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◆◆◆
三学期の始め。
身長が高く、目元にも深みがあって、都会の雰囲気がすごく漂っている。
だけど、ちょっとオラついてるというか、小五とは思えないほどの威圧感を漂わせてたから、クラスのみんなはいつも彼を避けてた。
そんなある日の休み時間。
クラスの子達と一緒に校庭の小さな雪山でソリ滑りをして遊んでいた時のことだ。
ふと校庭の隅で、二人の生徒が取っ組み合っているのが目に入った。
いや、取っ組み合いというか、一人の男子生徒が一方的にもう一人の女子生徒に乱暴を働いていた。
僕は比較的視力が良かったので、遠目でも二人の生徒の顔をはっきりと認識できた。
氷室貴臣と、花宮桜だ。
花宮さんはその名に相応しく、桜のように儚げな女子だった。
家でお母さんと仲良さげにクッキーでも焼いてそうな、ぽわわんとした感じの子だ。
大人しくて友達も少ないから、氷室の標的にされたんだろう。
にしても、女子に暴力をふるうなんて最低なやつだ。
相手が男勝りで体格の良い女子ならともかく、花宮さんみたいな小柄でか弱い女の子を苛めるなんて。
ホント、男のクズだな。
そう思いながらも────
僕は黙って二人の様子を窺っていた。
以前、アニメオタクの兄から借りてプレイした、とあるゲームのことを思い出していた。
それは、色んなタイプの美少女が登場する、いわゆる「エロゲー」と呼ばれる18禁のアダルトゲームだった。
孤島に閉じ込められた美少女達が怪物と戦うという設定だったが、これが結構えげつない内容で、レイプは勿論、串刺しや木っ端微塵、四肢切断、生きたまま食われるなど、過激な描写が多い。
僕も最初にプレイした時は正直言って気持ち悪いと思った。
だけど、怪物に虐げられる美少女達の苦しむ表情を見て、なんだかゾクゾクと不思議な快感が込み上げたんだ。
僕は無意識のうちに、苛められてる花宮さんをゲームに登場するロリ系のヒロインと重ねていたのかもしれない。
「ねぇ、あれって───」
付近でヒソヒソ話す女子たちの声が聞こえる。
どうやら彼女達も氷室と花宮さんに気付いたようだ。
「あの二人、ケンカしてるんじゃない?止めないと───」
突然、誰かに背中を小突かれた。
一緒にソリ遊びをしていた学級委員の
彼だけではなく、他の生徒達も僕のことをじっと見ている。
「先生~。氷室さんと花宮さんがケンカしてます」
できればもっと長く苛められる花宮さんを見ていたかったが、教師としての信用を落とすわけにはいかないので、僕は渋々剛くんと校庭の隅に向かった。
【終】
ある雪の日~HとHとTの場合 オブリガート @maplekasutera
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