第弐幕 大将軍への道編
(弌)
趙武の予想は、外れた。何事も無く、2年の歳月が経過した。
如親王国の情報も手に入れていたのだが、重要な情報は、如庵という大将軍が先の大敗の責をとって辞任。そして、耀勝という人物が大将軍に就任。そして、その耀勝こそ、先の泉水攻防戦での、帝国にとって唯一の汚点をつけた人間だという事だった。
「厄介だな」
如親王国にとって、唯一の大将軍。それは、全軍司令官であることも意味していた。ただし、現状最大兵力動員数は30万はあるだろう如親王国であったが、泉水攻防戦での損害によって、現状動員できる兵力は20万くらいだろうとの事だった。
「20万か」
趙武は、自分が20万の兵を率いて泉水の攻略戦を妄想してみた。
「北河は大河だ。昼間渡れば目立つから、夜だろ。灯りを消してそっと、対岸に近づき火矢で奇襲。そちらに目を引きつけて置いて、別働隊は別の場所から上陸して、陸側から強襲」
北河のこちらの防衛施設は突破できそうだったが、そこから先は、いくら考えても無理そうだった。防衛施設を派手に燃やして、そこに軍を引きつけて、強襲なんて考えてもみたが、凱炎大将軍が居なくとも、夜、立ち上る火に動揺するような将軍達ではない。逆に、泉水の防備を固めるだろう。
「やめだ、やめ」
そうなると、耀勝の次に考えそうなことは、
「国力回復だな」
最大兵力動員数まで、国力を回復させて、次の行動にだろうか? と言う事は、後2、3年は平和そうだな。と、趙武は考えた。
と言うことで、とりあえず、目の前の問題に目を向けてみた。
「キャ、キャ、キャ」
「それ、それ、お馬さんだぞ〜」
「良いな〜。龍雲のお馬さんは楽しいか桃ちゃん」
「キャ、キャ、キャ」
ここは、泉水に与えられた趙武の家だった。一人で住むには広すぎるこの家は、現在、龍雲、そして、子供を連れた呂亜のたまり場になっていた。
「しかし、変われば変わるものですね。あれだけ、嫌がっていたのに」
「結婚か? しかし、結婚してみると良いものだぞ。仕事終わって帰ると、家の明かりが灯っていて、中では、子供達と妻が出迎えてくれる」
「そうなんですか〜」
「興味無さそうだな」
「ええ、今の所」
「俺は興味ありますけどね〜。子供可愛いし、ね〜桃ちゃん」
「あ〜」
「龍雲は、子供好きなんだな」
「そうですね。好きですね」
無邪気に呂亜の子供と戯れる龍雲を見つつ、趙武は呂亜が結婚した時を思い出した。
「はあ」
「どうしたんですか? 呂亜先輩ため息なんてついちゃって」
「ああ、明日の休みも、お見合いだからな。父上にも困ったものだよ」
「ああ、あれですか。俺が呂亜の父親となった年齢をお前は越えたのだから、いい加減結婚しろってやつですね」
「ああ。まあ、向こうもわざわざ泉水まで来てくれているのだから、会わんわけには行かないしな。とりあえず、会うだけ会って来るよ」
そう言って、趙武の執務室から去って行った呂亜であったが、休日明け、趙武の執務室に飛び込んできた、呂亜の第一声は。
「趙武、俺、結婚するよ」
「は?」
「結婚式は早い方が良いからって、来月の休みにやるから、場所は、泉水でやるから趙武も出席してくれ」
「はあ? えーと、はい。」
「じゃあ、失礼する。さあ準備準備!」
そう言って、呂亜は、執務室を飛び出して行った。
そして、結婚。一人目の女の子が生まれ、今は、二人目妊娠中の奥様に気を使って、上の娘さんの面倒見つつ、趙武の家に、来ているという感じだった。
「でだ、趙武にお見合いの話があるんだが」
「お断りします」
「話ぐらい聞けよ」
「まだ、結婚する気にはなれません」
「しかし、だな。若い、眉目秀麗、将来有望。となると、名家から、うちの娘をって話がいっぱいあってだな」
それで、2回ほど、お見合いをしたのだが、2回とも、相手からお断りが。クールと言うよりは、冷たい。綺麗な方なので、綺麗な女性にしか興味がないのでは、ありませんか? 等と言われたそうだ。
「だけど、断られましたよ」
「趙武、それはお前がいけない。興味がわかないからって、延々と書物読んでたんだろ」
「はい、いけませんか?」
「趙武のこと良く知っている、俺らには良いけど、趙武のこと知らない女性の前ではするなよな。まあ、いいや、わかったよ。しばらく、保留にしておくよ」
