歳、瀨李姉綾29歳。この時代の結婚年齢としては、だいぶ遅い結婚だったが、呂亜始め、周囲の人間にとっては、嬉しい事でしか無かった。
早速、二人の結婚式の準備に入ったのだが、趙武の帝都での用事や、招待客の都合もあり、時期は、春から夏に近づこうかと言う時期になった。
結婚式は、新郎が新婦の家に出迎えに行き始まる。趙武は、風樓礼州の旧王都風樓礼州に、瀨李姉綾を迎えに行き、そこで、風樓礼州の人々の歓待を受け、数日滞在した。その間中、街中がお祝いの祝祭となり、昼夜問わず行事が行われた。
数日が経過し、趙武と、瀨李姉綾の行列が出発すると、結婚式に出席する慈魏須文斗を始めとする武官や、文官だけでなく街の一部の住民も行列に加わり移動を開始したため、
行列は、船に乗り河を進み江陽に到着する。こちらでも、風樓礼州に負けず祝祭が行われる中、趙武、瀨李姉綾を乗せた派手に装飾された
かなりの大きな大広間であったが、多数の出席者で、満員となった。末席の参加者は、趙武、瀨李姉綾の姿が小さく確認出来るだけと、大袈裟に言われもした。
そして、出席者はと言うと、大将軍だと
あまりに豪華な出席者で、結婚式を仕切る事となった、呂亜と、陵乾はてんてこ舞いであった。細かい気遣いの出来る二人であったが、江陽に到着してからの凱炎と呂鵬が昔ほど親しげでなく、よそよそしい様子を見て席を変えるなどの対応も卒なくこなし、結婚式にのぞんだ。
呂鵬の挨拶から会が始まると、酒も進み話が自然と盛り上がっていった。そして、各々が新郎、新婦に挨拶しに席を立ち上がっていった。
「ハハハハ、しかし、趙武が結婚出来るとはな。奇特な方がいるな〜。いや、失礼した。瀨李姉綾殿であったな。趙武をよろしく頼む。これから何があっても、幸せにな」
すると、趙武が答える。
「はい、凱炎大将軍、ありがとうございます。しかし、何があってもとは、大袈裟な」
「ハハハハ、そうだな」
瀨李姉綾も挨拶し、凱炎は席に戻った。
「ありがとうございます。凱炎様も、末永くよろしくおねがいします」
趙武の両親や、弟妹達、親族、そして、列席者が次々と挨拶し、最後に至恩、陵乾、雷厳が連れ立ってやって来た。しかし、
「ウゲッ、グシュ、ガッ、うううう」
「なんで泣いてるんだ雷厳?」
趙武が号泣している雷厳を見て訊ねた。すると、至恩が
「親友の結婚式が、とても嬉しいんだそうだ。俺たちの結婚式では、泣かなかったがな」
「そうでしたね」
と、陵乾、
「だっでよ〜。あの趙武がだよ〜。うぐっ、うう〜、おめでとう〜、うう〜」
「まあ、ありがとう雷厳」
と、趙武。あっさりと返事しつつ、少し目が潤んでいるようにも見えた。そして、
「しかし、長くなったな〜。俺たちの付き合いも、そして、友達が大岑帝国の大将軍に成って、そして、女王と結婚か〜。正直に凄い事だな。おめでとう、趙武」
「ありがとう、至恩」
続けて、陵乾も
「本当におめでとう御座います。趙武君、瀨李姉綾さん、心から祝福致します」
「ありがとう、陵乾」
こうして、宴は盛り上がり、興奮して呑みまくり、雷厳が騒ぎ始め、奥さんにつまみ出された以外、
幸せを満喫しつつ、趙武は、少し前の帝都への訪問を思い出していた。大岑帝国に、暗雲がもたらせられられようとしているのかもしれない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます