エピローグ:彼はかけがえのない......
「いーろはーこっちで写真撮ろ!」
「はいはーい」
卒業式も終わって、最後のブレザーもあと数時間したら制服ではなくなってしまう。
華やかに飾りつけされた教室は私たちの門出を祝っていて、それが余計に終わりというものを色濃く表していた。
私たちはその最後の瞬間を刻むため、強がるように思いきり笑って友達と写真を撮った。時間割の関係で、あまりクラス全体での関わり合いはなかったが、それでも二年間、修学旅行や文化祭などで強く結ばれた仲だ。ホームルームクラスの雰囲気は互いに分かっている。
すなわち、泣くくらいなら笑って終わろうというものだった。
私の友達は概ね第一志望に決まった。その中には、
「瀬尾君、写真撮ろうよ」
瀬尾君もいた。
瀬尾君の合格した国立は、どうやら家からは通えないので下宿するそうだ。つまり、一週間後のライブが終わったらもう瀬尾君と会う機会も無くなる。「友達でいよう」というのも、一つはそういう理由があったからだ。他にもいくつか理由があるらしいが、それは教えてくれなかった。
瀬尾君はしゃがんで私にグッと近づく。うち画面のカメラ越しに目が合うが、顔が熱くなる感覚もないし、鼓動も平常のままだ。
「瀬尾君、卒業おめでとう」
「平田も卒業おめでとう」
私たちは互いに祝福し合って、下手に笑いあった。それから何をすることもなく、最後の時間を惜しむように中身のない話を続けた。
春風が窓から差し込んで、緩やかにブレザーの裾と髪が揺蕩う。
「色葉と瀬尾ってさ、」
一通り写真を撮り終えただろう一人が、私たちの間に首を突き出してきた。私を見て、瀬尾君を見て、したり顔で目を細めて言った。
「仲良いけど付き合ってんの?」
私と瀬尾君は顔を見合わせて、今日初めて、心から笑った。
「「友達だよ」」
不条理なんです、恋心 桔梗花 @pneumothorax_
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