「すみません」
お見合い。料理の美味い酒家で、清酒をちびちび飲みながら、書物を読みつつ、相手の話を聞いていたのだが、駄目だったようだ。
と、黙って2人の話を聞いていた、龍雲が呂亜に、声をかける。
「ところで、呂亜さん。俺のお見合い相手は、見つかりました?」
「えっ。ああ、まだ、探し中だけどな。しかし、なかなかいないぞ龍雲。容姿端麗で、武芸百般に通じ、優しい女性って言うのは」
「いませんかね?」
「ああ、武芸百般に通じている女性は、男勝りで、かなり逞しい女性が多いし。容姿端麗だと、趙武みたいに性格に難ありだったり」
「なるほど」
「龍雲。何がなるほどなんだ?」
「いえ、すみません」
「ハハハハ、まあ、でも探してみるよ。龍雲も将来有望だからな」
「ありがとうございます」
結婚に対して興味あるものの、理想も高すぎる龍雲であったが、まだ先の事になるものの、趙武よりも先に結婚する事となる。
相手は、近衛将軍至霊の娘で、至恩の妹、
泉水で、趙武達が、こんな事をやっている頃、大岑帝国帝都大京においても、大将軍達によって激論が戦わされていた。主に話しているのは、興魏と、興越の親子。
「ですから、如親王国が戦力の整わない今こそ、攻略を推し進めるべきです」
「しかし、陛下の体調がだな」
「あなたは、陛下がいないと何も出来ないんですか?」
「何だと!」
「ホホホ、まあまあ、親子喧嘩もほどほどにの」
創玄が、一応仲裁するが、この後も話はヒートアップしていくことになる。
大将軍は、ある程度の軍事行動への自由を保持していた。そこで、興越は、先の大戦に参戦出来なかった事から、東部諸国同盟の一国に攻め込んだ。しかし、敗北し、配置換えとなり、如親王国方面の担当となっていた。後任は、皇帝岑英の弟の岑瞬。
これが、ますます興越の焦りの原因となっていた。そして、思いついたのが、軍を起こしての如親王国への侵攻であった。もちろん単独での侵攻は、不可能だったので、大将軍で会議した上で、皇帝岑英の裁可を仰ぐことになるのだが。
しかしながら、大将軍の会議において、父、興魏の反対にあったのであった。そして、この議論は、3ヶ月に1回行われる、会議で続いて行くことになるのである。
この過程で、今まで存在しなかった、大将軍間の派閥のようなものが形成されていった。
「興越殿、良い考えがありますぞ」
「ホホホ、若い者の活気のある発言は、好きですの〜」
真柏と、創玄が興越に同調し、
「馬鹿な、興魏様が正しいに決まっている!」
「あ〜。どう考えても、上手くいくとは、思えませんね。兄上も反対されますよ」
と、王正、岑瞬は、反対だった。そして、凱炎、呂鵬は、どうだったかと言うと、
「俺は武人だ。陛下が行けと言われれば、死地にでも飛び込んで行く」
「凱炎殿と同じくです」
と、議論は、結論の出ないまま、9ヶ月が過ぎた。そして、呂鵬のこの発言によって、事態が動いていくこととなる。
「時間だけが無駄に過ぎて行きますな。攻めるなら、如親王国の国力回復を待たず、早い方が良いでしょう。みなさん、どうでしょう。陛下の御裁可を仰いでみては」
「良いですな」
こうして、岑英に裁可を仰ぐことになった。岑英は、体調も回復し、遠征こそ医師に止められていたが、馬で遠乗りするまでになっていた。しかし、倒れる前と比べると気力面と言うか、精神面での低下がみられた。
興越、興魏の意見。そして、それに対する賛成意見、反対意見を聞いた。そして、
「凱炎、呂鵬は、どう思うのだ?」
すると、
「わたくしは武人です。陛下が攻めろと言われるならば、そこが死地でも向かいます」
「うむ。呂鵬はどうか?」
「はっ、確かに、攻めるなら今なのでしょう。国力回復する前に叩くのも一興かと」
「そうか、わかった。創玄、総大将を任せる。至霊、
「はっ」
近くに控えていた。近衛将軍2人に声をかけた。
「お前達は、余の代わりに戦ってくれ」
「はっ」
「そして、興越、真柏、凱炎、呂鵬」
「はっ」
「頼むぞ」
「はっ」
「ただし、無理はするな。攻略は、如親王国第二の都市、
「はっ」
こうして、如親王国攻略戦が開始されようとしていた。
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