走馬灯などの

架橋 椋香

なんか申し訳ない感じの明かりちゃん

 私、バスの窓に揺られ、サイケデリックな街灯が並ぶ帰り道を、ワイヤレスイヤホンのBGMと見つめる。ランニングをする人。犬の散歩をする人。長い荷物を背負っている人。この人たちもまたこの人たちのBGMと、この世界を捉えているのだろう。この人たちと私は同じバスの違う音を聞いている。きっとこの人たちだけではないだろう。世界中の人が何かの音(それは静寂であることもある)と歩いていたり、冷たい息を吸っていたり、揺れていたりするのだろう。

「ふー」

 息をしているのはなんだかおかしい。かわいいクマのかたちのクッキーを泣きながら食べているみたいだな、と幼少期を思い出す。学校の窓ガラスも割らないまま大人になってしまった。ほんとに、壁を知らないまま。イヤホンの中の人は感情のこもっていない声で愛を歌い上げる。私にそれを咎める権利はないし、咎める気もない。さらさらした水、無味で無意味な歌声を慰めにして、ポケットの中のレシートをくしゃ、と握った。


 帰宅して、シャワーを浴びて、最上川。この辺にしておいてテレビをつける。野菜のかたちをした何かを炒めて、つまらないバラエティ番組もまた混ぜて家にする。無味な毒スパイス。緩慢な死の抽象。フライパンを食べて、スマホを見るともう0時。ね

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走馬灯などの 架橋 椋香 @mukunokinokaori

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